甘い話(翔那)




相変わらず那月の料理は散々だった。
レシピの通り、決まった材料だけを入れるべきだとどんなに口を酸っぱくして言っても
どういう訳だか、一向に聞きやしない。

「ごめんね翔ちゃん、美味しくなると思って…」

うなだれる様に机へとへばりつく俺の横で、エプロンをつけたままの那月がおろおろ立ち尽くしている。
その手には大皿盛りのカレー…もどき、が。
香ってくるのはスパイスのつんとしたものではなく、ひどく甘ったるいものばかり。

「やっぱりプリンとマシュマロだけじゃまろやかさが足りなかったよね、次はもっと…」
「いや、寧ろプリンもマシュマロも入れんな!」
「美味しいのに?」
「美味くてもカレーには混ぜちゃ駄目なの!」

思わず声を荒げれば、納得したのかしないのか那月がはぁいと返事する。
まるで子供を教育してるみたいだな、少しおかしくなった。

「あ、そうだ!この前買ったチョコレートがあるんだけど、お口直しにどうですか?」

強烈カレーをそそくさと片付け、那月は小さな箱を持ってくる。
それを俺の目の前へ置き淡色のラッピングを開ければ、中には様々な動物型のチョコが。

「ふふ、可愛い翔ちゃんには可愛い形のチョコレートがぴったりです」
「可愛いとか言うんじゃねー」
「まぁまぁ、早速どうぞ」

いつの間にやら隣の椅子へと腰掛けた那月が、チョコを一粒つまみ上げる。
うさぎ型のチョコを口元へ、あーんしてと言わんばかりに差し出された。
いくら何でもこれは、恥ずかしいだろう。頑なに口を閉ざせば那月はため息を漏らした。

「翔ちゃん、あーんです」
「いやだ…」
「折角の可愛いうさぎさんが、悲しみますよ?」
「どう考えても食われる方が悲しいだろ!」

那月は一瞬、考えるように指先でつまんだうさぎのチョコを見つめた。
あ、流石に気にして食べられないとか言い出すかな…
かと思えば俺の不安をよそに、那月はそのチョコを自らの口へ放った。

「……え」

がたん、椅子から身を乗り出した彼が、近づく。
さっきまでチョコを摘んでいた那月の指先が、唇に触れた。
びくり、身を引こうとするが腕を捕まれ叶わない。
癖のある細い髪が頬をくすぐり、互いの唇が重なった。熱い、柔らかい、何だこれ、キスしてる。

「ん…っ」

割るように侵入してきた那月の舌は甘かった。
思わず舐め取るように絡めれば、とろりとした固まりが互いの舌のあいだでとけてゆく。
甘さも熱さも柔らかさも、どうにかなってしまいそうな刺激で。
やがて全てが溶けあった頃、ねっとりとした仕草で那月の唇が離れていった。

「っは……何、すんだよもう」
「へへ、齧ると動物さんが可哀想ですから溶かしちゃいました」
「それ溶かされるのも可哀想じゃね?」

あっけらかんと笑う那月を見て、いろいろな事が馬鹿らしく思えてきた。
箱の中、今度はネコ型のチョコを手に取る。

「那月、口あけて」
「え?あーん」

一旦那月の口元へと持っていったチョコを、自らの口へ放る。
俺の行動が予想外だったのか
ぽかんと開かれたままの口を、塞いだ。
ぬるぬる溶け合うチョコはとても甘くて魅惑的。
作ってもらうよりも一緒にこうして食べる方が、美味しいよ。
なんて言ったらやっぱり那月は怒るかな。

チョコレートはまだまだ当分、食べ切れそうにないや。



END.









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -