【企画】シャボン玉になった僕(翔那)




きらきらとした泡の球体
ふわり風に揺られながら舞い上がるそれは、形を変え……やがてぱちんと、消える。
なんて儚い存在だろう
ぼんやり見つめる視線の先にはまた新たな球体が。
薄い膜のそれに映る自分はひどく不恰好で、何だか嫌だな、と思う頃には弾けてしまう。
寂しい、と感じた。
けれどもそれだけだった。

「翔ちゃん翔ちゃん、見ててください!次はもーっと大きいの作りますよ!」

少し遠くではしゃぐ那月は、洗剤の小瓶を片手に抱えて真剣にストローを吹いている。
水で薄めた洗剤は、送り込まれた空気でぷわりと膨らむ。
大半がストローの先でぱちぱち消えてしまうけれど、ごく稀に飛び立つことに成功した玉を見て那月はたいそう喜んだ。
そうしてまた、次の球体を作る。
どうせならそいつらの最後も見届けてやればいいのに。
那月の頭上を浮遊するそいつらを見守るのは、いつの間にか俺の役目だった。

「那月、お前よく飽きないな」

ストローの先を小瓶にちょんと浸しながら、那月は俺を見やり小さく笑う。

「はい、だって綺麗じゃないですか」

屈託のない笑顔。
彼の瞳に映るそれはきっと、とてもとても美しい色形なのだろう。
同じものを見ているはずなのに自分と彼とでは見える世界が、感じる世界が違うのだ。
それは当たり前のことだけれど少しだけ寂しかった。

「あ、翔ちゃんもやってみます?」
「なんで」
「楽しいからです!」
「えー」

楽しいかどうかはさておき、はしゃぐ彼の好意を無碍にすることも出来ず素直に小瓶とストローを受けとる。
ストローの先をちょんと液体に浸すだけで、那月は爛々と輝いた目でこちらを見ていた。まだ早いっつの。

「翔ちゃん翔ちゃん、大きいのお願いします!」
「その注文はちょっと無理だぞ…」

そっと口をつけ、ふうと息を吹き込む。途端にいくつもの球体が目の前に広がった。
小さな球体、中くらいの球体、時々双子のようにくっついたものまで様々で、けれども大きな球体だけは見当たらない。
宙をゆったりと浮遊したそれらはやがて地へ落ちぱちんと弾けて消えたり、ごく稀に風へと乗ってどこかへ流される。
自然と互いの視線は遠くを目指すシャボン玉たちへ注がれていた。
不安定に揺らめく薄い膜は、光を取り込んで時折きらりと輝く。
それは那月と俺とを隔てるあの二つのレンズみたいで、なるほどだから俺達の見ている世界はどこか違っているのか、と納得した。
再びストローを小瓶の中に浸す。
ふう、と今度は先ほどよりもわずかに息を強めてみればなるほど球体たちは心なし大きな円を作り上げた。
どこからか風がゆったりと吹き上げる。舞い上がる球体はあちらこちらと宙を彷徨い、そのたび那月の視線はふらふら追いかけていた。

「あ、見て見て翔ちゃん」
「ん?」

風に乗る球体を追いかける那月の鼻先に、ぴたりと大きなシャボン玉がくっつく。
その様がなんだかおかしくて思わずぷっと吹き出せば、つられるように那月も笑みを零した。
途端にぱちんと弾ける球体。
あ、名残惜しそうな声と共に那月の瞳がゆらゆら輝く。レンズのこちらから見ればまるで彼がシャボン玉に閉じ込められているみたいだと思った。
それはつまり、那月からすれば俺がシャボン玉の中にいるように見えるわけで。
隔てる膜が急に、憎く感じる。

「……那月、動かないで」

精一杯の背伸びで近づいた那月の瞳は、やはり膜の向こうにあって少し遠い。
すっと通った鼻筋の、つんとした先端へ己の鼻先を触れ合わせる。
なぁ那月、俺も膜のそっち側にいけば不恰好には見えないかなあ。
薄く開かれた唇へと己の唇を重ねる。
形を変えて何度も何度も触れ合うそれは、まるで重なり形を変えるシャボン玉のようだった。
やがて、ちゅっ、と音を立てて離れる。
至近距離で見上げた瞳は相変わらず膜の向こうで、けれども揺らめく色はきらきら輝いた。

ああそっか、これがお前の見ている世界か。
手にしたままの小瓶とストローを那月の手に握らせる。何も言わない、けれども屈託のない笑顔で那月はストローにふうと吐息を込めた。
舞い上がる儚い球体の行く末をやっぱり那月は見送ることなく、代わりに俺がじっと見つめた。
風に乗って形を変えて、やがてぱちんと消える存在。
それでもシャボン玉の内側からのぞいた世界はどこまでも寂しく、綺麗だった。



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うたプリBL企画 】様に提出しました
素敵企画に参加させて頂き、本当に有難うございました!
余談ですが、先日ジョ●で「ジャンボシャボン玉なんてチョチョイの●ョイやでぇ!」と言いながら作ってみたら、ストローに空気を送り込んでいる途中で呆気なく弾けました。
もうシャボン玉遊びなんてやらないよ、そう心に誓った冬の日。

20111129 よかん









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