【企画】口先で紡ぐ糸(龍レン)




自分は面倒見がよい方ではないと思う。
芸能活動も万人受けというよりは一部のコアなファンから熱狂的支持されるタイプのものだろうし、かといって教師業に力を入れている訳でもない。
おそらく平均並みに生徒たちの面倒を見て、時々ああだこうだと口出しして。
特別一人だけを気にかけてやるなんてこともせずにここまでやってきたし、これからも変わらず教師と生徒、芸能界の先輩と後輩の距離を保っていくつもりでいる。
いたのだが。

「リューヤさん」

元々俺のファンだという来栖みたいな奴とは違う、勉強熱心な生徒という訳でもない寧ろ不良と言い表してもいいほどの問題児。
かろうじて担任教師と生徒、という繋がりがあるだけ程度の神宮寺レンが。
どういう訳だかここ最近やけに俺の傍をうろちょろし始めたのは、一体どんな裏があるのだろうかと声をかけられる度疑問に思う。

「忙しそうにしてるけど昼食は取らないの?」
「忙しそうに見えるんなら声かけんじゃねーよ、とっとと食堂でもどこでも行ってこい」
「はは、リューヤさんつれないなぁ」

しっしと邪険にあしらうが、さして気にした様子も見せず彼は立ち去る。
消えた方からは女性特有の華やかな声が響いた。どうせまた侍らせて歩いているのだろう、ロクな生徒じゃない。
そもそもあいつが俺に懐く…と言ってよいのかは分からないが、周りをうろちょろし始めたキッカケってのは何だったか。
思い出そうにも心当たりがあまりにもなさすぎる。
寧ろ、事あるごとに口うるさく説教する教師だと思われているつもりだったが。

「…さっぱり分からん」

教員室で一人、購買産の味気ないサンドイッチを頬張りながらつぶやく。
午後の授業に備えて資料の読み直しでも、と手にしたプリントの文字を追うが先ほどから一向に頭になど入ってこなかった。
というかあいつ、先週の課題出してやがらねぇ。
さては誤魔化すための機嫌取りのつもりか、そうなのか。
噛り付いたパンを咀嚼するごと次々浮かぶのはどういう訳か神宮寺の事ばかり。
おかしい、何がどうおかしいのかうまく説明はできないし、自分の担当する生徒なのだから気にするのは当然ではあるのだが。
考えれば考えるほど思考がぐちゃぐちゃなりそうだ、まるで糸が絡まるみたいに。
そんな調子で午後の授業も終えた頃、つい彼を目で追っている事実に少なからずショックを受けている自分がいた。

「…今出した課題の期限は来週末だからな、絶対提出しろよ。んじゃ今日は解散」

その言葉と同時に鳴り響くチャイムを皮切りに、学園中が一斉にざわつきを見せた。
いくらアイドルを育成する特殊な場とはいえ、ここに集まる生徒たちは皆まだ十分に子供なのだと改めて思う。
放課後どこへ行こう、何をしようとはしゃぎ合う彼らに微笑ましい視線を送りながらさて教室を出ようとしたところに、案の定声がかかった。

「リューヤさん!」
「…またお前か」

顔だけちらりと振り返ればすぐ近く、わずか見下ろす位置に神宮寺の青い瞳がふたつ並ぶ。
また、と言われたことに気を悪くする素振りもなくにこりと微笑んで、彼はずいと俺に一歩近づいた。
無駄に綺麗な顔がひょいと覗き込む。
同じ男だと分かっていてもどうしてか一瞬どきりとしてしまい、思わず視線を逸らした。

「何の用だ」
「先週の課題、まだ提出してなかったからね。はいこれ」

半折にされたプリントを手渡される。
確認すると、珍しく完璧にこなされている内容にいっそ違和感さえ覚えた。

「…しらばっくれるかそもそも忘れてるかと思ったが、お前にしては偉いな」
「何それ、リューヤさんって時々俺に対してひどいよね」
「普段の素行が悪いからな」

じゃあと教室から出て行く生徒たちに続くように、背を向けドアをくぐろうとする。
瞬間…ふと、思いついた事。
それは絡まった糸の一端をようやく見つけた時のようなすっきりと気持ちのよいものではなく、寧ろ余計絡まってしまいそうな考えだけれど。
俺の隣を、教室に残っていた最後の生徒がすり抜けてゆく。
残されたのは彼と自分の二人きり。

「おい神宮寺」
「ん?……えっ」

振り返った先、9センチ下にある青い瞳を形取る整った睫毛が綺麗だった。
だらしなく巻かれた彼のネクタイを掴む。
彼がこれ以上何かを言う前に、俺の思考をぐちゃぐちゃに絡ませる言葉を紡ぐ前に。
今更簡単になど解けそうにないそれは、鬱陶しいからいっそもう。
掴んだ糸の一端を引く。
薄く開かれたやわらかなそこへ、ちゅ、と縫い付けた。

「…なっ、に…」
「珍しく課題やってきたからな、ご褒美だ」

はは、ざまーみろ。
彼が纏わりつくほど、何かを言うほどぐちゃぐちゃになった思考。そんなものとはこれでおさらばだ。
俺という糸の一端を彼に縫い付けた、今度からぐちゃぐちゃ絡まるのはお前の番だよ。
掴んだままのネクタイを離す。
にいっと悪戯な子供のように笑みを向ければ、途端に神宮寺はお綺麗な顔を真っ赤に染めた。
確信する。こいつ絶対俺の事好きだろ。
だからといって何をどうすることもない、今までみたいに周りをうろちょろしたり好き勝手にすればいい。
けれどそれじゃあいくら面倒見がよくないからって冷たすぎる。せめて名前を呼んでやろう、お前が呼んだみたいに。

「次もやればもっかいキスしてやるよ、レン」

ほらまた糸が、絡まった。



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言葉はふしぎな糸となって二人のあいだを繋ぐのです。
レン受け企画【アメジストに恋をして。 】様に提出しました
素敵企画に参加させて頂き、本当に有難うございました!

20111016 よかん









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