おはなししようよ(翔那)




「しょーおーちゃんっ」

ごろごろ自室で雑誌を読んでいる最中。
むぎゅ、なんて擬音が聞こえそうな勢いで俺は抱き締められた。
正しくは、乗っかるように背後から抱きつかれた、である。
別段驚く事はない、もはや日常と化したこの状況を
かといって享受するつもりもなく、俺は抱きついてきた大男…那月の腕を、がしりと掴んだ。

「…あのさぁ、俺いま、読書中なんだけど」
「はいっ!雑誌に夢中な翔ちゃん可愛いです!」
「何でそれが可愛いに繋がんだよ!」

ぐい、馬鹿力で抱き締めてきた腕を必死で押し返す。
体格差も筋力差もある那月の力はとても強力で、けれども俺がほんのちょっと抵抗を見せれば、その力を緩める。
その隙にするりと腕から抜け出せば、残念そうな表情で那月が身を起こした。
あれ、
普段と変わらぬやりとりをした筈なのに、なぜか彼のその表情が気に掛かった。

「いきなりどうした?那月」

手にしたままの雑誌を閉じ、しょぼくれた彼の隣へ腰掛ければ。
やがて那月もつられるように座り直した。
身長差のせいでだいぶ高いところにある彼の顔を覗き込めば、その姿と同じでやっぱりしょぼくれた表情。
年上のくせに、こういう部分を隠さず素直に見せてくれるのは嫌じゃない。
やがて那月はぽつりぽつりと口を開いた。

「…今日、レコーディングテストで忙しかったよね」
「ああ、まぁ、確かに」
「それで、部屋に戻ったら翔ちゃんはすぐ課題始めて」
「珍しく今日はやる気あったからな!…え、何?」
「…僕、翔ちゃんと今日あんまりお話ししてません!」
「………」

ぐ、と顔を近づけ訴えるその目は、心なしか涙ぐんでいた。
いやいや待て、おかしいだろこれ。
確かに今日はいつもと比べりゃ那月との会話が少なかった。
それでも朝はおはよう、飯も一緒に食べたし休憩時間だって共に過ごしてた。
今だってこうして部屋で二人、一緒の時間を過ごしている。
十分、スキンシップを取れているのではなかろうか。

「つーか普通に話し掛ければいいだろ」
「でも翔ちゃん、雑誌読んでました…」
「別に、話し掛けられりゃ答えるって」
「そうじゃなくて…」

目に涙を浮かべたまま、俺をじっと見やる那月。
唐突に俺は理解する。ああ、そういう事か。
ふわふわの金髪に手を伸ばし、わしゃりと指を絡める。
一瞬びくりとした彼は、けれども撫でる手のひらが心地好いのか
分厚い眼鏡の奥にある瞳を、わずかに弛ませた。

「那月、俺と話すの好きか?」

くしゃくしゃと撫でる髪はふわふわで。

「はい、翔ちゃんと顔を見合ってお話しするの、大好きです!」
「俺も那月と話すの好きだよ」

ふにゃりと頬を弛ませて微笑む那月のその表情も、とてもふわふわしていて。
年上のくせに素直な反応が、
何だかたまらなく、可愛かった。



END.









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