初めてなので。(翔砂)2





那月のことが嫌いな訳じゃない、寧ろ好きだ大好きだ。
けれどもそれは友達として、ライバルとしての感情であって決して恋愛のそれではない。
出来ることならば那月には俺への気持ちに気づく事無く、今まで通りの関係を続けてほしい。
だから。

「そういう欲求は俺の方で解消しろってことか」
「…まぁ、そうなるな…」

どういう訳だか至近距離で向き合った砂月の瞳を見上げれば、不満と羞恥がせめぎ合っているかのような何とも複雑な視線を寄越される。
対する俺は今更押し寄せた後悔と、たちの悪い好奇心とが共存していた。
俺は那月と砂月に対して非常に興味がある。男の俺に発情するなんてよっぽどの想いがない限り、あり得ないだろう。
そんな行き過ぎた感情を受け止めてやれる自信はない。それでも少しくらいは受け入れてやれる筈だ。
だからってなんで、こんな事になってるのかと問われれば歯切れの悪い回答しかできないのだが。

「…いいか砂月、あくまでもこれはお前の欲求不満を解消する為だかんな」
「余計な事を…」
「余計ってなんだよ!おとなしく一方的に夜這いされてろってか!」
「ぎゃあぎゃあ喚くなチビ」

俺に対して恋愛感情を抱いているとは到底思えない態度と発言、しかし表情には説得力がなかった。
腰掛けたベッド、近づくように体をずらせば砂月は構えるように心なしか身を引く。
お前が言い出したんだろ、逃げようとする腰に手を回すと体格がよい割に華奢な体がひくりと震えた。
身長差のせいで見上げるというよりは覗き込むと表現した方が正しい位置にある砂月の顔に、己の顔を寄せる。
きゅっと彼が瞳を閉じたのはまるで合図のよう。
ためらいもなく、口づけた。

「んっ…」

ふわりとした癖毛が頬を撫でた。ちゅ、ちゅ、と角度を変える度にそれはとてもくすぐったい。
遠慮がちに絡めあった舌先の感触と相まってなんだか全身が震えるくらい、分け合う刺激は心地よかった。
肉厚な舌へと吸い付けば砂月は拒否するように俺の肩を掴む。そのくせ手にはまったく力が入ってなどいなかった。
たっぷりと時間をかけて唾液を分け合う。
流石に苦しくなって離した唇からは、互いを繋ぐように糸が伝ってなんだかやけに恥ずかしかった。

「っは…砂月、平気か…?」
「ん…」

普段の強気な表情とはかけ離れた、とろんと零れてしまいそうに赤くなる砂月。
うわぁ、なんだこれ初めて見た。大人しいし無駄に顔だけはいいしちょっと可愛い、なんて思ってしまう自分に違和感さえ覚えない俺。
不意に肩を掴んだままの手へぐっと力が込められる。
その手が俺の体を押したと思った途端、ぼすん、と自分の体はベッドに沈んだ。
…あれ、これもしかしてやべぇんじゃねぇの。
抗議の言葉を紡ぐより早く乗りあがってきた砂月の体がぴたりと重なった。いくら服を着ているとはいえ密着する下半身にぎくりとする。
砂月のでかい手が俺の股間をまさぐる。おいおいおい、焦るが一度言い出した手前引くことは出来ずどうしたものかと眉間に皺を寄せた。
その内手だけではなく衣服越しに彼のそこを、ずりずりと擦りあわされる。
引っ張られるのと擦れるのでちょっと痛いような、でも気持ちいいような複雑な状況。
砂月のスウェットを引っ張り下着の中へと手を滑り込ませれば彼のそれはすっかり膨張しきっていた。

「あっ…てめぇ」
「何だよ、これが目的だったんじゃねーの」
「…まぁ、そうだけどよ…」

自分以外の男のそれなんて当然初めて触ったけれど。
飽くなき好奇心のせいだと言い聞かせながらふにふにと先端を撫でれば、砂月は俺の肩口に顔をうずめた。
耳元で響く吐息は短く、それでいて荒い呼吸を繰り返す。
嫌がる素振りは一切なかった。ああ気持ちいいんだな、なぜか嬉しくなる。
どうせここまできたんだ、嫌悪感がないんだからどうせだったら。

「…砂月、もっと気持ちよくしてやるから服脱げ」

彼は一瞬躊躇うように俺を見下ろし、けれど文句のひとつも零さず服を脱ぎだした。
でかいくせに細っこい真っ白な身体が闇の中に浮かび上がる。
初めて見た彼の肢体に思わずうわぁと感嘆の声を漏らせば、何じろじろ見てんだ馬鹿、と案の定罵られた。
再び俺に跨って身を屈ませようとする砂月を、待ってと止める。そのまま押し返すように胸を押せば今度は砂月の身体がぼすんとベッドに沈んだ。
細い割には筋肉のついた内腿を撫で、じりとにじり寄って内腿に舌を這わせる。
膝から付け根へとなぞるように舐めあげれば、皮膚の薄いそこは少しの刺激にも敏感なのか砂月は耐えるように唇をきゅっと結んだ。
自然と砂月の性器に顔が近づく。まじまじと見れば中々凶暴な形をして入るけれど矢張り嫌悪感はやってこない。
腿を撫でながらごく自然に、性器に舌を這わせようとした。

「っ…ばかチビ何やってんだよ!?」
「へっ」

途端、砂月の手がとてつもない勢いで俺の肩を押し上げる。
やばいしくじったかも、と彼の顔を見やるがその表情は嫌悪や拒絶ではなく、ただ純粋に混乱を表していた。

「…ごめん、嫌だったか?」
「いや…っていうか、そんなの、舐めるモンじゃねぇだろ。やる理由もねぇし…」
「折角だし気持ちよくしてやろうと思ったんだけど」
「…気持ちよく?なんで舐めて気持ちよくなると思ったんだよ」
「へっ」

砂月の混乱が今度は俺にまで感染する。
あれ、ちょっとまてこの反応って。
忘れていたが砂月の知識は那月が抱えているものと同じ、ということはつまり。

「…砂月、つかぬこと聞くがお前オナニーは知ってるよな」
「馬鹿にしてんのか、アレ擦る事だろ」
「ああうん那月も知ってると思うと複雑だな…で、セックスは?」
「キスしてアレ擦ったり相手の触ったりするんだろ」
「…触りあうだけ?その後は?」
「気持ちよくなったら寝る」
「……」

まさかとは思っていた、思っていたが改めて砂月の口から告げられると中々に困惑する。
恐らく那月の事だからそういう知識は教育で学んだ程度、下手すればそれすらまともに理解してないのではと疑っていたがあながち間違いではなかった。
砂月はといえば何でこんな事聞いてくるんだ、と言いたそうな表情でこちらを見つめている。
どうしよう、やめておくべきか。
思っていたより純粋な、目の前に鎮座する年上の男の扱いを決めかねていると砂月はじとり、と俺の下半身を見た。

「ていうかチビお前、なんで服着てるんだよ」
「別に俺脱ぐ必要ねーじゃん、砂月の欲求満たすためだけなんだし」
「脱げ、那月にばっかこんな恥ずかしい格好させる気か」
「なんでお前じゃなく那月なんだよ…」

せっつかされて渋々服を脱ぐ。
それなりに鍛えているはずの身体だが体格差のある彼の身体に比べれば、悲しくなるくらいに自分は細いというか…小さい。
何じろじろ見てんだ、と先ほど言われた言葉をそっくり砂月に返すと砂月はベッドに座り込んだ俺を頭から下までじっくり見つめて、赤面した。
そうだった、こいつ俺に発情…もとい欲情するタチだったんだ。
眉間に皺を寄せて気まずそうに視線を逸らした砂月は、それでも俺が気になるのかちらちらとこちらに視線をよこす。

「っ…あーもう気になるんなら見ろ!堂々と!」
「別にそんなんじゃねー」
「そんな風に見ながら説得力ねーぞお前」

観念したように砂月は、そんなんじゃないと言っておきながら食い入るように俺を見つめる。
主に下半身を。変態かお前は。
やがて砂月の指先がつん、と俺の大事な部分をつついた。
初めは俺の反応を窺うように、けれどもすぐその手つきはいやらしさを持ち始める。
大きな手のひらに包み込まれる。見た目にはしなやかそうな指は案外男らしく、ごつごつと硬い指の腹がやんわりと裏筋を撫でた。
ひくりと反応を示す己のそこは、けれども僅かに硬くなっただけ。

「…気持ち、よくないのか?」
「うーん…お前指ごつごつしてるし、手じゃそこまでは」

緩く上下に擦られ、先端をふにふにと撫でられる。
初めよりは大きくなりはしたが矢張り俺のそれは中々勃起とまでいかない。
ぴたりと砂月は手を止め、何かを思案するように口を閉ざした。そうしてたっぷり間を置いたと思えばいきなり俺の腿を掴んだ。
ぐいと強引に広げられた脚の間へ砂月の顔が近づく。

「なぁ、もしかしてさっきお前がしようとしてた事って手より気持ちいいのか?」

好奇心に駆られているのは俺だけではなく彼も同じだろう。
信じられないものを見るように、どこか不安そうに俺の一物を眺めながらも砂月は手を伸ばした。

「…舐めるもんじゃねぇって言ったの、砂月じゃん」
「その筈なんだけどな」

ふう、と生暖かな息がかかる。
ややあって砂月の唇から覗いた舌がぺろ、と先端を舐めた。
うわ、なんだいまの。見下ろせば砂月も俺と同じような目でこちらを見上げた。
砂月は続けて側面や裏筋、根元を舐める。
知識がないからか唾液をつけずに触れるもんだからちょっと引っ張られる感覚が痛くて、そのくせ熱い舌に触れられた瞬間びくりと何度も背が震えた。

「…チビのくせにデカくなったんだけど」
「いちいちそういう報告いらねぇよ…なぁ砂月、舐めるだけじゃなくて口ん中に入れることって出来る?」
「は…?」

告げた途端彼の顔色が変わる。
いよいよ信じられないといった風に見上げられて、ああ流石にこれは無理かと提案を取り下げようとしたが。

「…入れるってどんな風にだよ、咥える感じでいいのか?」

砂月は俺が思っていたよりも素直で勉強熱心なのかもしれない。




じゅぷり、と砂月の唇から唾液が零れる。
それは俺も同じで、咥えるには少々大きな砂月の性器をなぶる唇の端から、たらたらと唾液が伝い落ちた。
寝転がった俺の上に砂月が乗っかって。お互いのそれを舐めあって。
なんだかとんでもない事を仕出かしてしまったような気がする。

「んっ…ふ、う」

ぎこちなく上下する砂月の顔は、この位置からじゃよく見えない。
信じられないほど艶めいた声のせいでさっきからもうずっと、俺のそこは爆発寸前に膨れ上がっていた。
砂月の性器も大分硬度を増して、先端からは透明な液がたらたらと溢れている。
舐められるという行為が余程気持ちよいのだろうか。はたまた、舐めるという行為に目覚めてしまったのか。真意を訊ねる度胸はあいにく持ち合わせていない。
砂月の舌が先端へ割り入るようにぐっと押し当てられる。
うわ、そろそろやばいかも。咥えていた唇を離せば砂月は止められた愛撫に、なに、とこちらを見やった。

「ごめん俺、そろそろ出そう。出るって意味分かるか?」
「それくらい当たり前だろ、馬鹿にしてるだろお前」
「ははは、悪い」

俺の唾液でべとべとになった性器を震わせ、その向こうに砂月の顔が覗く。
ぼうっと赤らんだ頬にとろとろな瞳は砂月というより那月に見えて、一瞬ぎくりと口を噤む。
だが目の前にいるのは間違いなく、砂月。何焦ってるんだ俺。

「…あのさ砂月」

急に、身体の奥がやけに熱くなる。
俺は那月どころか男に発情するような人間じゃない。これは彼の欲求を満たすためと純粋な好奇心からくるもの。
言い聞かせるような言い訳を何度も何度も心の中で唱える。
そうしないと今のこの状況が俺にとって、いけない事にしか思えなくなってしまうから。

「セックスしたいんだ、真似事でいいから」
「…?触り合ってるだろ」
「それ、勘違いしてるからお前」

砂月の脚をぐ、と掴んで己の上から退かす。
バランスを失った砂月はくたりとベッドに寝転がった。その上へ今度は俺が覆い被さる。

「うつ伏せになって」
「…どういう事だよ」
「気持ちよくしてやるって言ってんの」

言われるがままに砂月はうつ伏せの体勢をとる。
見た目以上にがしりとした腰を掴み、下半身を摺り寄せた。
砂月の唾液でべとべとになった性器を脚の間へと滑り込ませればおよそ彼らしくない様子で、ひゃっ、と驚きの声を漏らした。
性器の根元、敏感なふたつの膨らみを先端で擦りあげる。内腿がひくひくと戦慄いた。

「ちょっ…待て、何して…」
「言ったろセックスの真似事だって、気持ちよくないか?」
「分かんねぇって…あっ」

閉じられた脚の間をず、ず、と何度も出入りする。
互いの唾液と砂月の先端から伝い零れた先走りで滑りは順調だった。
身を屈めて彼の背に口づける。こんなに広くてでっかいくせに、さっきからひっきりなしに聞こえる彼の声は情けないくらい可愛らしかった。

「ひっ…あ、やだ、なんだよこれ…」

弱々しいくせに色香のある声音。
やたらと鼓動が激しくなる。あれ、もしかして俺今、発情してんのかな。
擦りつける内腿の肌触りのよさはどこか心地よかった。
先端に触れる熱と先走りでもうそれがどちらのものなのか分からない。
ぐちゃりぐちゃりと乱れてゆく音と互いの激しい息遣いはもう、限界を示していた。

「やば、出る…」
「俺、も…あっ!」

どくん、と先に射精したのは砂月だった。
びゅくびゅくと勢いよく吐き出されたそれはシーツに大きなシミを作る。
背をしならせ脚をひくつかせ、シーツをぎゅっと手繰り寄せながら彼はその快感に打ち震えた。

「さつきぃ…」

名を呼べば涙の滲む瞳がこちらを振り返った。
脚の間から性器を引きずり出し、彼の尻朶に擦りつける。
柔らかな双丘の間を何度か行き来して、ようやく限界に至った熱を彼の腰へと吐き出した。

「うわっ…何出してんだよ…」
「っ…悪い、つい」
「気持ちよかったから許すけど」
「…そうですか」

振り向きながらこちらを見上げるその目はやけに優しかった。
やばい、やっぱ可愛いかもこいつ。発情したとかそんなんじゃないのに変にどきどきした。

「まぁでも…多分もう、夜這いはしねぇよ」
「え、たった一回で満足なのお前」

僅かに息を乱したままごろりと砂月は横たわる。
俺よりはるかにでかくて、そのくせしなやかな白い身体。俺が組み敷いた身体。男の癖に気持ちのよかった、身体。

「今度はストレートに誘ってやるよ、だからまたセックスしようぜ」

お前、今日のあれはちゃんとしたセックスじゃねえんだけど。
本当のそれを教えてしまったら彼は今度こそ嫌がるのだろうか、いやそんな訳ないか。
だってあいつ素直で勉強熱心で、多分俺より好奇心旺盛だ。
同じ身体を分け与えた那月とやはり根本は同じなのだと気づいて少しおかしかった。

「いーけど、あくまでお前の欲求不満の解消だかんな」
「はいはい」

俺はこの男に発情なんてしないけれど。
なんとなく口寂しくて、けらけらと笑う唇にそっと自分の唇を重ねた。



END.









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