指先より愛を込めて(龍レン)1




「俺、リューヤさんの手すきだな」

レンの細長い指が絡み付くように龍也の手を取って、ぽつりとそう零す。
声はとても穏やかだった。自信に満ち溢れた風でも甘えた風でもない、ただただ穏やかに彼の口から流れ出た。
つい先程までペンを握り忙しく動いていた龍也の右手はレンによって自由を奪われてしまった。
机の上、白紙に書きかけの文字が次の一画を待ちわびている。恐らくその続きを書いてやれるのは大分後になるな、と龍也は思う。

「何で手なんか好きなんだ」

椅子に座る龍也の隣、机に腰掛けて仕事を邪魔するレンは特徴的なたれ目を細めて微笑む。
薄く形のよい唇が半月を描き、奪い取った右手の甲にちゅっと口付けた。
唇はさらさら肌を滑り徐々に指へと向かってゆく。節の太い関節をはむりと愛撫して、男らしい割に心地よい人差し指の腹にぺろと舌を這わせた。
たっぷり唾液を含んだ唇はねとりと指先を包み込む。
目蓋を落として、はぁ、と熱い息を吐き出しながらレンはゆったりと指の付け根までを銜え込んだ。
短く切られた爪がレンの上顎に触れ、刺激にひくりと喉が震える。
その様子を龍也はじっと見つめながら、頭の中では別の事を考えていた。




『リューヤさんの手って男らしいよね』

ある日の行為中にふとレンは、彼の手を見つめながら呟いた。
胸を撫でる手は大きくごつごつとしていて、指も長く太々しい。同じ男でありながらすらりと細長い指を持つレンのものとは大分違っていた。

『神宮寺の手が華奢すぎるんだろ』
『そうかなぁ』

太い指先、僅かに伸びた爪がレンの胸の飾りを刺激する。ひくん、と龍也の下に組み敷かれる体が反応を示した。
好きなのか、龍也は笑って何度も引っ掻く。
ふにふにと柔らかだったそこは少しの間にぴんと立ち上がってしまった。

『やっ……リューヤさん、それやだ』
『嫌だって、そんな風には見えねえけど』
『……オジサンみたいな事言うね』

ぷくりとそそり立った突起は擦られた所為かひりりと赤らんでいる。
執拗に爪を立てるとそのうちレンのあげる声に少々不愉快さが見え始めた。

『…痛いってば、そこばっかり』

流石にやりすぎたか、諦めて下方へと手を滑らせる。
色素の濃い肌は見た目よりも柔らかく、まるで龍也の手のひらへと吸い付くようだった。
脇腹を撫ぜたり臍の窪みをやわやわと刺激すれば、レンは小さく身を捩る。
擽ったそうにくすくすと笑う声は少しずつ、雄の嗜虐心を刺激してゆく。たっぷり焦らすように撫でてから、主張するように震え立ったレンの性器へと手を伸ばせば彼の声音はより一層艶を増した。
かさついた指先が熟れた性器をなぞる。
先端からぷくりと溢れた液体を掬い、指の腹でねとりと性器へ塗り広げた。

『あっ…ちょっと気持ちいい』
『ぬるついてる方が好きなのか』

レンは少しだけ恥じらうような表情を龍也へと向ける。
だが今更取り繕う必要もないだろう、まあね、と口角を上げて笑った。

『気持ちいい方が好きなのは当然だよ、リューヤさんだってローションとかぬるぬるにされて触られるの好きでしょ?』

レンの手がそろりとスラックスへ伸びる。
片手で器用にボタンを外しジッパーを下げれば、下着に隠された龍也の雄はきつく膨らんで僅かな湿り気を帯びていた。
合わせ目からレンの指が侵入する。硬いそこに触れた瞬間、きもちいい、と龍也は思った。
若者らしく張りのある指先はどこか艶やかだった。水気などなくたって撫でられるだけで心地好いレンの指は、龍也の武骨なかさつく指とはまるで別物だった。
今まで意識することのなかったそんな違いに、行為の最中にもかかわらず龍也の意識は夢中になっていたのだ。
レンの綺麗な肌、頬だって唇だって胸だって、大事な部分だって。どこも傷つけてしまうことを躊躇うほどに綺麗なのだ。
そんな彼に触れる龍也の男らしい手は果たして、純粋な快感を与えてやれているのだろうか。荒く切られた爪で引っ掛かれ、かさつく指でなぞられ、心地よさを感じられるのだろうか。
一度だって気付かずにいたそんな事を急に、龍也は意識していた。




その日以来少しだけ、柄にもなく手に対してのケアを気にするようになった。
爪はいつだって短く丁寧に切り揃えて、べたつきの少ないハンドクリームを塗るようになった。
レンを傷つけないため、気持ち良くさせてやるため。いやらしい行為をするための手が今まさに彼自らによっていやらしく愛撫を受けている。
すべらかな指の股をレンの舌が舐める。短い爪を喉の奥へ擦り付けるよう彼の唇が動く。
唾液に塗れた指をぬぷりと唇から抜いて、レンは机から降りるなり着ていたシャツをばさりと脱ぎ捨てた。
椅子に座る龍也の上へ、乗りあがるように腰を下ろす。
ねとつく右手を取って自らの胸へとあてがった。

「ね、いじめて?好きなように触ってくれていいから」

見下ろす視線はどこまでも性的だった。
ついさっき、手が好きだと呟いたあの人間だとは思えないほど熱い息を吐きだすレンの姿にごくりと龍也の喉が鳴る。
唾液に塗れた指先でつう、と胸の飾りをなぞる。柔らかなそこは幾度か刺激を繰り返すうちにぷくりと赤く膨らんだ。
引っ掻いてやろうと爪を立てるが生憎短いこの爪では叶わず、楽しみを一つ失った事を少々残念に思いながら龍也は胸元に唇を寄せた。
きゅっと摘んだ先端を舌先でつつく。頭上から、ん、と張り詰めた吐息が聞こえた。

「舐められんのが好きなのか」
「……そんなんじゃないよ」

少し苦しそうな声音はどこか我慢しているような印象に見える。否定を肯定と受け取って、レンの小さな突起を執拗に舌でなぞった。
レンの両手が龍也の髪を撫でる。幾度か梳くように髪を撫で付け、後ろ頭を抱え込むように抱き寄せた。
まるで自らねだっているようだ、龍也は声を出さずに笑う。人はいつだって快楽の前では素直な生き物だった。
突起の先端に軽く歯を立てる。やんわりと甘噛みすればレンの両手には少しずつ力が込められていく。

「あっ…やだ、それヘンタイみたい」
「でも好きだろ」
「っ……リューヤさんって結構意地悪いよね」

ず、とレンの腰が深く落とされる。擦れ合う張り詰めた雄は服の上からでも分かるほどの熱を帯びていた。
ちゅ、と胸に吸い付いたまま龍也の指は下方へ滑ってゆく。臍の窪みを撫でて、早急にレンのスラックスのボタンを外した。
ジッパーを下げれば黒のボクサーが覗く。手を差し込むと湿り気を帯びた性器がぐっと首を上げていた。
弾力のある先っぽを指の腹でつつく。軽く触れるだけで割れ目からはじわりと液体が溢れだし龍也の指を濡らした。

「下着、汚れる」
「自分で脱ぐか?」
「……脱がしてほしいかな」










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