初めてなので。(翔砂)1



※どことなくアホなエロ





那月と同じ姿かたちで、那月とは違う砂月。
詰め込まれている知識は同じ筈なのに考え方がまるで違うあいつが最初はとても苦手だった。
狂暴だし。いつも那月の事しか考えてねぇし。
絶対俺のことなんて邪魔な存在としか見てないと思っていた。

「…チビ、もう寝たのか…?」

そんな砂月がどういう訳だか毎晩現れるようになってもう一週間。
決まって那月が眠りについた後、自分から出てくる。
だからって特に何かをするって事もなく、ベッドに眠る俺の方をしばらく見つめた後すぐ寝付くんだけれど…今日に限って、砂月は俺に声をかけてきた。
さて、これは果たして答えるべきか否か。
どうせろくな事になんてならないと踏んだ俺はそのまま狸寝入りを決め込むが、砂月は一向に寝付く気配がない。
何をしているのだろうか、気にはなれど背を向けている所為で目視する術はない。
あくまで眠っている体を装いながらも意識を耳に、背に集中させていればやがて衣擦れの音が聞こえてきた。
ああ、眠るのか。安堵しかけたその直後、ぎしりと床が悲鳴を上げた。
空気が震える。
まさか、思わず息を呑む俺のすぐ後ろで足音は止まる。ややあって掛けていた布団が捲られ…

「っておい何してんの!?」
「…起きてたのか」

がばりと身を起こせば、俺のベッドへ乗り上がり布団の中へと潜り込もうとする砂月の姿が視界に入った。
薄い生地のスウェットを身にまとい、前かがみの胸元は無防備に大きく開いている。
にも関わらず表情はどこか警戒したような、不機嫌そうな普段通りのそれ。

「…お前、どういうつもりだよ」
「夜這いだ」
「はぁ!?」

予想だにしなかった返答に耳を疑う。
俺の知っている砂月はこんな事を俺相手に言うような奴では無い筈だった。
が、目の前の男は今しがた恐ろしいほど真剣な瞳でこちらを見つめながら冗談としか思えないような事を抜かしやがった。
いやいや待てって。
向き合うようにと座り直せば、砂月も仕方なさそうに布団へ入りかけていた足を抜いてベッドに腰掛けた。

「…あの砂月さん、夜這いってなに」
「何って、そのままの意味に決まってるだろ」
「マジなの!?お前そういうやつなの!?」

思わずまじまじと顔を見つめれば、不機嫌を上塗りしたような表情で砂月は視線をいっそう険しくした。
あ、今なら俺死ねるかもしんない。いくら最近よく現れているからと油断してもやっぱりこいつ怖い。
さっと視線を逸らせば、はぁ、と低いため息が耳に響いた。
那月と同じ声してるくせにおよそ彼は出しそうもない域の声を聞くと、何とも言えず不安になる。
本当にひとつの体に、ふたりぶんの心があるんだもんなぁ。信じらんねぇ。
信じられないといえば何よりもまさに今のこの状況だが。
そもそも夜這いって女にするもんじゃねぇの。俺のこと嫌いなくせにこいつ構ってほしいの。
砂月はだんまりを決め込んだようでぐっと口を噤んでいる。
沈黙が気まずい、別に俺は悪いことなんてしてないのに、大人しく寝かせてくれよ。
うだうだ考えていると流石の砂月も気まずさに耐えかねたのか、ぽつりぽつりと言葉を零した。

「…那月がチビのこと、好きだってのは知ってんだろ」
「まあな、好きって言ってもあいつのは"お気に入り"ってのに近い好きだけど」

それが今のこの状況と何か関係あんのか?
訊ねると砂月はじとり、とどこか悔しそうな視線を寄越した。
口を開きかけ、寸でぐっと閉じる。それを数回繰り返した辺りでようやく観念したように答えた。

「…あるんだよ、関係。好きなんだよあいつ、チビのことが」
「それさっき聞いた」
「だから…一々言わなきゃ分かんねーのかあいつもてめぇも!本当に好きなんだよもうお気に入りだとかそんな次元とっくに超えて、そのくせ自分じゃ自覚ねぇんだよ!」
「……えっ」

砂月の視線が段々と下がる。
心なしか頬はうっすら赤らんでいるように見えた。
ちょっとまて、落ち着け、なぁ。

「俺は、那月とは違う。けど根本は同じで…あーくそ!」

がしがしと髪を掻きあげる砂月の姿にようやく俺は、まさか、と信じられない…否、信じたくなどない考えを思い浮かべた。
俺が想像した以上の好きで、那月とこいつの根本は同じで、それはつまり。

「ま…待て、言うな!言ったらなんかダメな気がするから今日のことはもう忘れて寝ようぜ、な!?」

面倒ごとは御免だ、なんとかこの場を丸く治めようと砂月をせっつかせるように肩を掴む。
瞬間、ひくりとその身が震えた。
視線は合わないまま顔を真っ赤に染めて、砂月は決定的な一言を放つ。

「…お前、那月にキスしてくれないか」

一瞬、彼が何を言ったのかまるで理解出来なかった。
したくなかっただけなのかもしれないが、それでもこの言葉は確かに砂月の口から発せられてしっかりと俺の耳に届いてしまった。
今更無かった事になど出来ないのだ、困ったことに。

「キスって…なんで」
「しっかり自覚させてぇんだよ、じゃなきゃあいつはいつまでも無自覚に発情しっ放しのままで」
「うわあああ発情って!バカそういう言い方ないだろ!」
「…隠す事かよ」

思わずわたわたと焦る俺とは対照的に、砂月は冷静に言い放つ。
なまじ那月と同じ姿なものだから余計にいろいろと混乱した。
やけに生々しさを髣髴とさせるその単語が"那月と同じだけの知識を持っている"砂月の口から飛び出した。
年頃の男としては当たり前かもしれないし、そもそも人類以外の動物にも当てはまる言葉だからなんら不自然ではない。
ない筈なのに。その事実はやけに心を騒がせた。
マジで那月、俺にそういう気持ち抱いてんの。ていうか那月がそうならこの、目の前で相変わらず顔を赤くしてる男も同じなのか。
ちょっとヤバイ、何がヤバイって今まで当たり前のようにスキンシップをとったり同じ部屋で過ごしてきた同性からの爆弾より威力の高いとんでもない発言に…驚きこそすれ、何故かちっとも嫌悪を抱いていない。

「…あ、あのさ砂月」

そうして開かれた俺の口からは、冷静さを失くしきった言葉しか出てこなかった。

「キスするのって、お前にじゃダメなわけ?」










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