チョコレイト・ホリック(翔那)




「バレンタインデー、ですか?」
「そう!最近は友チョコとか逆チョコとか、色々あるじゃん。那月は何かするのかなーって」

たまたま近くの席に居た音也くんに、そんな話を振られました。
バレンタインデー。
女の子が大好きな男の子へチョコを送る、というのが一般的ですが
ここ最近は友達同士で交換し合ったり逆に男の子から女の子へと送ったり、その楽しみ方は様々。
そんなバレンタインデーを来週に控えた我が校は、卒業オーディションも近いというのに皆心なしか浮き足立っているように見えます。
…バレンタインデー。
心の中でそっと、反芻。
明日は丸一日授業も何もない日なので、早速今夜の内に試作でもしようかな。

そうして材料を買い込み、その日の内にチョコレート作りはスタート。
ひとくちにチョコレートと言っても種類は様々で、見た目にも手の込んだ物の方が喜ばれるでしょう。
ですが、ここは素材勝負。
隠し味には自信がありますから、きっと皆さんがあっと驚いてくれるようなチョコを作る事が出来そう。

「そうだ、ちょっと大人っぽく洋酒たっぷりにしてみましょう」

鼻歌なんて歌いつつあれこれとご機嫌に混ぜていると、外出していた翔ちゃんが帰宅。
課題の提出日が今日までだったのをすっかり忘れていて、居残りしていたようです。
へとへとな様子の翔ちゃんは今にも眠っちゃいそうな顔で僕の方を見ましたが、特に何も言わずベッドへとダイブ。
よほど頑張ったのでしょう、そんな翔ちゃんの疲れを癒すには…そう、甘いもの。
まさに今作っているこのチョコしかありません。
待ってて下さい、翔ちゃん。彼を想いながら僕は必死に、ボウルの中の材料を混ぜ続けました。

かくして一時間後、特製チョコレートが無事完成しました。
一口サイズのチョコ達をお皿に並べ、翔ちゃんのベッドへ腰掛けます。

「しょーおーちゃん、起きてくださーい」

ゆさゆさと、俯せに寝入ってしまった翔ちゃんの肩を揺すります。
うっすら目を開けた翔ちゃんは、すんすん、と可愛らしいお鼻をひくつかせ始めました。

「…ん、なにこれ、甘い」
「それはチョコの匂いです」
「…チョコ!」

やはりこの時期の男の子はチョコレートに敏感なのでしょうか。
唐突にがばりと起き上がった翔ちゃんは、僕の手のひらに掲げられたお皿をきらきらした瞳で見つめます。

「うわ、うまそう!一粒貰っていいか?」
「一粒と言わず全部どうぞ!試作品ですけど愛はいっぱいこもってます!」
「…え、ちょ、これお前が作っ……んごごご!」

なぜか急に翔ちゃんの表情が曇りましたが、気にせずお皿の上のチョコをぜーんぶ翔ちゃんのお口に詰め込みます。
苦しそうな翔ちゃん、ちょっと量が多すぎたかなと不安になりましたが全部咀嚼したところを見るとその心配はなさそうです。
やがて、ごくん、と一際大きな音をたてて翔ちゃんの喉が上下しました。
ああ、全部食べてくれたんですね翔ちゃん!お味はいかがでしたか?

「っ…那月、てめ…これ何入れやがっ……うぐっ…」
「はいっ、ブラックチョコにホワイトチョコ、たっぷりの洋酒にあんこ蜂蜜さくらんぼと、身体にもいいように大豆にぼしホウレン草…」
「あほか!レシピ通りにしろレシピ通りにーっ!」

なぜか涙目で叫ぶ翔ちゃん。
うーん、美味しくなるように精一杯愛情込めたんだけどなぁ。
翔ちゃんが怒りの鉄槌を下そうと右手を挙げ、僕の頭目がけて振り下ろ…

「…っれれ?なつきィ?」

そうとしたのに、ふらりと僕の方へと倒れこんできます。
咄嗟に受けとめた体は、とても熱い。
心なしか息遣いも荒く、もしかして体調が芳しくなかったのかと不安になりました。

「翔ちゃんしっかり、翔ちゃん!」
「んー…那月…」

翔ちゃんを寝かせようとベッドに横たわらせ…るために、肩に触れた僕の両手を。
がしりと掴まれ、そのまま思いきり引かれてしまいました。
思わずバランスを崩した僕は、まるで翔ちゃんの上へ乗っかるように倒れこんでしまいます。
それでも翔ちゃんを潰してしまわぬよう、肘をついて何とか堪えました。

「もう、危ないですよ…」

僕を掴んでいた手が離れたかと思うと、今度はその手が優しく頬に。
撫でるような、引き寄せるような動きに戸惑っていると、翔ちゃんの顔が段々近づいてきて。

「えっ…」

なに、
言葉にするよりも早く、唇を塞がれてしまいます。
ちゅ、と小さく触れたと思ったら今度は角度を変えてより深く。
息つく暇すら与えないキスの雨に、僕はただただ戸惑うばかり。
擽るように髪を撫でられ、ぺろりと舌先が唇を舐めました。
今まで見たことのない翔ちゃんの様子に、ただ事じゃないものを感じます。

「ちょ、翔ちゃ、待って…ンッ」

ぬるり、侵入してきた舌のあまりの熱さに僕は、まさか、と思考を巡らせます。
僕の作ったチョコに入れたもの。
ブラックチョコにホワイトチョコ、たっぷりの洋酒…。
恐らく翔ちゃんはお腹もペコペコだったはずです。
いくらお菓子用のお酒といっても、きっと空きっ腹にたくさん入れてしまったら…。
僕がそんなことを考えているうちにも、翔ちゃんはどんどんエスカレートしていきます。
まるでなぶるような舌の動き、シャツを捲る指先の熱さ。
這うように胸を撫でられて、無意識にひくりと身体が震えてしまう。

「んぁ…や、翔ちゃん…」

翔ちゃんの右膝がぐりぐりと、僕の両脚の間を刺激します。
どうしよう、このままじゃダメなのに…。

「あっ…ぁぅ…」

気持ち良さに思わず声を上げてしまいます。
それを翔ちゃんは気に入ったのか、わざと焦らしたり、緩急を付けたり、様々な動きで膝を動かします。
止めなきゃ、そう思うのに動けない。
翔ちゃんの顔をじっと見下ろしながら、耐えます。
真っ赤な顔の翔ちゃんはどこか嬉しそうに、微笑みました。

「やだ…ダメ、翔ちゃん……ダメぇ…!」

ぐり、一際強い刺激にとうとう耐え兼ねた僕のあそこは、我慢できずにバクハツしてしまいました。
ズボンも、パンツも、穿いたままで。
ぐっしょり濡れたあそこの感覚が気持ち悪くて、思わず涙が零れました。

「ひどいです、ダメって…言ったのに…」

情けなさと脱力感で、全身から力が抜けてゆくよう。
よりによって翔ちゃんに、こんな痴態を晒してしまうなんて。
ぐずぐずと翔ちゃんの肩に顔をうずめると、温かな翔ちゃんの指が髪を撫でました。

「ごめん、那月…」
「うぅ、翔ちゃあん…」

ぐりぐりと、翔ちゃんの肩に顔を押しつけます。
宥めるように彼の手が僕の肩を掴んで…世界は、反転。
今度は僕が翔ちゃんの下、押し倒されてしまいました。

「…え?」
「おれ…我慢、できない…」

お酒のせいでしょうか、どこかたどたどしく翔ちゃんは言いました。
我慢できない。ちょっと待って、それって。

「…うわっ!」

かちゃり、翔ちゃんの指がベルトに触れたかと思うと、下着ごと一気にズボンを脱がされてしまいました。
顕になったアソコは自分の出してしまったものでぐしょぐしょに濡れています。
見ないで、情けない声で訴える僕。
翔ちゃんは僕の出してしまったものを指でぬっとりと掬い、どこか満足そうに微笑みました。

「脚、抱えて。広げて」
「なっ…」

翔ちゃんの"お願い"に何となく嫌な予感。
けれども見下ろしてくる瞳が熱で潤んでいてとても可愛かったので、断ることが出来ませんでした。
言われた通りに両脚を抱え、ぐっと広げます。
翔ちゃんは僕の腰の下に素早く枕を差し入れました。
やばい、思った時にはもう手遅れで、いやらしい液にまみれた翔ちゃんの指が僕の大事な所へと入ってきました。
ぬちゅり、擦り付けるような、広げるような動き。
ダメ、そんなの汚いよ。
言いたいのに口から出るのは違う声ばかり。

「あぅ…や、あっ…」

やがて二本、三本と翔ちゃんの指がたくさんナカへと入ってきます。
あまりの羞恥と圧迫感で、また涙が溢れました。
それでも、嫌悪感は無いのです。
たとえ酔っていても、大好きな翔ちゃんにされている事だから。

「那月…挿れてい?」

穿いたままのズボンをきつそうに膨らませて、とろんとした瞳で僕を見つめる翔ちゃん。
ああ、そんな顔するなんて反則です。
断れるはずもなく、こくりと頷きました。
ジッパーを下げただけのそこから覗くのは、翔ちゃんの身の丈と比べたらびっくりするくらいおっきいモノ。
着替えの時も、一緒にお風呂へ入った時も見たことなかった、それ。ついどきどきしてしまいます。
翔ちゃんは自分のそれと僕のそれを擦り合わせました。ぬるぬると、僕の出してしまったいやらしい液が翔ちゃんを汚していきます。

やがてぬらぬらになったそれを、翔ちゃんは僕の大事な部分へあてがいました。
ぐ、と押すように先端が入り、指とは比べものにならない程の質量と圧迫感に思わずぎりり、と奥歯を食い縛りました。

「あぐっ…那月、きつい…力抜けるか?」
「うぅ…頑張って、みます…」

翔ちゃんの、ちょっと小さくてあったかい手のひらが頬を撫でました。
その温もりに安堵すると同時に、僕の両目からは涙が堰を切ったように溢れます。
果たしてそれは恥ずかしいからなのか、嬉しいからなのか。
ゆるくなった涙腺と比例するように、翔ちゃんを締め付けていた僕のソコも少しずつゆるゆると広がってゆきました。
翔ちゃんはほんの少し、腰を進めます。
まだちょっときついけれど、痛さはありません。やがて根元までぎゅっと翔ちゃんのそれを、受け入れました。

「すご…翔ちゃんの、ぜんぶ、食べちゃいました…」

ほう、と息を吐きます。
僕のなかにいる翔ちゃんはとても熱く、どくんどくん、と脈打っていて。
こんな風に誰かの鼓動を感じるなんて、と不思議な気分です。
やがてゆっくりと翔ちゃんは腰を動かしました。
ぐちゅ、と粘膜の擦れる音。突き上げるような奥への刺激が快感に変わる頃には、もう僕は何が何だかわからないくらいめちゃくちゃな気持ちでした。

「あっ…な、つきぃ…!」

僕の上、真っ赤なお顔で切なげに見下ろす翔ちゃんは限界が近いのでしょうか。
出し入れを繰り返すごとに、どんどん荒くなる息づかい。
つらそうな、でもどこか嬉しそうな。彼にそんな表情をさせているのが僕だと思うと、何だか余計に恥ずかしくなってしまいます。
一際強く、翔ちゃんが僕を突き上げました。
びくびくとナカが震えます。抱えていた脚をぎゅっと抱き寄せ、目を瞑りました。
瞬間感じる、弾けるような熱。
僕の奥でびくびくと翔ちゃんが震え、つられるように僕のそれも激しく脈打ちました。




「おはよー那月…」

翌朝、翔ちゃんはいつもより遅く起きました。
その表情はいたって普段と変わらないまま。ただちょっとだけ頭が痛いのか、ぐだりとベッドに寝転がったままです。

「なーんか俺知らない間に寝ちまってたんだけど…つーか何これ、頭痛い」
「お水飲みます?」
「おう、さんきゅ」

手渡したグラスの水をごくごく、と勢い良く飲み干す翔ちゃん。
やがて頭もはっきりしてきたのか、すんすんとお鼻をひくつかせました。

「…なぁ那月、この部屋なんか甘くね?」
「ああ、今からチョコを作ろうかなって思ってたんです」
「…チョコ!?」

瞬間、翔ちゃんの顔がサーッと青ざめました。
口元に手を当てて、何やらぶつぶつ呟きます。

「ていうか俺昨日、お前のチョコ食ったよな…?でもその後の記憶が…うーん…」

一通りぶつぶつ呟いた翔ちゃんは、グラスを置くと僕の肩をがしりと掴みました。

「那月、なんとなくお前は誰にもチョコ渡さない方がいい。つーか渡すな」
「…はい」

釘を刺されてしまいました。
折角頑張ろうと思っていたので、少し、しょんぼりです。
けれども良いのです。
だって僕はもうチョコを、大好きな大好きな翔ちゃんに食べてもらいましたから。
たとえ翔ちゃんが覚えていなくても。チョコレートのような甘い時間は、僕だけのもの。
ふわり、翔ちゃんの笑顔に僕の心は満たされるのでした。



END.









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