生徒指導はかくありき(龍レン)




この学園には様々な生徒が居る。
アイドルを育成するという手前、必然的に個性豊かな生徒ばかりが集まるわけだが
その中でも一際目立つ…というより、問題を起こす奴が居る。
そいつは困ったことに俺の受け持つクラスの生徒で。
そして今まさに目の前で、問題となるような行為の最中だった。

「レディ、その可愛らしい唇は一体どんなさえずりを…いや、愛の言の葉を紡いでくれるのかな?」

レコーディング室の一角、うっかりすれば見落としそうな死角で女生徒の腰に手を回しているのは、神宮寺レン。
こちらに気付いていないのだろう、女生徒の首筋にそっと唇を寄せ…ようとしたところに割って入る。

「おい、神聖なスタジオで何してやがる」
「…なんだ、リューヤさんに見つかっちゃったか」

ガチャ、と扉を開けた途端びくりと顔を上げた女生徒は、そそくさと部屋を出てゆく。
一方の神宮寺はといえば、咎められた事をさして気にも留めず乱れた前髪を掻き上げた。
ばつの悪そうな顔でもするなら、まだ幾分かマシなものを。
全くもって可愛げのない男だと思う。

「俺、ちゃんと使用許可出しましたけど」
「書類さえ出しゃ何やってもいいと思ってんのかお前は。大体ロクな事しないからな、それを見越して様子見に来てやったんだ」

どかり、器材ブースでもひときわ立派な椅子へと荒々しく腰掛けた。
壁を背に立つ神宮寺は、まるで海外の俳優よろしく両手をかかげておどけてみせた。

「信用ないなぁ」
「誰の所為だと思ってる」

ギイ、向き合うように椅子を回転させる。
座っているせいで奴を見上げる形になるのは少々気に食わないが、そもそもこの男にはどんな態度だって通用しないのだ。
はぁ、と大袈裟にため息を吐く。時計を見やれば神宮寺の申請した時間が終了するまで、まだ大分残していた。

「で、どうする」
「…どうって?」
「一応許可があるからな、まだ当分はこの部屋の使用権はお前にあるが。レコーディングの練習でもするか」
「おいおい、俺がそういう性格じゃないの知ってるでしょう。今日はもう帰りますよ」

颯爽とした足取りで、横を擦り抜けてゆく。
残り香がふわりと香る。
すっと通る神宮寺の香水と…それとは別、甘くふわりとした女の香水。
かちゃりと、神宮寺の指がドアノブに触れた。

「待て」
「…なに、リューヤさん」
「鍵、閉めろ神宮寺。折角の時間が勿体ない」

首だけふいと振り返る。
神宮寺は一瞬だけ目を見開き、何かを思案した。
だがそれも僅かな時間で、ドアの鍵をかちゃりと閉めた。



「神聖な場所じゃなかったの」

歩み寄る神宮寺の腕を、掴む。
強く引き寄せれば彼はよろりと体勢を崩し、俺の肩に手を当てた。
腰に腕を回す。見た目よりも華奢で、けれどもしっかりと付いた筋肉は十分にがしりとしている。
裾をたくし上げ、素肌に触れた。
ひくり、撫でた脇腹が小さく震える。
掴んだ腕に唇を寄せれば、当てられた手にぐっと力がこもった。

「…不良教師」
「仕置きだこれは。お前、口で言ったって分からねえからな」

心外だとでも言いたそうに、神宮寺はつんと唇を尖らせる。
腕を掴んでいた手を離し、さらりと長い髪に指を這わせた。
ぐい、顔を寄せる。
挑発的な瞳、わずかに垂れ下がる目尻を舐めた。

「ちょっ…何、リューヤさ……んっ」

開かれた薄い唇へと口付ける。
抵抗されるかと思ったものの、案外素直に彼は受け入れた。
どころか、ぬらりと舌を差し入れてきた。慣れているのか単なる物好きなのか、いずれにせよロクな奴じゃない。
腰を引き寄せれば、彼の片膝が太腿の上に乗る。
そのまま体重を掛けられたが、男の割にさして重くはなかった。

「っふ……ン…」

彼の長い腕が、首に巻き付く。
深く貪るように舌を絡ませれば、答えるように吸い付いた。
鼻に掛かった吐息が段々と艶を帯びる。細い腰、わずかに汗ばむ素肌を撫でた。
徐々にその手を下へとずらしてゆく。
かちゃり、指先に触れたベルト。きつく締められたそれを外した途端、跳ねるように彼は唇を離した。

「ちょっ…と待って……リューヤさん、するの?」
「男相手にそこまでの度胸はないか?」
「…そういう訳じゃ、ないよ」

わざと煽れば、レンは誤魔化すような笑みを浮かべた。
どうせならきっぱりと拒絶された方が良かったんだがこの男、思ったより状況に流されやすいのかもしれない。
…それは自分も、同じだ。
生徒、しかも男相手にこんな気起こすなんてどうかしてる。だからといって今更止めようとは思わなかった。

ただひたすらに身体をまさぐる。
はだけた胸元からはきつく女性物の香水が香り、先ほど共に居た女生徒を思い出す。
彼女はレンとどこまでいってるのだろうか。自分がしているような事を、彼にもされたのだろうか。

「…神宮寺、女の香りがする」

こんなに色香のきつい香り、さっきの彼女には似合わない。似合う人物が居るとすれば…そう、それはまさに。
彼の弱い部分を刺激する。
抱きつく腕の力はより一層強まり、形のよい唇からは上ずった声ばかりが溢れた。
それでもプライドが邪魔するのか、なんとか声を押し殺そうと俺の耳元でぐっと唇を閉じ我慢する。
いじらしい、とすら思う。
女性相手にあれだけプレイボーイな態度を取っている神宮寺レンが。
本気の恋愛はさせまいと、浮気な態度を取り続けてきた神宮寺レンが、今、俺の前で。
多少の羞恥はあれど惜し気もなく痴態を晒す彼の瞳は、熱に冒されていた。
汗ばんだ胸元に口付ける。ちゅ、ときつく吸い付けば小麦色の肌に真っ赤な痕が残った。

「リューヤさん…恋愛は校則で、禁止されてるのに…」
「別に、問題ないだろ」

きっと彼はこの後にも、沢山の女性達と甘い時間を過ごすだろう。
嫉妬ではない。精々恥をかけば良いのだ。
およそ女性では付けられない強さできつく、女性では付けそうにない場所へいくつも、痕を付ける。
その度にびくりと身を震わせ、物欲しげな視線を寄越すレン。
その瞳を真っすぐ見つめ、俺は言葉を言い放った。



「だってこれは恋愛じゃないからな」



時計を見やれば使用時間はあと五分。
もう一度レンに視線を向ければ、その瞳に先ほどのような熱は無かった。

「あと五分だ、続けるか?」
「…いや、もういい……もうたくさんだ」

途端に俺から離れ、着乱れた制服を正す。
決してこちらをみようとは、しない。
くるりと踵を返し、扉に手を掛ける。一瞬こちらを振り返った気もするが、だからといって何がどうともならない。
やがてぱたん、と静かに閉まる扉の音。
一人残された空間で、誰にともなく呟いた。

「…恋愛じゃない、ただの仕置きだ」

はは、と乾いた笑いを吐き出す。
果たしてそれは己へ言い聞かせる言葉だったか。その真意を知るには少し、互いの立場が難しすぎた。
熱の浮いたレンの瞳を振り払うように力一杯扉を開け、部屋を後にした。



END.









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