ミズアソビ(マサレン)




ぱしゃり、水が跳ねる。
日に焼けた長くしなやかな腕が、澄んだ水面を掻き分けた。
プールサイドへ座り込む真斗はさして面白くもなさそうに、揺らめく水を眺める。
外光を反射して光るそれはとても綺麗で、かといって見惚れている訳ではなかった。

「泳がないのかい?」

不意に水中から声がかかる。
きらきらとした水に身を浸し、濡れた髪を掻き上げながらレンは真斗を見やった。

「…今日はもう、疲れた」
「そう。気持ち良いんだからお前も入ればいいのに」

まぁ陽なたぼっこも悪くはないけどね、言うだけ言ってレンは再び水中へと潜る。
形のよいクロールでプールを何往復もする彼は、かれこれ一時間は泳ぎ続けていた。
その前は真斗も共に…というより無理やり泳がされていたが、さしてバイタリティもなく早々に水から上がってしまった。
どうしてプールへ来ることになったのか、貴重な休日をいけ好かない男と過ごす羽目になったのか、不満は尽きない。
まぁ、たまにはこんな一日も良かろう。
ごろりとプールサイドへ寝転がり、真斗は静かに目を閉じた。




「…かわ…聖川」
「……ん」

ぽたり、真斗の頬に雫が滴れる。
その一瞬後に、さらりと頬を擽る何かが。
目蓋を上げた真斗の、目と鼻の先。レンの顔が近づく。

「…なんだ」
「いやぁ、悪戯してやろうかと思って」

押し倒すように覆い被さったレンは、ふっ、と艶を含んだ笑みを浮かべた。
つんと互いの鼻を擦り合わせる。
水を含んだレンの髪がぺたりと真斗の頬へひっつく。不快だ、と言わんばかりに眉をひそめた。

「悪戯というより嫌がらせだろう」
「じゃあ退こうか?」
「…別に、このままでも構わない」

真斗は右手を伸ばすと、鬱陶しそうにレンの髪を掻き上げた。
撫で付けるように、邪魔な髪を耳へ掛ける。
ピアスのはめられたレンの耳たぶをそろりと撫ぜれば、彼の肩が僅かに震えた。

「神宮寺、もう泳がないのか」

真斗の指がそっと、レンの唇を撫でる。
ちゅ、指先を吸うように口付けたレンは一層艶やかな笑みを浮かべた。

「ああ、そろそろ陽なたぼっこがしたいと思ってたんだ」

そうか、真斗はさして面白くもなさそうに呟く。
一呼吸の後に、どちらからともなく唇を重ねた。
ぺろりと舌先を舐める。触れ合うだけのそれもやがては絡み付く動きへと変わった。
ぴちゃり、絡み合った粘膜から水音が漏れる。まるで水の跳ねる音のよう。
レンはひたりと真斗の胸に手を乗せる。まだ水に濡れたままの手のひらはとても冷たい。
まるで触れたそこから水が染み込んでくるようだった。

外からの光が、レンの髪や睫毛を濡らす水に反射した。
綺麗だ。
けれども見惚れるのは悔しくて。
真斗は瞳を閉じると、深く深く唇を貪った。



END.









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -