sleep sheep(翔那)




「しょーおーちゃんっ」

那月の楽しそうな声に俺は、またか、とうんざりする。
ここのところ那月は毎晩のようにこの調子で、正直参っている。
何が参るって…

「今夜はこれ、どうですか翔ちゃん!」
「どうですかじゃねーよ!何だよその着ぐるみは!」
「もっちろん、翔ちゃんに着てもらう為のパジャマですよー」

那月が笑顔で手にしているソレは、どう見ても着ぐるみとしか思えないボリューム。
少々クリームがかった白の毛、フワフワモコモコのでっかい羊がそこに居た。
昨日はまだ何とかパジャマっぽさのあるものだった、のに今日のこれは一体何事か。
そもそも何故こんなモンを俺様に着させようとするんだ。

「だって翔ちゃん可愛いですから!」
「可愛い言うな!こんなモノ取り上げてやるっ」
「えぇー」

那月の手からモコモコのそれを奪い取る。
でかい、しかも生地が分厚い。こんなもん着て寝たら暑くてぶっ倒れること間違いない。
よって却下。
黙ってクローゼットへ放り込めば、名残惜しそうに那月は「羊さんが〜」とか言いやがる。
何だこいつは、アホか。とっとと寝てやろうと布団に潜るが、那月はなんだかベッド横でぶつぶつ呟いていた。

「…え、なに」
「羊さんを数えてました」
「なんだそれ意味わかんねーよ!」

思わず声を張り上げる。が、那月はほんのちょっとしょぼくれただけで大して気には留めてないようだった。
ていうか何だ、羊の着ぐるみ持ってきたかと思えば羊数えて。昨日は羊のパジャマ、その前は羊のぬいぐるみ。
羊、羊、ひつじまみれ。
何かが引っ掛かるような、悶々と首を傾げていればまた那月が何やら持ってくる。
おうおう今度は何だ、本物の羊か?
茶化そうと見上げれば彼の手には…羊の、マグカップ。

「翔ちゃん、せめてこれ、どうぞ!」

ふわりと鼻先を擽るのは、甘ったるいココアの香り。
ぱちくり、目を見開く俺の両手にそっと那月はマグカップを持たせる。
あったかい、ほわほわ立ち上がる湯気と僅かに交ざったミルクの白が、茶色いココアの中へ綺麗に溶けていた。

「…なんでホットココア?」
「なんでって、これで翔ちゃんぐっすり眠れるかなぁと思って」
「……へ?」

にっこり、満面の笑みを浮かべる那月。

「翔ちゃん最近、課題が忙しそうであまり眠ってませんよね?
だからお疲れの翔ちゃんに、労いの一杯です!」

なんだ、そういう事か。
ホットココアも、羊を数えてくれたのも、フワフワモコモコなのも全部。

「…別に、ここまでしてくれなくても平気だって」
「いいんです、僕がしてあげたいだけだから」

ただ俺を、癒すため。
そのためだけに那月は毎晩、あれやこれやと頑張ってくれた。ちょっと間違ってる気もするけど、素直に嬉しかった。
こくり、少し冷め始めたココアを飲む。
甘ったるすぎてとてもじゃないが安眠には程遠い、けれど俺には十分だ。

「ていうか那月、ここ数日の眠れない原因はお前な」
「えっ」
「お前があれこれ余計な事すっからだろーが!あとこのココア砂糖入れすぎ!」

空のマグカップでこつんと那月を小突く。
おかしいなぁ、ちゃんと美味しく作ったのに、なんてブツブツ呟く彼の手を引くと、少々バランスを崩し気味に身を屈めた。
髪の一房をすくい、引っ張る。
薄い唇をぺろりと舐めれば那月は一瞬きょとんとした顔をして、でもすぐいつもの笑顔になった。

「な、甘いだろ?」
「分からないからもっとちゅーして下さい」
「…お前なぁ」

寝たいんだけど、言おうと開いた唇はぱくりと那月に食べられてしまう。
ほら結局、俺が中々眠れない原因お前じゃん。
那月の髪をわしりと掴む、ボリュームのある癖っ毛がフワフワ揺れてまるで羊みたいだ。

あったかな那月の舌を追い掛けるように絡め合わせて。
今日こそ安眠できますように、なんてくすくす笑いながら
フワフワ頭をおもいきり、抱き寄せた。



END.









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