friendly;ship(マサレン)




つまらない、
思えど口には出してはいけない、そんな状況に真斗は疲弊していた。

ざわついた広いホール、煌びやかな装飾に美しく着飾る女達。
テーブルに並べられた数々の料理からは何とも食欲をそそる香りが漂い、けれども手を伸ばす気にはなれない。
仕方なくボーイにミネラルウォーターを頼めば、隣にいた男には「折角なんだしもっと洒落たもの頼めば」と文句を言われた。
折角とはなんだ。そもそも好き好んでこんな場所に居るのではない。
それは隣の男も同じで、ふっと離れては誰かに愛想笑いを浮かべ、やがて疲れて隣へ戻ってくる。
嫌なら相手をしなければ、と子供のように思う。だが立場上そうもいかないのが歯痒かった。

神宮寺家の主催するパーティーに呼ばれたのは今回が初めてではない。
もっとも、ここ数年自分は辞退するばかりだったが
流石に今年は「同室のよしみで」とレンに引きずられるように会場へ来た。
財界人や著名人も多く居る中、本当ならば少しでもパイプを繋ごうと積極的に動くべきではあるのだが
生憎、己の性格上それは中々難しいところで。
そもそも今回は聖川の人間としてではなく、不本意ながらレンの友人として出席している。お陰で周りも声をかけてこようとはしない。
せいぜいレンの気が済むまでは出席し、あとはさっさと学園に帰らせてもらおう。
真斗はさもつまらなそうに一口、水を煽った。




そうしてどれくらいが経っただろう、粗方の挨拶回りを終えたレンが隣へ戻ってくる。
申し訳程度に取り分けた料理を口に運びながら、ふと彼に視線を向けた。

「…?どうした神宮寺、疲れでもしたか。顔が赤いぞ」

壁に背を預けるレンは、心なしか少々火照っていた。

「別に、何ともないよ」
「そうか」
「しいて言うならお前が"友人として"来てくれたのが、予想外でね。少々はしゃいでるかな」
「阿呆か、聖川家として出席するのが面倒だっただけだ」
「ふーん」

ぱくり、チキンのオリーブ焼きを口に運ぶ。
ジューシーだが油はしつこくなく、オリーブ以外にも使われているだろう何種類かのハーブが非常に良い香りを放っている。
そういえば以前四ノ宮がチキンを作ったときは散々だった。
途中までは完璧だと思われたのに、何故彼は隠せるレベルではないものを隠し味に使うのだろうか。そもそも大好きな鳥を調理することに対して何も思わないのだろうか。大体彼は…
余計なことを考えすぎた。
水を飲もうと近くのテーブルに置いていたグラスへ手を伸ばし…ふと、気付く。

「…おい神宮寺、こっちのグラスはお前のか」
「ああ、そうだけど」
「……中身は、何だ」

レンの顔は相変わらず赤い。
グラスを奪い、すん、と香ってみる。鼻先をくすぐるのはドリンクの類とは違っていた。
まさかこいつ、ぎりりと睨み付ければレンはおどけたように肩を竦めた。

「いいじゃない、こういう場だし無礼講って事で」
「いい訳あるか未成年だぞ、何杯飲んだんだ」
「…さぁ?」

くすくすと声を上げるレン。
よくよく見れば頬が赤らんでいるだけではない、目付きも普段よりとろんとしていた。
こいつ間違いなく、酔っ払っている。真斗は思わず呆れたため息をはいた。
グラスと料理皿をテーブルへ置き、ボーイに片付けてもらえるよう仰ぐ。

「帰るぞ神宮寺、どうせここに居たってもうロクにすることなんか無いだろう」
「そりゃそうだけど…どうしたいきなり」
「お前が酒なんか飲むからだ、仮に酔い潰れたお前を放っておけば俺にも迷惑が掛かる」
「…友人だから?」
「そうだ。分かったらさっさと行くぞ」

ごく自然に、手を取る。
予想どおり火照った手のひらが、熱くて熱くて仕方ない。
ずかずかと玄関ロビーまで歩いたところで、ぐい、とレンに腕を引かれた。

「聖川、そっちじゃないよ」
「は…」
「上に部屋、用意してあるんだけど」




正直、今すぐにでも帰りたかった。
けれども酔っ払ったレン一人を残してゆくのはいささか薄情である、仕方なくレンの後へついてゆく。

「お前が眠るまでは一緒に居てやるが、後は帰らせてもらうぞ」
「聖川、母親みたいだな」
「阿呆な事言うな」

反論して、ハッと気付く。レンに母親の話題を出させるのはタブーではないのか。
しかし前を歩く男は少しも気にした様子ではなかった。酔っ払っているのが幸いしたか、真斗は小さく胸を撫で下ろす。
やがて案内された部屋は何とも落ち着いた造りで、しかしてベッドが二つ並んでいる事に疑問を抱く。
まぁ、客人用としての部屋だ。深い意味はないのだろう。
とさり、レンをベッドへ座らせる。

「服が皺になる、脱いでおとなしくしておけ」
「ワオ、中々大胆なこと言うね聖川」
「茶化すな、水を持ってきてやる」

部屋に備え付けられた冷蔵庫から、水のペットボトルを取り出す。
渡そうと振り返れば、脱げといったはずの服もそのままにごろりとレンは横たわっていた。
…あれ程言ったのにこの男は。呆れながら、レンの服に手をかける。
ジャケット、ネクタイ、ベルト、てきぱきと脱がしてゆきシャツのボタンを外そうと指を伸ばす。
が、寸でのところでレンの手に絡め取られた。

「…聖川のえっち」
「俺は脱がそうとしただけだが」
「そういう意味で?」
「そうじゃない意味でだ」

だから離せ、呟きは音にならず飲み込まれる。
ぐいと引き寄せられ、食らい付くように触れた唇。
薄く、けれども形の良いそれを味わうのはもう何度目だろうか。けれども押し入るように絡み付く舌の熱さは初めてだった。
ん、ん、と漏れるレンの吐息は普段よりも艶を帯びている。
絡め取られた指は自然と、下半身へ伸ばされた。

「っは……おい、そういう意味じゃないと言ったはずだが」
「…今日の聖川は、友人だから?」

じゃあいつもの俺は、お前にとっての何なのだ。
抱いた疑問はけれども、口に出してはいけないような気がした。
ぎしり、体勢を変える。
覆い被さるように膝をつけば、どこか満足そうにレンは身を捩った。
そうして今度は彼の手が、真斗の服へと伸びる。

「脱げよ、俺が脱がしてやる」
「…そういう意味でか?」
「そういう意味で、だよ」

触れる指先は熱い。
じわりじわりとその熱が浸食してゆくようで、けれども不快ではなかった。
物欲しそうな目でレンは見上げる。服を脱がす手つきに知らず知らず情欲を煽られた。
初めからこのつもりだったのか、お前は。レンはくつくつと喉を鳴らす。

「俺が寝付くまで、居てくれるんだろう?」

悪戯に覗いた真っ赤な舌が、ぺろりと真斗の唇を舐める。
身体がやけに熱かった、俺は何も飲んでないというのに。
中途半端にはだけられたジャケットをばさりと脱ぎ捨てる。ネクタイを緩めれば、僅かに開かれた首元をレンの指先が撫ぜた。
くすぐったい、制止するように彼の指を取る。ゆったりと絡め、真っ白なシーツへ押しつけた。

「今日のところは友人だからな、せいぜい優しくしてやる」

レンの薄い唇が半月を描く。
何かを言おうと開かれるその唇に、今度は真斗から、食らい付くように口付けた。



END.









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