〔13〕

「おかえりキャプテン!リイム!」
「お出迎えありがとう、ベポ」
「デート楽しかった?」
「は?」
「ウフフ、そうね、それなりに?」
ベポは船へと戻った二人にすぐにデートの感想を問い掛けた。他のクルー達がやいやいと騒いでた話を鵜呑みにしていた為、本当に二人仲良くデートしたものと信じて疑わなかった。
ローはそんなベポの純粋な視線から目を逸らして周りのクルー達に睨みをきかせる。
「おい、誰だベポに下らねェ事吹き込んだ奴は」
「失礼ね、勝手に引っ張り回した癖に良く言うわ」
「そういえばリイム、体調は大丈夫なの?」
不機嫌そうなローをよそに、ベポは頭を傾けてリイムの顔を覗き込む。そんなベポの気づかいに、リイムもにっこりと微笑み返す。
「ええ、問題ないわよ、ありがとう。それにしても今日もふわっふわね」
「リイムもいつも通りいい匂い〜」

リイムとローの言い合い、そしてリイムとベポのやりとりと、ハートの海賊団ではもはや恒例行事となってきていたそれで、ペンギンは二人が帰って来たのだと察知する。
「またベポといつものやってるよ。いつの間にか船長とリイム帰ってきてるわ」
「おかえり〜!!」
「あら、みんな船に居たのね」
「夕飯、みんなで食いに行こうって思ってさ!!」
ペンギンに続いてクルー達がローとリイムの戻った気配に一斉に甲板へと出て来る。もう待ちきれないといった様子にリイムはベポに抱きついたまま、提案を肯定するようににニッコリと笑みを浮かべた。



夕食を求め街に繰り出だしたハートの海賊団。一同はシャチが見つけた、食欲をそそる匂いを漂わせる店になだれ込むようにして入って行った。各々が運ばれてきた料理に舌鼓を打つ中、リイムはペンギン、シャチとテーブルを囲んでいた。
「リイム、これ食うか?」
「あら、くれるの?じゃあ」
シャチから自然と差し出されたフォークの先のから、リイムはぱくりとから揚げを口の中に収める。
「じゃあシャチ、これいる?」
お返し、とリイムが箸を差し出せば、いるいるー!とシャチもリイムが口元へと運んだ海老をぱくっと食べる。
「お!ま!え!ら!」
そんな様子をペンギンが鬼のような形相で、それはもうこの世のものとは思えぬ形相で睨みつける。シャチはわかっていてやってるだろう、しかしリイムはナチュラルに、自然にやっているようにペンギンには見えた。
「シャチもはい、あーん、じゃねェよ!」
「おれそんな事言ってないし!」
「……ペンギンも食べる?」
「食べる食べる!んめェなー……って!!」
あまりにも自然な、完璧な流れだったと、後にペンギンはこの事件を語る。ペンギンは思わず食べてしまった後にハッ!何やってんだおれ!と、自ら突っ込みを入れながらリイムにいい加減にしてくれ!と注文を付ける。
そんな三人の様子を、ローは目を細め、ため息混じりに眺めていた。
「……何やってんだあいつらは」
「キャプテン!これ美味しいよ!」
「ああ……そうだな」
ローは、リイムを取り囲み繰り広げられる騒がしいやり取りに、こんな夜も悪くないかもしれねェ、そんな事を思いながら酒を飲み進めた。



「あれー、リイムは?」
「ん? トイレじゃねぇ?」
「そっかー」
「でも、結構経つような」
「そのうち戻るだろうよ、気にすんなシャチ」
「まぁそうだな」

これがリイムが席を立った頃、今から約10分程前の会話だ。一向に戻らないリイムに、ペンギンとシャチが焦りの色を見せる。
「リイムがいないー!?」
「おれ、さっき出てったの見たぞ」
ざわざわとしだしたテーブルでぼそりとクルーの一人がそう言うと、シャチがうええええと声を上げながら勢いよくイスから立ち上がった。
「うそーん!何で止めないのさー!」
「何騒いでんだお前ら」
「船長!リイムがどっか行きました!!」
「はァ?」
「おれたちはトイレだと思ってたんですけど、外に出てったって言うんです」
「あいつ……!!フラフラ出歩くなと言ったんだが……もういい」
ローは少し乱暴に手元のジョッキを取ると中身を一気に流し込む。その状況に一瞬、クルー達もひやりと肝を冷やす。
「え、いいんですか?」
「そのうち勝手に戻るだろうよ」
「……いや、まァそうかもですけど……」
少しだけ重い空気に包まれた店内だったが、しばらくすると酔いも回ったのかクルー達もとにかく飲むぞ!と半ばやけくそで追加注文をするのだった。



「あったわ……ここね、シャッキー'SぼったくりBAR」
一方、店内をそんな雰囲気にしたまま行方をくらませた張本人、リイムは島内13番GRにあるとあるバーの前で足を止めた。本当にこの名前なのね、と関心しながらその扉を静かに開けた。
「いらっしゃい……あら」
「こんばんは、コーティング屋のレイさんという方はいらっしゃいます?」
「彼ならもう半年も帰ってないけれど……」
「そう、ですか」
「コーティングの依頼かしら?」
「いえ、ちょっと聞きたい事が……でも居ないならそれはそれで」
半年帰ってきていないという店の主の言葉。元々、本人が居ないならお酒でも飲んで行こうと思っていたリイムは、そのままゆっくりと店内を進みカウンターへ腰を下ろす。するとなにやらジッと見つめられるような、そんな視線をリイムは感じ、顔を上げた。
「時に、あなた、フランジパニちゃんかしら?」
「ちゃん?……ええ」
「ウフフ、随分新聞を賑わせてるわね、会えて嬉しいわ」
「最近会った人にも同じ事を言われたわ」
新聞を賑わせて……その言葉にリイムの脳裏にはふと青キジが過ぎる。だがもう過ぎた事……その時の出来事を振り払うように、当たり障りのない受け答えをして笑顔を浮かべる。
「それに、シャイニーの娘でしょ?」
「やっぱり、そうなのかしら……」
リイムはその言葉に、メニューから視線を動かさないままどこか他人事のように呟く。
リイムは、自分がそうなのかと本当に疑っている訳ではなかったが、鎌をかけてきている可能性と、素直に言いたくないという気持ちからそう答えていた。
「あら、ごめんなさい、てっきりそうだと思ったから」
すぐにはいどうぞと、まだ注文もしていない酒をシャクヤクから渡され、リイムはそのままそのジョッキを受け取り返事を返す。
「あ、いえ……自分で答えを探しながらも、遠ざけて生きてきたもので」
「レイリーを探してたのもそういう事だったのね」
「ええ、そうだったんですけど……もしかして知り合い、ですか?」
「昔ちょーっとね?あ、私はシャクヤク、みんなはシャッキーって呼ぶわ。元海賊であなたの先輩。あとそんなに固くならなくてもね?」
「……もう知ってるのだけれど……なら遠慮なく」
「あら、そう、私も有名になったものね」
「元々海賊だし有名なのでは?」
「そうかしら」

リイムの顔色を見たシャクヤクはこの場合、シャイニーについての話はしない方がいいのだろうかと考えながら、つまみの準備をしながらリイムの反応を待った。
「なんだか、今となっては聞かなくていい気がするわ」
……ずっと求めていたものに近づいた。でもいざ触れられる所まで来たら今度はそれにえも言われぬ恐怖を感じる……リイムはシャクヤクから受け取った酒を一気に飲み干した。
「知る事が、怖いの?」
「そうかも……しれないわ、私が私でなくなりそうで」
「そうね、言わんとしてる事はわからなくもないわ」
「いずれ、分かる日が来るかもしれないから、その時に知ればいいわね」
「フフ、好きよ、そういう考え方……まぁこれも何かの縁ね、たくさん飲んでいきなさい」
そう言いながらシャッキーは大きなボトルをカウンターにゴトンと置き、タバコをくわえながらリイムに微笑みかけた。

「そういえばリイムちゃん、今はあの死の外科医、ローの船に乗ってるって噂だけど」
リイムの目の前には頼んでもいない酒が次から次へとコップやグラスに注がれ出てくる。それをリイムも楽しみながら空にしていく。
「えぇ、ちょっとした賭けをしてて」
「賭けね、楽しそうじゃない」
「そうなのよ、それに面白い人達でね……シャッキーさん、タバコ1本もらえないかしら」
「いいけど?」
普段吸わないんでしょ?とシャッキーが言いながら手元から一本のタバコを軽く投げ、それをリイムはしっかりとキャッチする。
「色々なものに憧れる時期ってあるじゃない?だから一時期吸ってたんだけど、幼馴染が体力がどうのこうの!ってうるさくて辞めたわ」
「幼馴染って、モンキーちゃんの一味の彼?」
「あら、さすが情報通……知ってるのね」
「色違いでお揃いのピアスつけてるから、一部では色々と噂になってるわよ」
「えっ」
またピアスの話……リイムの動きが止まる。大切なものだから付けていたのに、やはり大多数がそういう風に思っているのだろうか……リイムはローとの今日のやり取りを思い浮かべる。
「噂って……そっ、そういうものかしら?」
「あら、動揺してるの?」
噂というのはつまり、そういう噂という事で……そう思うと妙に落ち着かなくなってきたリイムに、シャクヤクはかわいいわね、と笑う。
「もう!私が動揺するわけないじゃない!」
「今じゃローと付き合ってるんでしょう?」
「トラファルガーにもいい加減ピアスを変えろって大騒ぎされたわよ、今日」
「フフッ、リイムちゃんは天然なのね」
「どこが!」
「そうやってムキになる所もね」
「もう、シャッキーさんっ!!」
普段される事のない扱いが続いたせいもあり、リイムの顔はほんのりと赤く染まる。気を落ち着かせるように、リイムは再びシャッキーから取ったタバコに火をつけた。
「あまりからかわないでもらえる?」
「大丈夫?結構酔ってない?」
「いつもより、少し多く飲んだだけよ、それに」
「それに?」
「シャッキーさんが出すお酒、度が強すぎるわ!」
「わざとよ、わざと」
「でしょうね……」
「でも、色々な話が聞けて面白かったわよ、まだしばらく居るんでしょう?」
「その予定よ」
「またいらっしゃい、いつでも歓迎するわよ」

気付けば随分と時間も経ち、さすがに船に戻らなければとリイムはひらりと手を振り店を後にする。
……遅くなったが空気も気分もいいので、折角なので散歩でもして帰ろう。リイムそう思いながら船の方角へと何となく歩き出した。



「フフフフ〜、フ〜フフ〜フ〜」
リイムの頭にふとビンクスの酒が思い浮かび、鼻歌を歌いながら歩く。しかしそんなふんわりとした時間はすぐに終わった。背後に何かの気配に気付きリイムは大きなため息をついた。
「もう、折角気分よく散歩してたのに」
リイムは気配の方へ殺気交じりの視線を向ける。おそらく、このシャボンディへと集まった億超えルーキーのうちの一人、そう思いながら。
「さすがに気付かれちまったか……お前、死神リイムだろう」
「違いますって言って信じる?何か用かしら、ユースタス“キャプテン”キッドさん」
「夜中に酔っ払って鼻歌歌って歩ってるいい女がいたら誰だって声かけるだろう?」
キッドはずかずかとリイムに近寄ると、それが2億の賞金首となりゃなおさらだ、と少し笑いながら言う。
「あなたこそ、こんな夜中にお供も連れずにフラフラしていていいのかしら?船長さん」
それに酔っ払ってないわ、と付け足し、リイムは目の前の何度も手配書で見た事のある顔を睨み付けた。
「ずっと単独で航海を続けてんのかと思えば、死の外科医、ローの女だって?随分話題になってるが」
「ほんと……新聞の効果って絶大なのね」
こうも会う度に同じ事を言われると少しうんざりする。リイムははぁぁ、と息を吐き出すと、再度力強く睨みつけ啖呵を切った。
「そうね、彼は私の男(仮)よ!!」
もちろん仮だという所はキッドには聞こえていない。そんな強気のリイムに興味が増したのかキッドもさらに話を進める。
「ハッ!こんな夜中に一人ほっつき歩いてていいのか?」
「束縛されるのって好きじゃないのよ」
「まァ、そうでもなきゃァ海賊なんてやってらんねェよな!」
ゲラゲラと笑いながらさらに距離を縮めるキッドに対抗するように、リイムはあえてその場から動かずに近づいてくるキッドを見据える。
「……悪い噂しか聞かねェ」
「それはあなたのほうでしょう?」
キッドは手を伸ばすとリイムの顎に手を添え、ぐいっと上へ上げる。それでもリイムはキッドを睨み付けたまま……頭突きでもかまそうか、急所でも蹴り上げようか、一体どうしてくれようかと、そして早く船に帰って寝てしまいたいと考えていた。

「おれの船に乗れよ」
「乗らないわ」
「ならおれの女になれ」
「酔っぱらってるのはそっちじゃない?誘い方ってすごく重要よ、死んでもない」
この手の言葉には慣れている。すぐに否定するとリイムはキッドの手を乱暴に振り払った。
「気が強ェ女だな、ますます気に入ったぜ」
「そりゃぁどうも」
「こういう女を服従させる事ほど面白ェ事はない!」
「ちょっと」
キッドはリイムの頭に手を回すと強引に顔を近づけて唇を重ねた。突然のキスは全く予想出来ていなかった為にリイムの反応は完全に遅れた。
「……!!!」
少々酔っていたとはいえ、不覚にも隙があった事に苛立ちを覚えるリイム。さすがの力強さにすぐに抜け出す事が出来ずにいると、キッドの舌がぬるりとリイムの口内を撫でた。
リイムは頭に力を込めて思い切り顔をそらしキッドの舌から逃げる。そして瞬時に足を蹴り上げ、その足はキッドの急所にめでたく直撃した。
「……!!!!って、てめェ!」
キスでもかませば多少大人しくなるだろう、そう思っていたキッドだったがリイムの反撃にしばらくその後の言葉が出てこないままその場で悶えていた。
リイムはそんなキッドに向かってバーカ!と叫び中指を立てる。
「クッソ……てめェそれが本性か?」
「私は、私よ。じゃあね、もう2度と会いたくないわ!」
そう言うとリイムはあっという間に数メートル先を、振り向く事もなく歩いていった。
「……死神リイムか、面白い女だ」
キッドはそう小さく呟くと股間を押さえたまま、満月の夜空の下でニヤリと笑った。



「おい、じゃじゃ馬娘、こんな時間まで何してたんだ」
そろり、とリイムは船に戻って扉を開ければ、そこには空の酒瓶を持って険しい顔をしたローが壁に寄りかかって立っていた。
「じゃじゃ馬なんて、失礼ね」
「勝手に抜け出してほっつき歩きやがって」
「私がどこで何しようと勝手でしょ」
「動き回るなと言ったはずだ、傷も完治してねェんだ」
「はいはい」
キッドの件、そして予想外に待ち構えていたロー。気が荒立っていたリイムはそのままローを無視して通り過ぎようとする。
「おい、話は終わってねェんだよ」
「……話す事なんかないわよ」
そう呟き進もうとすればコツンと通路を鬼哭でふさがれ、思わずカチンときたリイムはそのまま鬼哭を足で乱暴に払った。さすがのその態度に思わずローも声を荒らげた。
「てめェ酔っ払って帰ってきてイライラして人に当たってんじゃねェよ!!」
「人間だもの!そんな日だってあるでしょう?それにそっちだって酔っ払いじゃない!放っておいてよ!」
自分の発した言葉でリイムの中で何かがプツリと切れ、ローの胸倉を掴んで大声を張り上げてしまう。
「治るもんも治らねェって言ってんだよ!!」
「そしたら、死んで、それでおしまい、でしょう!」
「……」
それはもうリイム自身でも抑えようもなく、目からはポロポロと涙がこぼれ出す。ああ、面倒だ……だから話なんてしたくなかったのに。リイムはローの服を掴んでいた手を離すと下を向いて小さく呟く。
「私の、勝手……でしょ」
怒鳴ったかと思えば今度は泣き始めてしまったリイム。抵抗でもされたら本当に放っておくしかないと思いながら、ローはリイムを自分の胸へと収めた。
「ああもう!折角気分よく飲んで帰って来てたのに、全部キャプテンクソ野郎のせいだわ!!!」
「は?」
「3億1500万のピーーーーーーーなクソ野郎よ!」
「お前、ユースタス屋に会ったのか」
「気分よく帰る途中だったのに、あいつ、キスした挙句舌まで入れやがって!」
「……何やってんだよ」
「最悪!」
ローの胸に収まったせいか、そうではないのかはリイム自身もわからなかったが、あふれる涙と共にこのイライラをぶちまけてもいいのかもしれない、そう思うといつもの言葉遣いも何処かへ消えてしまっていた。
「だからそんなに殺気立ってたのか……よく騒ぎにせず帰って来たな」
「酔ってたとはいえ、そんな隙を見せた自分が恐ろしく許せないのよ!!勝負を仕掛けられる事ならあるかもって思ってるけど、まさかキスされるなんて思わないし!」
「それでおれに八つ当たりか、しかも……相当飲んだだろう」
「……」
「おまけにタバコくせェ」
「……」
「バカか」
リイムはそこまで吐き出した所で、一瞬でもローの胸で泣いてしまった事を自覚し、とたんに恥ずかしさが込み上げ言葉を失くす。これは一刻も早くこの場から立ち去ろう、そう思いリイムは顔をあげた。
「そうよ馬鹿よ悪かったわね!!明日は大人しく寝てるわよ!」

リイムはそのままローから離れ、自分の部屋へ向かって歩き出そうとしたはずだった。
「おいフランジパニ屋」
「何よ……っ」
ぐっと引っ張られるような形で振り向いた瞬間にローのドアップがリイムの視界に入ったかと思えば、唇に暖かい感触が感じられ、リイムはローにキスされてるのだと理解した。
カラン、という音がやけに大きく響いたと思うと先程までローが手にしていた瓶が床に転がっており、そのまま廊下の壁まで追い詰められて、両手も掴まれてしまう。
「トラっふぁるガーぁ!」
リイムはローの唇が一瞬離れた隙に叫ぶ。一体今日は何なんだ、そう思いながら目の前の男を見るも、いたって冷静そうないつもの表情のまま。リイムの胸に広がる何とも言えない感情は沸点を超える。
「ちょっと!!何してんのよ!」
「そんなにイライラしてんなら上書きしてやろうと思って」
「は?あなたも蹴られてピーーーーーーーになりたいの!?」
「うるせェな少し黙ってろよ」
再び口を塞がれてしまい、口内が少しずつローの舌で犯されていく。一体私は今何をしているんだろうか、何を考えたらいいのか……そしてリイムは気付く。
「と、トラファルガーも相当飲んでるわね!すごく酒臭いんだけど!この酔っ払い!!」
「タバコの香りがするのも悪くねェ」
「……っ」
「……早く帰ってこなかったのが悪い、ユースタス屋にキスされてんのが悪い。それに酔っ払いはお前もだからな」

しばらくの間、息継ぎの度に文句を言い合いながらもねっとりとしたキスを繰り返していたが、ローの握力が弱まった瞬間を逃さずにローの拘束から抜け出したリイム。
このふわふわとした、ぐるぐるとした気持ちは酒なのか何なのか、そんな事を思いながら、猛ダッシュで逃げるように部屋へと走って行った。



酔いて狂言、醒めて後悔?

「……私、酔って帰って、トラファルガーとキスしてたわね、しかもディープ、トラファルガーと、廊下で」
「珍しく酔った勢いとユースタス屋のせいとはいえ、一体何やってんだ……おれは」
「寝たら忘れていて下さい、割と本気で、お願いします」
「寝たら忘れろ、じゃねェと……めんどくせェ」

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