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ゴーイングルフィセンパイ号での二人


 あれ、待って待って。私は今、目の前で起こっている出来事を必死に理解しようとしている。私達はゾウに向かっていて、ルフィ達と一緒にバルトロメオの船に乗せてもらっている。
 そして、ロビンやフランキーに気を使われてとある空部屋、というか物置でローと二人で話をしていた、のだけれど。

 壁にもたれながら、並んで座っていた私とロー。彼の生い立ち、コラソンさんとの出会いも、別れも、その後の友人との、ベポ達との出会いも。私は一つもこぼさないようにと、話を聞いていた。
 そのせいか、感情移入しすぎて泣きそうになった。泣くとローに色々言われると思って、対角線上の部屋の隅のクモの巣を見たり、置いてある樽の数を数えたり樽を構成している板の数を数えたり、顔にどうにか力を入れたりしたけれど……無理だった。
 泣かせたいわけじゃねェんだと言われて、申し訳なくなってしまったが、ありがとうと小さく聞こえてきて、結局私は大泣きしてしまった。本当に涙もろくなってしまってこの先が思いやられるが、もうこの際なので先の分まで泣いておくことにした。

 そして今後について、というよりはルフィ達のと関わりについての話になって……まぁルフィにとっては、私達はすでに仲間のような存在のようで、ローも半ば諦めているのか、この先長い付き合いになるのでは、と考えているようだった。

 それで、だ。私達はそんな話をしていたのだけれど、今私はすっぽりとローの腕の中に納まってしまっている。
 最初はただ、手と手が重なって、私もローの手を握り返しただけだった。その後小さく、ハァとため息がひとつ。つないでいた手が離れたかと思えば、同じように壁に寄りかかって座っていたローは身を返し、私に向き合うような体制になっていた。そして説明した通り、伸ばされたローの腕の中にすっぽりと、ええ。

「……ロー?」
「何だ」
「さっきの、何のため息?」
「ため息なんかついてねェ」
「ハァ、って言ってたじゃない」

 ぎゅっと、ローの腕に力が入ったのが分かった。ちなみに、私はどうしたらいいか、どうするのか正解なのかまだ測りかねていて、両手はただ下におろしたままだ。
 すると、ローは一度腕の力を緩めて私の肩に置くと少しだけ間を取った。薄暗い部屋だけど、もう目は慣れていてその表情は見える。片方の手が私の後頭部に回されて、引き寄せられるように近づいてきたローの顔。あ、これはキス、するのかな。
 今まで一緒にいて、人前じゃなくて、二人きりのときにこんな距離感になったことは何度もあった。でも、ドレスローザの港で別れるときまでは、しなかった。だって必要がなかったから。でも今は……私はゆっくりと目をつむる。
 やっぱりキス、だった。少しだけ触れて、角度を変えてまた触れて。ああ、それだけでどうしてか、急に力が抜けたような感覚になる。嬉しいと、幸せだと感じる。今までこんなこと、あっただろうか。
 そんなことを考えていると、少しだけローの口が開いて唇に舌が当たった気がして私もそれに応じる。舌と舌が接触した瞬間、それがスイッチだった。手持無沙汰だった両手を、私もローの背中へ回す。しばらくの間、どれくらいの時間だったかはわからないけど、ただただお互いがお互いの口内を貪るような、そんなキスを繰り返した。



「……リイムが、悪ィからな」
「え、何が?」

 唇が離れ、再びぎゅっと抱きしめられて、名残惜しいような気持ちもあったけど顔が見えないままローの反応を待つと、ローらしいというか、そんな言葉が返ってきた。

「……正直、あんなことがあったあとで都合がよすぎんじゃねェかと思って耐えようとした」
「耐える? 何を」

 あんなこと、というのはこのドレスローザの一件だろうか、それまでの出来事全部だろうか、死ぬ気だったこと、だろうか。どれかはわからないけど、きっとどれもなんだろうと何となく思った。

「この先、当分こんな時間ありゃしねェと思ったら、無理だった」
「……」

 ふわり、とローの右手が私の頬を撫でていく。こんな私でも、ローの言いたいことはわかった気がした。何より、その、あれだ。何がそうさせたのかわからないが、ローの下半身のものが、固くなったそれが当たった気がした。少しだけ、驚いた。
 正直なところ、私は私でローが興奮するとは思っていなかった。今まで恋人のふりとはいえ、あれだけ一緒の布団で寝たり、裸を見たり見られたりしていたのにそういったことが全くなかったからだ。
 途中からは、男のほうが好みなのではとすら思っていたりもした。出会った当初はそういうお店に行っていたことも色々考えたが、そのときの店の趣味嗜好、性別がどっちかとか知らないし、彼がどちらを好きだとしても、どちらもいけるのだとしても私には関係がなくて……そもそも色々ありすぎて勃たないのかもしれない、などと失礼なことも思っていた。ぐるぐると頭を巡る思考。それらはまとまることもなくぽろっと言葉に出てしまう。

「ローってどっちでもいけるのね」
「は?」
「あ、今のはなしで」

 ムードもくそもあったもんじゃない。むしろ私が台なしにしているのである。つまり、状況をとても簡単にまとめると、ローは私でオッケーと言うことである。これは喜んでいいところだと思う。いつからかはわからないが我慢していた可能性も、あるのかもしれない。

「なんとなく考えてることがわかった」
「あらあらあら……あら」
「なにがあらあら、だよ全く」

 そう言うとローは耳元にわざらしい音を立てて軽いキスをしてきて、今さっきまで散々キスしてたくせに、あらためて考えると恥ずかしさが込み上げてきた。
 そもそも、だ。こういった行為については過去にちょっとした勘違いをしていたことがあって……それは筋肉脳だった自分が悪いのだが、私は性行為がちょっとしたトレーニングになると思っていた時期があった。これは滅茶苦茶恥ずかしい。そりゃぁコウシロウさんに呆れられてしまっても仕方がない。
 真面目に好きな人とのセックスと向き合うとなるとちょっとどころじゃなくて恥ずかしさが勝つ。いつもの余裕とか、まるでない。あるはずが、ない。でもそれをローに感づかれたくない。だけどもう、早く触れてほしくてたまらなくなっていて……そんな自分にも驚いているところだ。

「とにかく、いざ自分が今生きていて、目の前にリイムがいて、じゃあ抱かせてくれってのは都合がいいんじゃねェかとも思うわけで」
「……それは、そこは、生きてたから。で、いいんじゃない? むしろ今まで全くそういう気を起こさなかったことのほうが私はすごいと思うけれど」
「そんな余裕、なかったからな」
「そっか……私は、私に魅力がないか、男性のほうが好きか、もしくは不全なのかとも思ったわ」
「……そう思われてても仕方ねェよな。結局は、大切すぎたんだよ」

 きゅっと、胸が痛むような感覚。大切すぎた、というのは私のことなのだろうか。ローからそんなセリフが聞けるとは思っていなくて、また鼻がつんとして、私の涙腺が緩んでいく。あ、だめだ泣く。

「また泣いてんのか? 泣くなって」
「これは、嬉しいほうだからいいの」
「ハァ……お前な……そうやって煽るなよ」
「べっ、別に煽ってなんかないし!」
「無自覚かよ、本当にタチが悪ィな」
「ロっ、ローこそ、さっきからなんだかんだ言って怖気づいてんじゃないの?」
「は? さっさとヤれってか? その言葉後悔するなよ」

 えっ、これはどう解釈すればいいのか。ついつい恥ずかしさを隠そうとちょっと強気に言い返してみれば、胸の痛みは、この涙は一体何だったのかと思えるそんな言葉。さっさとヤるとか、雰囲気もクソもあったもんじゃない。私が言えることではないのかもしれないけれど。

「大切すぎたんだよ、とか言ってた人のセリフとは思えないんですけど?」
「もうそれとこれとは話は別だ」
「それとこれってどれよ」
「リイムが大切だってのとさっさとヤるってことだ」
「いいわよ受けて立つわよ、そんなに我慢できないって言うなら何回もイかせてあげるわ」
「言ったな」

 あぁ、売り言葉に買い言葉……つい言い合いになってしまった。あれ、今気のせいじゃなければローはさらっと、とんでもなく嬉れしいことをぶち込んできた気がする。ちょっと混乱してよくわからない。それでも、こんなしょうもない言い合いをしながらも、私達はしっかりと抱き合ったままなのは、これがお互いの照れ隠しだと……そうなんだと思いたい。
 すぐに私は床に倒されてしまったけれど、見上げた先にあるローの表情を見たらうっかり別のスイッチが入ってしまった。このセックス、絶対にロー主導になんてさせてやらない。
 こんなことを考えてしまっている私も全く可愛げがない。出会ったころ、言葉の文だとローは言ってたけども、可愛げのねェ女はゴメンだと話していたことを思い出してしまう。本当に可愛げがない自覚はある。少しはあったほうがいいだろうが今更だ。でもロマンチックな恋愛やセックスを求めていたら私は海賊になんてなっていないし、ほかの海賊だってきっと、こんなものだろう。え? 違うって?
 負けず嫌い同士がこうなったらもう、しょうがない。仕方がないと思う。雰囲気なんてものは不要、たぶんローもそう思ってるはずだ。それでも、私は今、表情だけは隠せてないと思う。だってローも、そうだと思うから。



 そのあと、なぜか3回目が終わったあたりでお互いに急に冷静になる瞬間がおとずれた。何をこんなに意地を張り合いながらしているのかと、どちらからともなく謝って……それがなんだかとんでもなくおかしくって、大笑いして、続きはまた今度、ということになった。
 次はもうちょっと可愛げが出せたらいいなと、思う。

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