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後編です。
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始めて会ったときからずっとシズちゃんが好きだ。まさか一目惚れなんてないと最初は否定してきたけどシズちゃんが私以外の女と仲良くするのも喋るのも嫌で納得せざるを得なかった。
シズちゃんははっきり言ってかなりモテる。あのルックスにキレさえしなければ優しいし男前な性格だ。モテるなといった方が無理なのかもしれない。そんなシズちゃんだから当然言い寄ろうとする女や告白しようとする女は大勢いる。シズちゃんが好きだと自覚してからの私はこの女達をシズちゃんに近付かせてたまるかと必死だった。朝は下駄箱にラブレターなんていれるやつがいるからシズちゃんより先に登校してチェックしてたし、呼び出されたりしたらわざと喧嘩売ってこっちに注意むけたりした。
気持ちを自覚するまでに随分と犬猿の仲としての地位を築きあげていたために今更態度を変えることもできずにいた。それに犬猿の仲とはいえシズちゃんに一番近いとこにいる女は自分だと思えた。
しかし今日は失敗した。
朝から体調が悪くて遅めに家を出たらどうやら今日に限って朝イチでシズちゃんにラブレターなんて渡してくれた女がいたらしい。学校でもイマイチ調子が悪かったせいかそれに気付いたのは放課後。
シズちゃんがなんて返事をしたのかも分からないしその辺の女に取られるなんて冗談じゃない!!そう思ってシズちゃんを自宅付近で待ち伏せて真相を聞いてやろうと思った。
けど実際シズちゃんを目の前にして、シズちゃんがラブレターをくれた子にOKを出していたら?って思った途端に答えを聞くのが怖くなって真相を聞くどころかバカ!死ね!と連呼していた。お腹は痛いしクラクラするしで体調も相変わらず悪くて最悪だ。
そうしたらシズちゃんが急にわたしが怪我してるとかいいだして、それから…それからどうしたんだっけ??
「……。」
「わりぃ起こしたか?」
「しずちゃん…。」
目を開ければシズちゃんがなぜかわたしの頬を撫でていた。そもそも私なんで寝てるの?どこで寝てるの?と覚醒したての意識で考えれば次いでじくじくと下腹部から鈍い痛みがして顔をしかめた。
「お腹痛い…。」
「あー…。起きれっか?」
「うー…。」
のそのそと身体を起こせばシズちゃんが支えてくれる。シズちゃんが私に優しいとか何事。
「食欲ねぇかもしんねぇけど、これ食って薬飲め。」
「うーここは?」
「俺の家…。」
「ーーーなっ、え、なんで!?」
「いや、その…。」
言いづらそうに視線を反らしてシズちゃんが少し顔を赤らめる。
「お前、その生理で……ぶっ倒れて。おふくろはたぶん貧血だろうって…。」
「……。」
シズちゃんの言葉とさらに下腹部のにぶい痛み。納得が言ってしまった。なんてことだ恥ずかしすぎる。最近生理不順だったしまさかこのタイミングで始まるとは…朝から体調が悪かったのもこのせいだと考えたらつじつまがあう。っていうか私制服じゃないんだけどまさか…
。
「シズちゃん!!も、もしかして見たの!!」
「何をだ?」
「わ、わたしのは…裸っ。制服じゃないし。見たのっ!!」
必死でシズちゃんを問い詰める私。ブラは外されてるようだしそうなると必然的に裸を見られた筈である。裸を見られたとか、こんなことならとっておきの下着を着けておくんだったと今更慌てても仕方がないが慌てずにはいられない。
「ばっ!?見てねえから安心しろ!!お前家に連れてきて俺はすぐおふくろに家から追い出されたからな。その間におふくろが着替えさせたんだ。だから俺は見てねえ。」
いいからとっととコレ食って薬飲め!と少し顔を赤くしたシズちゃんにプリンとスプーンを押し付けられいろいろ混乱した頭を落ち着けるためにも私はゆっくりとプリンを食べるのだった。
「あのさ…シズちゃん。」
ちびちびと小さい口でプリンを完食し薬を飲んだ臨也がおずおずと口を開きベッドの縁に腰掛けていた俺を呼んだ。臨也にしてはめずらしく言いにくそうだ。
俯いた臨也の表情が分からなくて臨也のさらりとした髪を耳にかけてやりさらに覗きこむようにして表情をうかがえばやれば俺の行動に驚いたのか目を丸くした臨也と目があった。そしてその目はすぐに下を向いてしまった。
「臨也。」
「ーっ、シズちゃんは…あの子と付き合うの?」
ぽつりと臨也がつぶやいた。臨也のいう『あの子』とは今朝のラブレター女子のことだろうか。
「シズちゃん。」
さっきまで俯いていた臨也が今度はじっと俺を見上げていた。心なしか不安そうに見える。
「もし、もし付き合うんだったらやめた方がいいよ。シズちゃん馬鹿力で短気だし、絶対続きっこないもん。それに相手の子だって私と比べたら私の方が美人だし全然シズちゃんと釣り合ってないし、そもそもラブレターとか、…今時あり得ない、しっ…、あんな子が、…シズちゃんの相手っ、出来るわけないじゃん。」
最初は強めの口調だったのが段々と弱々しくなっていく臨也。不安そうだった顔はさらに眉をハの字にして目尻にはしっかりと涙の玉が浮かんでいてもう少しで決壊しそうだ。
これはいくら俺が鈍くても解る。臨也はおそらく俺に好意を持ってて、俺にラブレターを渡した相手に妬いている。俺の悪口を言い出したかと思えば相手じゃ役不足だ!だの俺に似合わないだのばっかり言っている。
零れそうで零れない涙をいっそもう溢れさせてしまえばいい。そう思って臨也の目尻に溜まった涙に指先でそっと触れれば、つっと柔らかそうな頬に雫が伝った。
「し、ずちゃっ…。」
「っと…。」
ぽすんと俺の胸に臨也が飛び込んでくる。
本格的に泣き出した臨也がしゃくりをあげて俺のシャツをぎゅっと握りしめる。
「やだ。しずちゃんつきあっちゃ、やだよ…っ。」
やだやだと子供のようにベソをかきながら俺にすがる臨也の姿は普段からは想像がつかない。しかしなんというかいわゆるギャップ萌え…というやつなのだろうか。そんな臨也を俺はかわいいと思っている。今まで全くなつかなかった猫がようやくなついたそんな気持ちなのかも知れない。
あやすように背中を一定のリズムでぽんぽんと優しく叩いてやるがいっこうに泣き止む気配はない。そういえばコイツは俺がラブレターをくれた女と付き合うと思って嫌だと泣いているんだったな。
「付き合わねえよ。」
「っ……?」
「ラブレターくれたやつは昼のうちに断った。だから付き合わねえよ。」
「ほ、んと?」
「ああ。」
「シズちゃん。」
「何だよ。」
「お腹痛い。」
もぞもぞと動いた臨也が俺の背中に腕を回しさらに密着する。ぎゅうっと抱きついて腹が痛いと訴える臨也の耳がほんのりと赤くなっていて腹は確かに痛いんだろうがそれよりも甘えたいのだろうと勝手に解釈することにした。
「お腹痛いから、薬効くまでもうちょっとこのまま…。」
「おう。」
顔以外にも存外可愛いところがある臨也が数分後落ち着いたかと思えばすやすやと気持ち良さそうに眠っていたと気づくのはおふくろが様子を覗きに来るときだった。
END
………………………………
これがきっかけで臨也は静雄の母にえらく気に入られて臨也も両親が海外赴任であまり母親と買い物とか料理とかしたことない臨也も静雄の母になついちゃうという。そんな続きも書きたいものです。ちなみに静雄はこれがきっかけで臨也をしっかり意識するようになりますというかもうこの時点で落ちてそうですね。
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