ジンクス


これは宿屋の主人から聞いた話から始まった、はた迷惑な騒動話である…。




「ジンクス…ですか?」

宿屋に泊まるために手続きをしていたルークたちは宿屋の主人からこの宿屋にはジンクスがあるんだと聞かされた。


「ジンクスって何だ?
食べ物か?」


ジンクスの意味を知らないお子ちゃまルー君は首を傾げて問い掛けた。



「今回、お客さんがとった部屋の相部屋の1つに2人で一晩明かせば、その2人は一生一緒にいられるってジンクスがある部屋があってね…。

有り難い事に今まで何組ものカップルが結婚して幸せに暮らしてるとか、何十年たっても今だに親友として信頼しあえる仲だって言葉をもらっていてね…。

いつもは予約でいっぱいなんだが…お客さんたちはラッキーだね!

誰か一生一緒にいたい人と今日は一晩明かすといいよ。
部屋は1号室から3号室まででジンクスのあるって部屋は2号室だから、あとはお客さんたちで割り振ってくれ。」



(一生一緒にいられる…!?)
(ジンクスなんて信用はしていませんが、これは内容が内容なだけに無視するわけにはいきませんね…。)
(ルークと一緒なんて素晴らしいわ…Vvv)
(これは何がなんでも譲れないし〜♪♪)
(私が、ルークと一緒に2号室に行きたいですわVvv)

各々、心の中でそんなことを考えていた。
どうやらルークが2号室で寝ることは決定事項にあるらしい。



「なあ!ジンクスってなんだよ〜?」




そしてルークはジンクスの意味を知らないために、全くおかれた状況を理解していなかった…。













***

「もういいよ!

俺はもう寝るから、部屋割りはみんなで後は決めてくれよ。」



ルークは意味を教えてくれないことにいじけたのか、ぷぅと頬をふくらませながら、1号室へと足を進めた。



「待てルーク!」
「1号室はダメですわ!」
「ルークは2号室だから〜!」
「そうです!2号室にしてください!」
「他の部屋は認めないわ!」


ガイたちは慌ててルークが1号室に入るのを止めた。
ルークはといえば、何故2号室じゃなければダメなのか分からず、きょとんとした表情を浮かべながら見つめていた。


「いいか、ルーク…。

今日のルークは2がラッキーカラー…じゃなくてラッキー数字だ。
だからルークは2号室で今日は寝た方がいい…。」
「そうなのか!?


そっか…分かった…じゃあ俺、今日は2号室で寝るよ!」


ルークはガイの言葉を真に受けて、両手の拳を握り締めながら真剣な表情で頷いた。



「じゃあ…今日、俺と一緒の部屋の奴も2がラッキー数字の奴か?」



ルークが問い掛けた言葉にジェイドが眼鏡をキラリと光らせながら口を開いた。


「ルーク…奇遇ですねぇ♪
実は私も今日のラッキー数字は2なんですよ♪♪」
「旦那は勘違いじゃないのか?

俺のラッキー数字が2なんだからな!」
「私だってラッキー数字は2だわ!」
「何をおっしゃいますの!?

私だってラッキー数字は2ですわ!」
「アニスちゃんだって2は譲れないよ〜!」




やたらと“ラッキー数字”と“2”を連呼するガイたち…。


ルークは、
「え!
じゃあ今日のラッキー数字はみんな“2”なのか…!?
すっげぇ…!」
と完全に信じて大喜び…。

ルークは気付いていない…。
目の前にいる仲間たちの間で火花が散っていることに…。


「いや〜…実は私…今日ラッキー数字の2に関わる何かをしないとこの先の人生がお先真っ暗になってしまうんですよ♪」
「アニスちゃんは〜、2号室って言葉自体がラッキーワードだから〜…今日は2号室に泊まる運命なんだよね〜。」
「俺も2号室に泊まらないと祟りが起こるって言われたんだよな…。」
「ΣΣ…そうなんですの!?

皆さん…大変ですわね…私…棄権した方がよろしいですわね…。」



ナタリアは、ジェイドたちのウソに本気で騙され、2号室に泊まることを断念した。

信じやすいのも困ったものである。



(よっしゃあ!
1人消えた…!)
(残るはあと3人ね…!)
(どうやって諦めさせよう…?)



ライバルのナタリアが消えて内心は大喜びのガイ、ティア、アニス、ジェイド…。

目の前にいる3人にどうやって諦めてもらおうか真剣に考えていた。




「ふわぁあぁ…。

ダメだ…俺、すっげぇ眠い…。


あのさ…みんなラッキー数字が2で2に関わることじゃないとヤバいんなら、俺も譲るから、後はみんな勝手に決めて別れて寝るか、切羽詰まってるみたいだし、最悪2号室でみんな寝たら万事解決じゃないか?


俺は1号室でいいからさ!

じゃ、みんなおやすみ〜…。」



ルークは眠い目をこすりながら、ジェイドたちにそう言うと、そのまま1号室へと姿を消した。


ジェイドたちは止める暇もなく姿を消したルークを呆気にとられながら、1号室に消えたルークを見ていることしか出来なかった…。


「……どうする〜?」
「ルークは1度寝たらなかなか起きないし…。」
「あれだけ眠そうにしていたのに起こしたら可哀相だわ…。」
「…大袈裟に言ったのが仇になりましたね…。」


ジェイドたちは1号室を見つめながら、悔しそうな表情を浮かべて呟いた。



「…どうしますの?
私は3号室で寝ますわね。

それでは皆さん…おやすみなさいませ。」



天然ナタリアもジェイドたちの大袈裟な言葉を信じていたため、心配そうに4人を見つめた後、3号室へと姿を消したのだった…。



「どうする…?

残ってるのは俺と旦那とアニスとティアだけど…。」
「もう適当でいいよ〜。」
「そうですね…適当でいいんじゃないですか?」
「じゃあ私は1号室で寝るわ!
おやすみなさい!」



ティアはすかさず、ルークと相部屋になるべく早口で言うと早足で1号室へと姿を消した。



その場にいた全員が
(しまった…!
ジンクスはなくてもルークと相部屋という特権が残っていたんだった!)
と自分の過失に舌打ちしたのだった…。





結局、アニスはナタリアのいる3号室へ、ジェイドとガイはジンクスのある2号室に泊まることになった。




結果的にガイはヴァンとの戦いのあと、マルクトの貴族として戻ったため、ジェイドとは嫌でも顔をあわせることになったために、ジンクスは悲しいことに当たっていたことになるが、ガイもジェイドもどうでもいいことだと思っていたために忘れていたりする…。







そして、その時他に泊まりに来ていた客はガイたちの言い争いのせいで満足に寝れなかったのは言うまでもない…。



そしてルークと相部屋になったティアはルークの寝顔を見ながら一晩中もだえていたが、それはティア本人しか知らないお話…。

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