Children's Day
「これは…どういうことだ…?」
ある街に滞在していたガイは頭を抱えてぽつりと呟いた。
…━━事の始まりはティアにルークを起こしてきてほしいと頼まれたところから始まった。
「ガイ、ルークはまだ起きていないの?」
「そうみたいだな…。
アイツは昔から朝が弱かったからなぁ…」
呆れたと言わんばかりにため息をつくティアにガイは苦笑しながら言葉を返した。
「明日にはこの街からも発つんだもの。
これから皆で食材やアイテムを買い揃えなきゃいけないの。
私達は買い出し準備もあるから、ガイ…ルークを起こしてきてくれる?」
「本当にルークって朝がダメダメだよね〜…」
「王族たるもの、そのようでは困りますわ…。」
「まあまあ…。
今から起こしに行ってくるから見逃してやってくれよ。」
完全に呆れ果てる女性陣をなだめつつ、ガイはルークがいる部屋へと向かった。
「ルーク?
まだ寝てるのか?いい加減に起きないとティアたちに怒られるぞ?」
扉をノックしながら、ガイはルークに声をかけた。
無論、それで起きるとは思っていなかったが。
━━ドタンッ!
「…━━…っ!」
━━バタンッ!
「……━━……!!」
とりあえず返事が返ってくるのを待っていたガイは部屋の中から聞こえてきた物音と誰かの声を聞いて思わず扉を開けた。
扉を開けたガイはピシッと音が聞こえてくるのではないかと感じるほど、ドアノブに手をかけたまま固まった。
「うぜえっての!フシャーッ!」
「うぜえって言うなよッ!キャインッ!痛いッ!耳を噛むなよッ!」
そこには小さくなった長髪のルークと、短髪のルークの2人がいた。
更に長髪ルークには猫耳と尻尾、短髪ルークには犬耳と尻尾というオマケつきだった。
「お前…生意気なんだよ!ふしゅ〜ッ!」
「そういうルークこそ、その言い草はないだろッ!
ガルル〜ッ!」
取っ組み合いのケンカをベッドの上でする2人のルークを見たガイは、
「あ〜…今日の夕飯はなんだったかな〜?」
と現実逃避した。
「尻尾は噛むにゃっ!」
「キャンッ!
そっちこそ耳は噛むのは反則だわんッ!」
ガイが現実逃避している間にも2人のルークのケンカはおさまることはなく、取っ組み合いのケンカはガイが止めるまで続いたのは言うまでもない…━━。
「これって…ルーク、だよね?
どういうこと〜?」
「小さくなってしまっただけではなく、ルークが2人になって…更に犬耳と猫耳まで生えるなんて…どういうことですの?」
「…でも、可愛い…∨」
「ティア、何かおっしゃいまして?」
「あ…っ////
なんでもないわ!」
ケンカを止めたガイは両脇に2人のルークを抱えてティアたちの前に現れた。
「ガイっ!
おやつは!?おやつをくれるって言ったよな!?」
「ジロジロ見るなッ!
フシャーッ!」
尻尾をぶんぶん振りながら期待のまなざしでガイを見上げる犬耳ルークと、女性陣にジッと見つめられ、睨みつけながら、毛を逆立てる猫耳ルーク。
面白いほどに反応が真逆で女性陣は頬を赤く染めた。
***
「…それで?
ガイは何をしたわけ〜?」
「可愛いけど…今のままのルークじゃ旅を続けることは出来ないわ。」
「説明してくださいますわよね?」
ボールを追いかけて遊び回る2人のルークを尻目に見ながら、にっこりと笑顔を浮かべてジリジリと近付いてくる女性陣にガイは後退りしながら慌てて口を開いた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!
俺がルークの部屋に行った時にはもうルークは2人だったんだ!
そ、それに…俺より疑うべき人物が他にいるだろう!?」
「おや、私に責任転嫁ですか?
嘆かわしいことですねぇ」
「Σ…って
ジェイド!?一体いつの間にここに!?」
「最初からですが?
そうですか、年寄りは存在感すらないと言うんですか…。
ショックですねぇ」
笑顔で言われても全く説得力がないのだが、ジェイドを相手に反論する気にもなれず、ガイはがっくりとうなだれた。
「Σ…なッ!?
なんだ!コレは!?」
更に状況も把握出来ていないというのに新たな人物も現れ、ガイはため息と共に再び頭を抱えた。
「あっちゅだ〜!
遊べ遊べ〜♪暇だったんだわんっ♪」
「ケッ!俺は人間なんかに飼い慣らされないからにゃッ!!」
「……。
おい…コレはなんだ?返答次第によって、叩き斬るぞ!」
アッシュの胸に飛び込んできた犬耳ルークとアッシュの足に猫パンチをする猫耳ルークの首根っこを片手ずつで掴んだアッシュは眉間にシワを寄せ、ジェイドを睨み付けながらそう言葉を発した。
「悲しいですねぇ…。
ガイといい、アッシュといい、こういうことはいつも私のせいにするんですから…。
悲しくて胸が痛みます。
あ…いたたたた。」
「うさん臭ェんだよッ!
「蹴るにゃッ!このワンコロ!」
日頃の行いが悪いから疑われるんだ!」
「旦那…悪ふざけもいい加減にしてくれ…。
「キャインッ!
ヴゥ〜ッ!そっちこそ蹴るな!このニャンコロ!」
こうなった原因はなんだ?」
「とっとと説明…
「フシャーッ!」
「わんわんっ!」
…チッ…ッうるせぇッ!」
犬耳ルークと猫耳ルークを片手ずつで掴むアッシュはケンカをしながら暴れる2人のルークに青筋をたてながら怒号を飛ばした。
突然、怒られた2人のルークはビクリと体を震わせ、すんなりおとなしくなった。
「…可愛い…Vvv」
そんな2人のルークの反応にティアはボソッと呟いたが、アッシュとガイはあえて聞かなかったことにした。
「俺は…悪くないニャンッ!ルークが先にケンカをしかけてきたんだにゃ!」
「先に猫パンチをしてきたのはルークの方だわんっ!
ウソをつくのはやめるんだわんッ!」
「…暴れていないにしろ、うっとうしいから言い争いもやめろッ!」
「「だって、ルークが…」」
「…ああ?」
「分かったにゃ…」
「静かにするわん…」
アッシュにギロリと睨まれ、獣耳組はそれ以上、反抗してくることはなかった。
「まあ、簡単に言えば今日は子供の日だったので…ルークに子供になっていただきました♪
犬耳と猫耳はサービスです∨」
「フン……、静かになればいいんだ。
…………………って、やはり貴様の仕業かッ!このクズ眼鏡がッッ!」
何の前触れもなく、あっさりと白状したジェイドの言葉にアッシュは眉間のシワを更に深く刻み、怒鳴り散らした。
「ふぎゃあぁあッ!」
「ぎゃいんッ!あっちゅ…怖いわん!」
静かにしていたのに、怒鳴り声が頭上で響き渡り、獣耳ルークたちはぴぎゃーと泣きわめいた。
「ほらほら、アッシュが大きな声を出すからルークたちが怖がっているじゃありませんか♪」
「ふざけるなッ!
人のレプリカに好き放題しやがって…!
今すぐ戻せッ!」
「無理です∨
今日は子供の日ですから♪」
「そんなふざけた理屈に納得するかッ!」
「ガイは…アッシュと一緒に参戦しないの〜?」
「…ジェイドとアッシュを見てたらバカバカしくなったよ…。」
「大佐の言葉から察するに、明日には元に戻りそうだし…。
私達は買い出しに行きましょう。」
「それでは、Wルークも一緒に連れていきませんこと?」
「楽しそう〜♪
アニスちゃん、賛成〜∨
じゃあ、アッシュの魔の手からちびっこルークたちを救出してきま〜すVvv」
スキップをしながら、鼻歌までご機嫌に歌いながらアッシュに近付いたアニスはアッシュの手から2人のルークをぶんどり、そのままティアたちと共に買い出しへと出掛けていった。
「このクソ眼鏡ッ!
なんだ!あれは!?人のレプリカを分裂するなッ!」
「子供の日のサービスなんですから、笑って見逃すのが大人だと思いますよ∨」
「テメェの理屈なんか知るかッ!
貴様は俺を怒らせたいのか!?」
「嫌ですねぇ∨
もう怒ってるじゃないですか♪言葉は正しく使いましょうね♪」
「会話が噛み合ってねぇッ!」
何を言ってもジェイドに軽口で返され、アッシュは完全に弄ばれているが、頭に血がのぼっているアッシュがそれに気付くはずもなかった。
余談だが、買い出しに出掛けたティアたちは2人のルークにおやつやおもちゃを買い与えてしまい、アイテムや食材が充分にそろわなかったという…━━。
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