焔の優しさ


「ガイ。
ルークの様子はどう?」
「ティア。
……まだ目を覚まさないよ。」
「そう…。」



ヴァンの野望を阻止するべく旅を続けるルークたちは、小さな町にある宿屋に滞在していた。
宿屋にある部屋の一室のベッドの上にはルークが固く目を閉じたまま横たわっていた。



「アニスとナタリアは?」
「…かなり落ち込んでいるみたい。」
「…ルークも2人に落ち込んでほしくて庇ったわけじゃないとは思うが…、落ち込むなという方が無理だろうな…。」
「…そうね…。」



ルークが意識を失った状態でベッドに横たわっているのは、魔物との戦闘中にアニスとナタリアを庇って大怪我をしてしまったからだ。
ここのところ、満足に休むことも出来ないまま戦闘を重ねていて、疲労はたまっていく一方だった。
疲労のたまっていたアニスとナタリアは背後から迫ってきている魔物に気付かず…、身を挺してルークが2人を庇った。
魔物の攻撃をまともに受けたルークは近くにあった大きな岩に体を叩きつけられ、意識を失った。

疲労のたまった体では、意識を失ったルークを庇いながらの戦闘を続けるのは不可能だった。

だからこそ、そんな時に現れたアッシュに感謝をせずにはいられなかった。



「…アッシュがあの時に来てくれなかったら…ルークは今頃、魔物に殺されていたわ…。」
「ああ…。
アッシュが来てくれて本当に良かったよ…。」



意識を失ったルークを見逃すほど魔物たちは優しくない。
一斉にルークに襲いかかった魔物にガイたちは悲鳴にも似た叫び声をあげた。
そんな時にアッシュはルークを守るように魔物たちの前に立ち塞がり、容赦なく斬り捨てた。
あの時、もしアッシュがいなかったら…と考えただけでガイたちはゾッとした。



「レプリカの様子はどうだ?」
「アッシュ!」



タイミングがいいと言うべきか。
落ち込むナタリアを励ましていたアッシュがルークの様子を見に部屋に入室してきた。



「まだ目を覚ましていないわ。」
「…そうか。」
「アッシュ、ありがとう。
お前が来てくれなかったら…ルークは…。」
「…たまたま通りかかっただけだ。」



感謝の言葉を口にするガイにアッシュはふいっと顔を背けながらそう言った。
だが、自分達が戦っていた場所は鬱蒼としげった森の中。
たまたま通りかかるような場所ではない。
ルークを守るように魔物と戦っていたアッシュは急いで来たのか、額には汗が滲んでいた。



「(…あのアッシュが急いで来るくらいだ。
ルークのことが気になって仕方ないってことなんだろうな…。

いや、ルークのことが大切で仕方ないのはアッシュだけじゃない。
俺たちも同じだ。)」



みんな、ベッドに横たわる朱に心を奪われている。
不器用だけど優しくて…否、優しすぎる朱のことが大切で…守りたいのだ。
だからこそ、傷ついてしまった時に自分の無力さを痛感してしまう。
ルークが庇ったアニスとナタリアは特に無力さを痛感しているだろう。



「…他人を守れるほどの実力があるわけでもないのに、無茶しやがって、このクズが。」
「…それがルークですから。
この子は優しすぎる。」
「…!
旦那!!」



アッシュに次いで現れたジェイドにガイは驚いたように声をあげた。
そんなガイにジェイドは「ルークを診に来ただけです。」と言いながらルークの腕を掴み、脈をとりはじめた。



「大佐…。
ルークの様子はどうですか…?」
「大丈夫…ですわよね…?」
「アニス!!ナタリア!」



気落ちしていたアニスとナタリアもルークが心配で仕方ないのか、瞳を潤ませながらジェイドの返答を待っていた。



「脈も安定しています。
もうそろそろ、目を覚ますと思いますよ。」



ジェイドの言葉に誰もが安堵した。



「…レプリカは俺が見ていてやるから、お前らは休め。」
「そんな…!!
だって、ルークは私とナタリアを庇って大怪我をしたんだよ!?」
「そうですわ!
ルークが目を覚ますまで休息なんてとれませんわ!」
「……気付いていないようだが、お前らの顔は相当ひどい。
寝不足もあるんだろうが…、レプリカが目を覚ました時にそんな気落ちしきった顔で会うつもりか?
そんなことをしてみろ。
コイツは自分のせいで気を遣わせてしまったと思うに決まっている。」
「……。」



アッシュの言葉にその場はしんと静まり返った。



「アッシュの言う通りです。
ここはアッシュの言葉に甘えて休みましょう。
目を覚ましたあとでも、ルークにはしばらく安静が必要です。
ルークに暗い表情をして会えば、間違いなくこの子は安静に出来ない。
自分を責めてしまうとは思いませんか?」
「……。」



ジェイドの言葉にティアたちはルークのことを心配そうに見つめたあと、頷いた。
ルークのことは心配でたまらないが、ここのところの強行軍でたまった疲労は色濃く残っている。
迷った結果、ティアたちは目を覚ましたらすぐに知らせてほしいと言ったあと、静かに部屋から退出した。



「……レプリカ。
はやく目を覚ませ。」



部屋にルークとアッシュ以外誰もいなくなったあと、アッシュはベッドの横にある椅子に腰掛け、ルークの手をそっと握った。


ずっと憎んでいた。
居場所を奪ったレプリカが憎くて憎くてたまらなかった。

だが、アクゼリュスの一件以来、必死に頑張るルークの姿を見ているうちにそんな感情は消え失せていた。
代わりに芽生えたのは愛しさだった。

甘い奴だと思っていたが、違っていた。
ルークは優しすぎる。
そしてルークのような優しさを自分はもっていないと知っているからこそ、アッシュはルークに惹かれた。
目の前で固く目を閉ざすルークを見ながらアッシュは、早く目を覚ましてくれとただ願い、ルークの左手を両手で握りながら、額につけた。



「あっしゅ…?」
「……!!」



ルークの手を握りながら額に手をあて、目を閉じていたアッシュは聞こえてきた声に弾かれたように顔をあげた。
そこには、ぼんやりとはしているが目を開き、こちらを見つめるルークがいた。



「…ここ…どこだ…?
おれ…なんで………、あっ!
アッシュ!アニスとナタリアは!?
無事なのか!?ケガは…ケガしてないか!?」
「落ち着け、レプリカ。
チビガキとナタリアは無事だ。
ケガをしたのはお前の方だ。」
「無事…なんだな?」
「ああ。
寝不足なのか、フラフラしてやがったから休むように言った。
他の連中も休んでいる。」
「よかった…。」



明らかにホッとした表情を浮かべるルークにアッシュは小さくため息をついた。



「(他人のことより、自分の心配をしろ。)」



そう言ったところでルークが自分より他人を心配するのをやめるとは思えなかったのでアッシュは胸中でそう呟いた。



「アッシュ?」
「そばにいてやるから、とっとと休め!」
「うん。
アッシュ、助けてくれてありがとう。」
「……見ていたのか?」
「意識なかったら見てないけど、わかるよ。
アッシュは俺を助けてくれた。
そうだろ?」
「……たまたまだ。」
「あんな深い森の中で?」
「……っ!
うるさい!さっさと休め!次に何か言ってみろ!
エクスプロードかますぞ!」
「えぇ…!?
いや、怪我人にエクスプロードかますなよ!」
「それが嫌なら早く休め!!」
「わかったから、そんなに眉間にシワを寄せるなって!」
「…フン。」



アッシュの不器用な優しさを噛みしめながらルークは眠りについた。
その後、眠るルークの看病をするうちにアッシュまでも眠ってしまい、ティアたちに怒られたアッシュはぶちキレてエクスプロードをかまそうとして、慌ててルークに止められたのだった。



END


※※※


ルークケガネタで、ルーク総受けのアッシュ落ちというリクエストを承りましたが、あまり総受け感が出なかった気がします…。


この話ではアッシュはルークに好意を抱いていますが、それを伝えてはいません。
今回、ルークのピンチを感じとり、慌てて参上したわけです。
ガイ様、華麗に参上!みたいにはなりませんでした(笑)


匿名様、リクエストにそえられたかどうか、不安ですが、こんなものでよろしければお受け取りください。

リクエスト、本当にありがとうございました♪

[*←前] | [次→#]








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -