微々たるもの

ルドガーは今、正に絶体絶命の大ピンチを迎えていた。



「……聞き間違いをしたようだ。」
「…あ、いや…その……。」
「ジュードが拐われたなどという聞き間違いをしたようだ。」
「聞き間違いじゃ…ない…です。」
「…ほう…?
確か、今日はお前の手伝いをすると聞いていたが?」
「…その通りです…。」



ルドガーは目の前の男にヒビリまくっていた。
なんていったって、怒りのオーラがハンパない。
今いる街を簡単に破壊してしまいそうなほどに恐ろしい。

あれ?目の間にいるのって盤若だっけ?
そう錯覚してしまいそうになるほどに恐ろしかった。



「まあまあ。
ルドガーを責めるより先にジュードくんの救出を優先させようぜ?」



ヒビリまくるルドガーに助け船を出したのはアルヴィン。
彼もそして他のメンバーもルドガーの手伝いに来ていた。

だが、ガイアスはアルヴィンの顔を見るなり、訝しげな表情を浮かべた。



「…貴様、いたのか?」
「最初からいましたけど!?
え!?俺って空気!?」
「でも、ジュードが拐われたのってルドガーが悪いって言うより…」
「アルヴィンが悪い、です!!」
「買い出しに行ってた時に起こったことらしいからな。」
「アルヴィン、サイテー。」
「そうだよ、王様!ルドガーだけを怒るのはおかしいよ!
だってジュードがさらわれたのは、アルヴィンのせいだし!
アルヴィンがキレーなお姉さんをナンパしてる間に街の人をヒトジチにとられて、抵抗できずに捕まるしかなかったんだよ!
アルヴィンがすぐに気づいたらこんなことにはならなかったかもしれないし!!」
「あっ!バカ…!!」
「ほう?我が弟と共にいながら、女にうつつを抜かしていて我が弟が拐われたと。
つまり…、命をそこで捨てたというわけか。
…立ったまま動くな。
痛みも感じる間もなく天へ導いてやろう。」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!
ジュードくんのことは、俺が命に代えても助けますから!どうか命だけは!!」



レイアの言葉から始まり、最後のエルの言葉を聞いた途端、怒りの矛先がルドガーからアルヴィンへ変わり、その次の瞬間…アルヴィンは目を疑うような早さで土下座をかました。

━━…ガイアスとジュードは血を分けた兄弟だ。

王の実の弟となればガイアスを王座から引き摺りおろそうと目論む者たちから狙われる可能性も高かったため、ガイアスは生まれて間もない弟と10年以上も離れて暮らしていた。

だが、ミラと旅を続けるジュードと運命の巡り合わせか、ガイアスは偶然の再会を果たした。

それからガイアスは会えなかった時を埋めるようにジュードを大切にした。

周りから重度のブラコンだと言われるほどに大切にしてきた。

ルドガーたちの間では“ガイアスを怒らせたくなくば、ジュードを狙う悪の者たちからとにかく守るべし”、“ジュードに何かあれば命はないものと思え”と言われるほどに大切にされている。

そんなジュードが拐われたのだ。
黙っているはずがない。



「……今はジュードさんの救出を優先させるべきではありませんか?」
「…む、そうだな。」



がたぶる震えるアルヴィンを尻目にローエンが優先すべきは何かをそっと諭すと、ガイアスは慣れない手つきでGHSの操作を始めた。
だが、メールも満足にうてないガイアスだ。
思うように操作できるはずがない。

途中でルドガーに使い方を聞いた。



「GPSでジュードの居場所を検索するにはどうすればいい?」
「えっ?
個人の居場所を検索出来るGHSは最近出たばかりだから…。」
「その最新のGHSだ。
もちろんジュードにも持たせている。
ジュードが俺の弟だと知っている者はほとんどいないが、医学者になってからは狙われる可能性も高かったからな。
万が一に備えただけのことだ。」
「でも確か…めちゃくちゃ高かったと思うけど…。」
「ジュードを守るためならば、微々たるものだ。」
「発売されたその日のうちに買われましたよ。」



驚愕するルドガーに対し、ガイアスは当然だと言わんばかりの返答を返した。

最近、GHSを所持していればその者の居場所を特定できるGPS付きの機種が発売した。

だが、最新の技術を取り入れたGHS。

最新のそれはとにかく高い。

借金返済中のルドガーなど、天地が引っくり返っても手に入れられない…否、それ以前に一般人では手の出せないような代物だ。
それを微々たるものだと言い切ってしまうガイアスにルドガーはGHSを操作しながら改めてガイアスのブラコンぶりを認識した。



「…どうやら、まだこの街にいるらしいな。」
「王様ー!まって!エルもいくっ!!」



ルドガーの助けのお陰でジュードがどこにいるのか突き止めたガイアスはすぐにその場に向かうべく駆け出した。
そして慌ててエルも追い、そのあとをルドガーたちも追いかけた。



「(…ジュードを拐ったアルクノアの連中…、今に後悔するぜ。
ジュードを拐うんじゃなかったってな。)」



ガイアスの逆鱗に触れたかつての仲間にアルヴィンは同情した。

五体満足ではいられないだろう。

それ以前にまさか王たるガイアスがジュードを救出しにくるなんて微塵も思っていないはずだ。

そんなことを考えながらアルヴィンもその後を追いかけた。




***



「コイツ、もう声も出せないぜ。」
「本当に強情な奴だ。
命は惜しくないらしいな。」



そしてジュードは薄暗い倉庫の中で傷だらけの状態で横たわっていた。
拘束され、反撃も逃走も出来ず、理不尽な暴力を振られていたジュードは指一本でさえも動かせなくなるほど満身創痍な状態だった。

それでも、彼らの要求に応える訳にはいかない。
自分の研究を悪行に使わせようとする彼らの要求には絶対に屈しない。

それは大好きな兄と交わした約束なのだから。

必ずこの研究を成功させてマナの満ちた世界にすると約束し、それを信じてくれたガイアス。

だから負けたくなかった。



「俺たちに従えないってんなら、仕方ねぇ。
……死ねよ。」
「お前みたいな薄っぺらい奴の命が1つなくなったところで誰も困らねぇよ!!」



ここまでか。
ジュードが諦めかけたその時だった。



「ジュードの命が薄っぺらいものならば、貴様らの命にどの程度の価値があるのか、じっくり聞かせてもらおうか?」



ドスのきいた声と共に男たちの体はいとも容易く吹っ飛ばされた。



「だ、誰だ!?」
「我が名はガイアス。
ジュードを拐っただけでなく暴言と暴力をふるったことを後悔しろ。」
「ガイアス!?
まさか…王様が!?」
「おいおい…。
冗談キツいぜ…。
あんなガキのために王自ら出向くとは…。」



予想だにしなかったガイアスの乱入に男たちは呆然とし、ガイアスの表情を見た瞬間、恐怖を覚えた。



「…ジュードを痛め付けておいてタダで帰れるとは…思っていないな?」
「ヒィッ!!」
「あ…、いや、こ、これは…。」



目の前に立つ男の気迫に完全にのまれていた。
表情を見ただけで死ねると思えるほどの恐ろしいその姿に男たちは腰を抜かした。



「ギャアアアアアアアーーーーーーーッッッッ!!!!」
「イヤアアアアアァァァアーーーーッ!!」



そのあと、男たちの悲鳴がしばらく響き渡っていた。



「…俺たち…、出番がまるでなかったな…。
ていうか、必要なかったな…。」
「王様1人でみーんな、ぶっとばしてたもんねー。
魔神剣で人ってあんなにポーンって飛ぶんだね、ルドガー!」
「普通は飛ばないから。」
「むしろ逃げないように拘束しておけって…あれだけ派手にぶっとばして…拘束しやすいように一纏めにしてほしいところだよ!」
「遠慮なく容赦なく拘束しておけって…すごく怒ってた、です!
あ、ティポ。
こっちに縄もってきてください。」
「あんなボロ雑巾になりたくないもんね〜。
もっとキツく縛らないとボクたちがボロ雑巾になるよー。」
「四大どころか、私の出番もまるでない。」
「…俺、改めて思い知ったけど…マジでジュードくんに何かあったら塵も残さず消されるな…。」
「ほっほっほ。
アルヴィンさんはこのあとに、そうなるかもしれませんがね。」
「いや、マジでシャレになんねぇから…。」



すでに意識のないジュードの体をそっと抱き上げ、ボロ雑巾のように倒れる男たちを遠慮なく踏みしめてこちらに向かって歩いてくるガイアスを見つめながらルドガーたちは口々にそう呟いたのだった。


End

※※※

ガイジュ兄弟設定でジュードが誘拐されてオールキャラで助ける話…というリクエストだったのですがガイアスさんで始まりガイアスさんで終わるお話になってしまいました…。

思いの外、ガイアスさんがブラコンになってしまった!!

このあと、アルヴィンがどうなったかはご想像にお任せします(笑)

こんなんで大丈夫でしょうか…?

無駄に長くなってしまい、申し訳ないです!
もっと纏められる素敵能力がほしい…。


リクエスト、ありがとうございました…!!

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