笑顔


「ルドガー、…最近…無理しすぎじゃない?」
「無理なんてしてないよ。
むしろジュードの方が無理してるだろ?
源霊匣の研究で忙しい中、俺の仕事まで手伝ってくれてるんだから。」
「それは、僕がルドガーの手伝いをしたいからしてるだけだよ。」
「…うん、ありがとう。
ジュードにも、みんなにも感謝してるんだ。
…借金も早く返済したいし…、今日もヴェルから連絡があったし、分史世界を破壊しないとな…。」



そう言いながら笑うルドガー。

でも、その笑顔が作り笑顔だってことくらい、僕にも分かるんだよ?
ねえ、僕は君の力にはなれないのかな…?
少しでも、力になりたいと思うのは…迷惑かな?

ルドガーの様子を見ていると分かる。

分史世界の破壊はルドガーに大きな負担となっているんだってこと。

分史世界が消える前に分史世界の人に恨まれるようなことだって何度もあった。

『人殺し』
『悪魔』
『化け物』

そんな言葉をなげかけられたことだってあるから…、無理に笑っているけどルドガーは疲弊している。
心も体も。

だから、最近の僕はずっと考えてるんだ。
ルドガーの…心からの笑顔を見たいって。

でも、僕が何を言ってもルドガーは『大丈夫』と言うだけで。

焦燥感にかられていた…、そんな時だった。

僕はルドガーと2人で魔物退治のクエストに出ていた。

僕もそしてルドガーも一体ずつ、連携を取りながら地に沈めていく。
ルドガーは強い。
だけど、心も体も疲弊してるルドガーは気付かなかった。

倒したと思っていた魔物が起き上がって、襲い掛かってきていることに。
襲い掛かってきた瞬間にルドガーもすぐに気付いたけど、ルドガーより僕の方が少し早く気付いていたから、僕は走った。

魔物はルドガーにその牙を向けていたから。
…ルドガーを助けたい。

その時の僕の頭にはそれしかなかった。



「…ぐ…っ!!」
「…ッ、ジュード…!!」



ルドガーを庇って、僕は魔物の攻撃をまともに受けた。
けど、僕はそんな痛みを気で抑えて魔物に攻撃を放つ。

すると、魔物は今度こそ倒れ…、起き上がってくることはなかった。



「ジュード!!大丈夫か!?
…俺を庇ったせいで…!!」



今の魔物で全て倒し終えていて、僕は膝をついた。
そんな僕のもとにルドガーが顔を真っ青にしながら駆け寄ってきたから、心配させたくなくて僕は笑った。



「大丈夫だよ、ルドガー。
━━…“治癒功”。
……ほら、これでもう大丈夫だから。
…でもね、ルドガー。
……少し、クエストも分史世界の破壊もどっちも休んだ方がいいよ。」
「…それは…。」



ルドガーは相当な無理をしてる。
だから、今回も魔物の気配に気付くのが遅れたんだ。

今の状態で戦い続けたら、いつかルドガーは大怪我をしてしまう。

僕だって源霊匣の研究があるから、毎回毎回、ルドガーの仕事の手伝いが出来る訳じゃない。
だから、心配なんだよ、ルドガー。



「せめて2、3日くらいは休もう?
その間は僕がご飯も作るよ。
ルドガーは休暇をとって、家でゆっくり休んでて。」
「ジュードの言う通りだよ、ルドガー!」
「…立ち止まってる暇はないんだ。」



いつも一緒にいるエルもルドガーが無理をしていることを心配しているようで、エルもルドガーに休むように言う。
けれど、ルドガーは首を左右に振りながら休むことを拒否した。



「立ち止まってる暇はないって…、だけどそれは無理をしていい理由にはならないでしょう?
僕だってルドガーのことをいつも手伝える訳じゃないから…だから…」
「放っておいてくれよ!
ジュードには分からないよな!!
世界を、壊して…恨まれる気持ちが…ジュードには分かるはずがないんだ!
ジュードだけじゃない!!
他のみんなだって!!
いつも手伝える訳じゃない?
だったら、余計な口出ししないでくれ!!」
「……ッ!!
…………そう、だね…。
ごめん…ごめんね、ルドガー…。」
「…!…あ、…ごめん…。」
「僕は大丈夫。
今のでクエストも完了したし、戻ろうか?」



そう言うとルドガーの顔を見ることが出来なくて…、僕は踵を返して街へ戻る道を進んだ。



「…ルドガー、あんな言い方ヒドイ!
ジュードはルドガーのことをシンパイして言ってるだけなのにっ!」
「……分かってる…。」



背後からルドガーの視線とエルの声が聞こえたけど、僕は振り向くことが出来なかった。




***



ジュードとケンカしてからもう3日経った。
いや、ケンカというか…俺がジュードに一方的な八つ当たりをしただけなんだけど…。

そんな俺にジュードは『大丈夫』だと言って笑った。
その笑顔が作り笑顔だってことくらい、分かる。

そんな顔をさせたのは、ほかでもない俺で。

エルには『オトナゲない!』とジト目で睨まれたりもしたけど、本当にその通りだ。

俺が自分で選んだ道なのに、ジュードに『俺の気持ちが分かるはずがない』と一方的に突き放した。

ジュードだって暇じゃない。
源霊匣なんて完成するはずがないと、夢物語だと周りから冷たい視線や言葉をぶつけられ、時にテロを企てるような奴に狙われたりもしながら、それでも諦めずに戦ってる。

ジュードだって大変なのに、合間をぬっていつも手伝ってくれる。

そんなジュードを俺は突き放してしまった。
あれからただ、後悔の念に苛まれていた。

だけど、自分でも色んな気持ちが渦巻いてて、どうしたらいいのか、ジュードに何と言えばいいのか分からずに…もう3日も経ってしまった。

ジュードに会えずにエルは常に膨れっ面。
どうしたらいいんだと思案しながら俺は自分のマンションに帰ってきた。

クエストやら、分史世界の破壊やらで帰ってくるのも1週間ぶりくらいだ。

膨れっ面のエルを伴いながら、俺は部屋の扉を開けた。

そして呆けた。



「あ、おかえり。
ルドガー、エル。」
「ジュード!!
ホンモノのジュード!?」
「…?どうしたの?」
「ルドガーがイクジナシだから、もうエルたちと会ってくれないかと思った!」
「そんなわけないじゃない。
だって、ルドガーもエルも僕の大切な人なんだから。」



そう言って笑うジュード。
ちょっと待ってくれ。
思考が追い付かない。
え、なんでジュードが俺のマンションに?

あれ?ケンカ、してたよな?
って俺が八つ当たりしただけだけど…。

早くも俺の頭はショートしそうな勢いだ。
そんな俺の様子に気付いたジュードは申し訳なさそうに眉尻を下げながら口を開いた。



「…勝手にお邪魔しちゃってごめんね…。
ルドガーの仕事、クランスピア社の方に問い合わせてみたら、今日辺りにこっちに帰ってくるって聞いたから…大家さんにお願いして、部屋に入れてもらったんだ。」
「ジュード、おれ…。」
「僕ね、あれからずっと考えたよ。
ルドガーに言われたこと。」
「…ッ、」



俺の言葉を遮り、ジュードが言葉を発した。
その言葉に俺は言葉が出なかった。
一方的な八つ当たりして怒られたって文句なんて言えやしない。

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ジュードはそのまま続けた。



「…ルドガーの言う通りだよね。
僕には…分史世界を破壊する苦しみを理解することは出来ないんだと思う。
理解しようとすることは出来るけど…全てを理解することは出来ないんだと思う。
でもね、僕は…ルドガーのことを少しでもいいから、些細なことでもいいから…支えになりたいんだ。
ルドガーの苦しみを一緒に抱えたいし、…ルドガーに笑っててほしい。」
「…ジュー…ド…。」
「…ルドガー。
僕はルドガーのことが大好きだよ。
だから…無茶をして…自分のことを追い詰めて苦しむルドガーを見ていられない。
無理して笑うルドガーを見たくない。
心配で心配で…仕方ないんだ。
それは、僕の偽りのない気持ちで…、でも僕にはルドガーを支えてあげることも出来ないし…、笑わせることも出来ない…。
無理に笑わせることしか出来ない。
それが悔しくて…僕には何ができるんだろうって、ずっと考えた。」



静かに語るジュード。
だけどジュードの言葉の一つ一つが、心にのし掛かってきた。

ああ、俺は…こんなにも心配してくれて、支えてくれる存在がいたんだと改めて強く認識して…、それが俺の心にのし掛かってきた。



「…僕に出来ることなんて…、一緒に戦うことと…こんなことしか思い付かなくて…。」



そう言うとジュードは背を向けてキッチンへと向かい…、何かを持ってきた。

そして、テーブルの上に置かれたもの。

テーブルの上に並べられたそれは、とても美味しそうなデザートたちだった。

エルが『おいしそー!!』と瞳をキラキラさせている。



「…ルドガーは休んでって言っても休んでくれないし…、それなら甘いものを食べて少しでも疲れを癒してもらえたらって…、こんなことしか思い付かなくて…。」



つまり、この美味しそうなデザートの数々は俺のために?
忙しい中、貴重な時間を割いて作ってくれた?

俺の疲れを癒してもらうためだけに。

…そう考えたら俺は本当に何をしてたんだと過去の自分を蹴り飛ばしたくなった。

俺はどうしたらいいんだと悩むだけだったけど、ジュードは俺のことを必死に考えてこうして行動に移してくれた。

そう思ったら、それだけで心が満たされた。



「ありがとう、ジュード。」



そう言いながらジュードを見たら、ジュードはほろりと涙を流した。



「ジュード!?ど、どうした!?
あ、ごめん…!ジュードのこと、傷付けたくせに何を今さらって思うよな!?
本当にごめん!!」
「違う…。
違うよ、ルドガー…。
僕…、ルドガーが最近ずっと無理して笑ってるところしか見てなかったから嬉しくて…。」
「ジュード…。」



ルドガーが嬉しそうに笑ってくれたから、思わず涙が溢れちゃったんだと言って泣きながら笑うジュード。
たまらず俺はジュードを抱き締めた。



「ルルルル、ルドガー!?」
「…ありがとう。
……ありがとう、ジュード…。」
「うん…。」



抱き締めながら、俺はジュードに感謝の気持ちを伝えた。



「ねえ!フウフのイトナミは後にして、食べようよー!」
「エ、エ、エ、エル!?
ふ、夫婦の営み!?
ぼぼ、ぼく…ぼくは、そそ、そ、そんな…っ!!
そ、そ、そんなんじゃ…!!」
「……ぷっ。」



エルの発言に激しく動揺し、顔を真っ赤にして慌てふためくジュードを見てたら俺は思わずふきだした。

笑われたジュードは最初こそ恨めしそうに俺のことを睨んでいたけど、途中で一緒になって笑った。

それから、ジュードが作ってくれたデザートに舌鼓を打ちながら何気ない談笑をしつつ盛り上がった。

「ジュードの腕なら店が出せるんじゃないか?」と言えば、「それはルドガーの方でしょ?」と返され、エルが「それならエルが、カンバンムスメになってあげる!」と顔いっぱいに食べ滓をつけながら笑う。

そして食べ滓をナフキンでそっと拭くジュード。

本当に何気ない出来事。
だけど、そんな何気ない出来事が俺の心と体を癒してくれた。

それはきっとジュードが俺のことを心配して、支えてくれるから。
そばにいてくれるから。

ああ、こんな些細な時間ってすごく大切なんだなと改めて認識した、忘れられない1日となった。

End
※※※


疲れたルドガーにジュードが甘いものを作る、というリクエストだったのに…あまりその設定が活かされてない!!

私が「ルドガー、いつもお疲れさまー!」と言ってジュードが甘いものを作って渡すよりちょっとケンカみたいになって甘いものを作って楽しく過ごす的な話が好きなのでこうなっちゃいました。

ジュードくんなら、八つ当たりされたとしてもどうしたら元気になってくれるかな?って考えると思いまして。

これだとルドガーが、相当ヘタレに…。
どこかの豆腐メンタルな彼みたいになってしまった…。
あ、いや、誰とは言いませんよ?
だって可哀想じゃないですか。
アル憫が、可哀想じゃないですか!
なので、名前は言いません!

へ?言ってるようなものだって?
いやだなー。言ってませんよー。

…とまあ、意味の分からないこと言ってますが…自堕落様…長いわりにしょうもなくてごめんなさい…。

こんなしょうもないものでよろしければお受け取りください。
ありがとうございました…!!

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