君のそばで





俺はずっとワルターに憎まれてると思ってた。

ワルターにとってシャーリィを守ることは大事な使命で、自分の存在意義でもあると思っていたから…。


だから、陸の民である俺がシャーリィと一緒にいることも、同じ陸の民であるウィルたちと行動を共にしてシャーリィを助け出そうとしていることも、ワルターにとっては許せないことなんだと思ってた。




――――…あの時までは…。


















***


「弱い…。
弱すぎる!!
この程度で俺に勝つつもりだったとは…呆れを通り越して、滑稽だな!」
「ぐあぁッ!」
「お兄ちゃん…!」


シャーリィを助け出そうと雪花の遺跡へと乗り込んだセネルたち。
しかし、憎むべき敵…ヴァーツラフ相手に手も足も出ないまま、全員が力無く地に伏していた。


動く気力も体力もないセネルを見下しながらヴァーツラフはセネルを思いっきり踏みつけた。

踏みつけられたセネルは強い痛みに悲鳴をあげた。




「お前ごときにメルネスを救うことも、守ることも出来ん。

雑魚の分際でずいぶんと邪魔をしてくれたものだ。
その安っぽい命、散らすがいい。」
「やめてーーーッ!!」





セネルに向かって振り下ろされる剣を見たシャーリィは悲痛な叫び声をあげた。




















***


「セネル」
「!

ワルター!」
「ぼんやり空を見上げてどうした?」
「…あの時のことを思い出してたんだ。」
「あの時のこと?」
「雪花の遺跡でのことだよ。」
「ああ…、あの時か…。」



水の民の里の中にある湖に足をつけ、ぼんやりと空を見上げるセネルに近付きながら声をかけたワルター。
セネルの隣に腰をおろし、会話を交わしながらワルターはセネルの顔をそっと盗み見た。

セネルの顔はとても穏やかで、ワルターはそれを見たあと、セネルと同じように空を見上げた。



「俺さ…、ずっとワルターに憎まれてると思ってた。」


心地好い風が2人の頬を撫でる中、セネルはぽつりと呟いた。
その呟きを聞いたワルターは眉を寄せ、セネルを見ながら口を開いた。


「…俺がお前を?」
「…親衛隊長として強い使命感を持って頑張るワルターにとって俺はただ邪魔な存在でしかないんだって…ずっと思ってた。」
「俺がお前を憎むはずがないだろう。」
「うん。
今はそう思える。
あの時…雪花の遺跡で…、ワルターは俺を助けに来てくれただろ?

あれから俺はワルターの気持ちにようやく気付くことができた。」
「…あのあと、マウリッツには『お前はメルネスの親衛隊長であって、セネルの親衛隊長ではないのだぞ』と言われたな。」
「ははは…。

でも…あの時は嬉しかった。
嬉しかったんだ。」




ため息まじりに呟いたワルターの言葉にセネルも苦笑を返すしかなかった。
そしてそのあと、過去を思い返すようにそっと目を閉じた。










***




「貴様は…!!」
「大丈夫か、セネル?」
「ワ…ルター…?

どうして…。」
「動くな。

お前は重傷を負ってるんだ。
コイツは俺が相手をする。」
「なん…で…、俺を…?」



ヴァーツラフにやられそうになっていたセネルを助けたのは、ワルターだった。
まるでセネルを庇うように立つワルターの背中を見たセネルはボロボロの身体を叱咤し、起き上がろうとしたところを止められた。

ワルターの表情はとても心配そうで、それを見たセネルは強い戸惑いを覚えた。


「雑魚がどれだけ集まろうとも、雑魚は雑魚。

わざわざ死ににくるとは愚かな奴だ。」
「貴様がセネルを痛めつけたのか?

ならば、手加減は不要だな!」
「待て…、ワルター…。
早くシャーリィを…シャーリィとステラを助けてやってくれ…。

ワルターはシャーリィの…親衛隊長だから…早く…。」
「だから俺は反対だったんだ。
セネルが陸の民と行動を共にするなど…。
俺のそばにいれば、こんなヒドイ目に遭わずにすんだはずだ。」
「ワルター…?」
「セネル、俺がここにいるのは他の水の民たちの総意だ。
メルネスだけでなく、セネルも共に救い出してほしいと。

だから俺はここにいる。」
「…ワルター…。」
「くくく…。

ははははは!
仲良しごっこをしたければ場所を選ぶべきだったな!

メルネスはこれからも役立ってもらう。
セネルには死んでもらう。

もちろん、貴様もな!」
「セネルを傷付けた報いは受けてもらう!
覚悟しろ!!

…それに、セネルを助けたいと思っているのは俺だけではない。」
「なんだと…?」











***




「…あれから他の水の民たちも来て、助けてくれた時は本当に驚いた。」



そう…、あのあと他の水の民たちがセネルやシャーリィ、ステラを救い出そうと一斉に雪花の遺跡へと乗り込み、一気に形勢は逆転した。


おかげで、セネルもシャーリィも、ステラも救い出された。
救い出された時、水の民たちから本気で心配されたセネルは嬉しさから一粒だけ涙を零したことをワルターは知っている。


「セネル、確かにお前は陸の民だ。

だが、お前の存在をここにいる水の民の誰もが認めている。
だから、あの時も危険もかえりみず、お前と…メルネスを助けに来たんだ。」
「うん…。

俺は…小さい時に父さんも母さんも死んでいなかったから…、俺にとって水の民のみんなは家族も同然なんだ。
だから守りたい。」
「だが、お前は俺が守る。
いいか、お前はいつも無茶ばかりしすぎだ。
無茶をする前に俺に頼れ。
いいな?」
「…前から思ってたけど、ワルターって雪花の遺跡での出来事以来、俺を過保護にしすぎじゃないか?」
「過保護にもなるだろう。
さっきも言ったが、お前は無茶をしすぎだ。

マウリッツからセネルが陸の民と行動を共にしていると聞いた時は気が気じゃなかった。
一応セネルは陸の民とはいえ、お前は水の民と長く暮らしすぎていて、陸の民どもと馴染めなくていじめられてはいないか、嫌な役回りを押し付けられて苦しんでいないか…気になってお前を必死に探して雪花の遺跡に向かってみれば、お前は殺されそうになっていて…。
どれだけ心配したことか…お前はまるで分かっていない!」
「ご、ごめん…!」


今までにないほどに口早に話すワルターの迫力に圧され、慌てて謝ったセネル。



「セネル、これからは俺のそばにいてくれ。

…お前の隣にいるのは俺で在りたい。」
「ワルター…。

うん。ずっとそばにいる。」


謝ったセネルの手をそっと握り、真剣な表情を浮かべながら言ったワルターの言葉にセネルは強く頷き、手を握り返した。







そして、それを嫉妬に満ちた眼差しを向ける影が複数いたことに2人は気付いていなかった。


その複数の影の中にステラとシャーリィも含まれていたのは言うまでもない。



END


※※※

素敵なイラストをプレゼントしてくださった数見様に捧げます。


憎まれていると思っていたセネルだけど、水の民の人たち(ワルター含む)に心配されて驚くセネルというリクエストを承りましたが、こんなカンジで大丈夫ですかね…?


ちなみに嫉妬のまなざしを向けている人の中にひっそりとマウリッツさんもいるという裏設定が…。

こんなもので良ければお受け取りください。
数見様、いつもありがとうございます!

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