うたたね姫




旅の途中、休憩にはうってつけの見晴らしの良い小高い丘を見付けた。

絵に描いた様な、若草の絨毯が広がって。
強弱をつけて吹き行く風が、丈のあまり長くない草芽達を、さざめき揺らして逃げる。

雲一つない快晴の陽射しは、容赦なく燦燦と降り注ぎ。
思わず目を細める程に、キラキラ、眩しくて。

パノラマ仕立ての青と緑が際立つ。

その中心に、これまた絵に描いたみたいな立派な大木が聳え立っていて。

樹齢なんて見当もつかないぐらいに見事で。

その尊厳な立ち姿に、皆が皆、押し黙ったまま息を飲んだ。

細かく散らばる名も無い花々の、色彩豊かな様子も。
時折聞こえてくる、語り合う様な小鳥のさえずりも、虫の声も。

何もかもが煌めいていて。

生命の素晴らしさ、尊さを。
改めて実感する。

「・・・綺麗だね」

デントが、ポツリ、一言。
感嘆の溜息混じりに呟いた。

ポケモン達にとっては、その情景に酔いしれるよりも。
遊びに興じる方がいいみたいで。

「ヤナヤナ!」
「ピッカァ!」
「キバー!!」

キャッキャッと喜び勇んで、丘中を駆け回り始めた。

「俺もー!!」
「私も遊ぶー!!」

サトシとアイリスも。
荷物を放り投げるや否や。

いつの間にか手持ちポケモン全員出して、草原へとひた走る。

「やれやれ・・・」

皆、子供だねぇ・・・

デントは、二人分の荷物を拾い集めて。
ふと、考えた。

(いや、僕が老けてるんだろうか?)

なんて、苦笑いを浮かべながら。

落ち着けそうな大樹の下へと。
皆の後を追うように向かった。



(さてさて、おやつは何にしようかな・・・)

遊び疲れて。
お腹を空かせて帰ってくる皆に。

手早く、簡単で。
たくさん食べられる様に、と。

(やっぱり、パンケーキが妥当かな?)

遠く、近く。
跳ね回る声を聞きながら。

クスリ、一人で笑って。
準備に勤しむのだった。

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

頃合いを見計らって、焼き出したパンケーキ。

案の定、匂いに誘われてか、数分もしない内に。
「お腹空いたー」の合唱が始まった。

もちろん、ポケモン達にはポケモンフーズをてんこ盛りの大サービス。

こっちも、何枚焼いたかなんて数えてはいないけど。
おそらく、積み上げればてんこ盛りだったに違いない。

(さすが子供胃袋)

一体、あの細身のドコに消えてしまうのやら・・・

でも、正直嬉しくて仕方ない。

奪い合いをしながらも、美味しそうに食べてくれて。
尚且つ、用意していた量を完食寸前まで平らげてくれるなんて。

旅の台所を預かる者として。
これが喜ばずにいられようか。

パンケーキの素がすっかり底を尽き。
最後の残り数枚を焼き上げてる時には。

先程まで、やれどっちが大きいだの、たくさん食べ過ぎでズルイだの。

大騒ぎだったのが、嘘みたいに静まり返ってしまった。

デントは、グルリ、周りを見渡して。
大樹の下、仲良く並んで横になっているのを見付けた。

「イッツお昼寝タイム、ってトコかな?」

微笑ましい光景を眺めながら、自分の分を食べて。
手際良く後片付けを済ませて。

足音を立てないよう、慎重に。
皆の輪に近付いた。

ポケモン達はポケモン達で固まってグッスリ眠っている様子。

風になびく草花の切尖が、サワサワと触れる度に。
ピカチュウの耳が、ポカブの鼻が、ミジュマルの足が。

ピクピク、小さく動くのが可愛い。

アイリスは・・・
どうやらキバゴとエモンガと、木の上に居るらしい。

大樹を見上げると、心地好い木漏れ日の暖かさと、風通しの良い枝振りに。

きっと、アイリス達もグッスリ眠っているんだろうと感じた。

サトシは、大樹の幹にもたれ掛かるみたいに眠っていて。

妙な体勢だと寝違えないだろうか、と心配しながら。
起こさない様に、そっと傍らに座り込んだ。

横顔を覗き込むと。
普段は見えてるようで見えてなかった、別の人間みたいで。

不覚にも少し、ドキリ、とした。

(睫毛、長いな・・・)

あまりじっくり眺める事もないから。
思わず見入ってしまった。

熟睡してるからか、微動だにしないサトシ。

そっと指を伸ばして。
その長い睫毛に触れてみた。

指先を掠める感触がこそばゆくて。

でも、面白くて。

右に、左に。

何回も触っていたら。

「・・・ん、」

サトシが小さく唸りながら、身じろいだから。
慌てて腕を引いた。

が、ただそれだけで。

また眠りに落ちていったみたいだったから。

調子に乗って、再び睫毛をゆっくりとなぞってみる。

両眉が、ピクリ、動いて。
言葉にならない呻き声を発しながら。

手の甲で、目をゴシゴシ擦ると。
また眠ってしまった。

(・・・面白い)

デントは、楽しそうに口端を上げて。

目を覚まさない様に、ジワリ。
サトシの顔に、自分の顔を近付け。

「・・・、ん・・・」

起きかけで震える睫毛に、柔らかく口接けた。

「・・・デント?」

寝ぼけ眼で、未だ覚醒しきってない無防備な表情は反則だな・・・

「おはよう、サトシ」



うたたね姫の夢は、そっとキスで終わらせたい。

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

END

※※※

いつもあたたかいコメントで励ましてくださる南橘様から素敵な小説をいただきました♪

情景が自然に頭に浮かんで本当に素敵です!

デンサト好きなのになかなか小説として書けないので、本当にすごいなって思います。

ほのぼのとしてて、ほっこりしました
(^^)

南橘様!!
素敵な小説をありがとうございました♪

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