雨の日の憂鬱
雨が降る。
雨が降ると思い出すのは前のマスターのこと。
ワタシが、彼を見限るきっかけを作ったのは、今日みたいな雨が降った日だった。
「ツタージャ!つるのむちで、火の粉を弾き飛ばせ!!」
「タジャ!?」
「いいから早くやれよ!」
彼はいつもそうだった。
バトルをすれば、いつも無茶苦茶な指示を飛ばす。
炎タイプの技を草タイプの技で弾き飛ばすなんてどう考えても不可能だ。
けれど、彼は出来ると思い込んでいるようで、戸惑うワタシに怒号をあびせた。
マスターからの指示だからと、精一杯やってはみた。
けど、結果はワタシの予想していた通り、つるのむちは炎に焼き払われてしまった。
そのあとはメロメロを使って何とか勝利はしたけど、代償は大きかった。
体の至るところは炎で焼けただれていて、じくじくとした痛みは消えてくれなかった。
…身体中のヤケドはヒリヒリして痛かった。
でも、それ以上に痛いところがあった。
「何とか勝てたから良かったものの、何であの時、つるのむちで火の粉を弾き飛ばさなかったんだよ!?もっと頭を使えよな!!」
本当に使えないよな!!という言葉と共にモンスターボールに戻されたワタシ。
不利な相手でも、無茶苦茶な指示をされても頑張ったつもりだった。
それなのに、彼は思っていた勝利ではなかったから、決してワタシのことを褒めたり励ましたりしてくれることはなかった。
それでも、いつかは無茶苦茶な指示をしてることに気付いてくれると信じてた。
ヤケドを負っているワタシはポケモンセンターで治療を受けることはなかったけれど、それでもいつかは…、そう思っていた。
それから数日後…。
旅を続けていたその日はバケツをひっくり返したかのような土砂降りの雨が降っていた。
「くっそ!!なんで俺がこんな目に…!?
出てこい、ツタージャ!!」
モンスターボールから出てきたツタージャは信じられない状況に目を見開いた。
雨のせいでぬかるんでいたのか、彼は足を踏み外したらしい。
崖の途中から生えていた木にしがみついていた。
しかも、その木はかなり朽ちているらしく今にも崩れ落ちそうだった。
「おい!ツタージャ!早くつるのむちで俺を助け出せ!!」
「タ、タジャ!?」
動揺を隠しきれないまま、ツタージャはすぐさまつるのむちで木にしがみつく男を救い出そうとした。
だが、ツタージャは人間の子供と比べてもとても小さい。
何の支えもない状態でいくら子供とはいえ、人1人を持ち上げるとなると、至難の技だ。
それでもツタージャは自分のマスターを助けるために、必死に体を張って助けた。
だが、その代わりにツタージャが落下してしまった。
そして落下した時に体の至るところを強打して、ツタージャは飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止めながら、助けてくれると信じて崖の上にいるマスターを見上げた。
だが、土砂降りな上に踏み外した時の恐怖心や雷まで鳴り始めたことで怖くなったのか、彼は恐怖に怯えた様子で言った。
「お、俺はこの先のポケモンセンターに行ってるからお前は自力であがってこいよ!
ポケモンなんだからそれくらい出来るだろ!!」
そんな声と共に走り去る足音が聞こえてきた。
走り去る足音を聞きながら、ツタージャは静かに涙を流した。
信じていた。
いつか、ワタシのことをちゃんと見てくれる日がくるって。
でも、彼はワタシのことなんて少しも見てくれなかった。
ワタシはポケモン。
でも、万能じゃない。
大怪我を負った今の状態で自力で脱出するのがどれだけ大変か、少し考えれば分かるはずなのに。
ヤケドだって治りきってないのに。
人間なんてきっとみんなそうなんだって、そう思ったら一気に気持ちが冷めていくのを感じた。
それから、雨に体力も体温も奪われた状態で必死に崖上に上がったワタシはふらふらになりながら何とかポケモンセンターにたどり着いた。
そのあと、タブンネが私に気付いて治療をしてくれたけど結局彼は治療を終えて戻ったワタシを見ても気遣ってくれることはなく、明日また次の街に行くぞ、と言っただけだった。
それを聞いたワタシの心の中で何かが切れた音がした。
それからワタシは彼の腰からワタシのモンスターボールを奪ってそれを破壊してただ逃げた。
もう、何から逃げてるのか分からなかった。
もう、人に使われるのはごめんだという思いでいっぱいだった。
あんな思いをするなんてもうごめんだ。
だから、ワタシは一生…野生のまま生きていく。
そう思いながら、ただあのトレーナーから逃げた。
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