【虫籠のコンステレーション】13/05/02

 小さい頃、アニメ映画の真似をして蚊帳の中に蛍を放したことがある。
 映画のようにふわふわとは飛んでくれなかったが、点滅する小さな光は眠るまで幼い永井を楽しませてくれた。


 脈絡もなく甦った記憶の光を掴むように、天井にむけて手を伸ばす――当然、掴むものはない。光の欠片も、ここにはない。
 真っ直ぐ掲げた永井の腕は未明の闇に溶けこむように輪郭を曖昧にし、自身の所在さえ見失いそうだ。
 ぱたりと音を立てて布団の上に落とした腕に、かたい指先が触れた。手首まで辿り、掌を包むように握りこんでくる。
 黙ったまま握り返すと、吐息で笑う気配がした。
 姿のみえない温もりを感じるごとにひたひた押し寄せて胸を塞ぐ、感情の名前を永井はよく知っている。
 それを口にするかわり、感情をくれる人を呼ぶ。
「おきたさん」
「うん」
 身を寄せる永井に短く応じ、腰を抱き寄せるてのひらのやさしさに、目の奥からこみあげた熱が溢れて、するりと頬をつたった。

 泣けてくるくらい好きなひとと閉じ込められるなら、暗闇の籠に光る蛍にでもなれそうだ。



【少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録のサントラ聴いてたら浮かんだ話だけど内容はとくに関係ない。】13/05/06

 疲れはてた足を引きずって、重い鉄扉の先、コンクリに囲まれた薄暗い部屋にたどり着く。
 鉄格子の窓は外から塗り込められて、意味をなくしている。ここが世界の行き止まりだ。
 音を立てて瞬く、いまにもフィラメントが焼き切れそうな裸電球が照らす煤けた会議机を、向かい合わせになったパイプ椅子が挟んでいる。
 机の上には、奇妙なカードがぽつんと取り残されていた。
 指をさす手が黒一色で描かれた、黒い縁取りのあるカード。
 指先が指し示す方角にあるのはパイプ椅子の片方。
 その上には、襤褸布を接ぎ合わせてつくった、奇妙な人形が座っている。
 ……デフォルメされているが、毛糸でこしらえたオールバックの髪型にどことなく既視感のある人形の胸には、安全ピンで名札らしき紙が留めてある。
『沖田』
 乱雑な文字は、確かにそう読み取れた。
 もう一方の椅子の上には、短く逆立てた髪の人形……『永井』と名札がついている。
 永井は泥と乾いた血がこびりついて黒くなった手をカードに伸ばし、『沖田』を指していた指先を、『永井』に向けた。



 ぐったりと力を失った永井の肩を三沢と共に支え運びながら、沖田は焦燥と後悔に苛まれていた。
 墜落する機内で庇ったはずの永井に逆に庇われるかたちで、無傷でいる自分が許せない。永井の呼吸は浅く、苦痛の呻きも弱い。
「大丈夫だからな、永井」
 コンクリの床に寝かせるのがしのびなく、せめてと膝に頭をのせて、短い髪や冷えた頬を撫でながら呼び掛ける。
「三沢三佐が外部に連絡取ってるから、すぐに助けがくる。お前は健康優良日本男児だろ? こんな怪我すぐに治るよ」
 声が震えてしまいそうだ。
 意識をなくした永井の顔色は青い。炎上するヘリから何も持ち出せなかったため、応急措置すらできないが――したところで気休めにもならないのは、沖田にもわかっていた。
「永井……死なないだろ。お前は、大丈夫だよな。なあ、永井、永井」
 ついに涙まじりになった懇願にも、目を閉ざした永井は応えず、ひゅうひゅうと苦し気な息だけを繰り返している。
 最後の息が止まってしまうまで、沖田は永井の名を呼び続けていた。



 鉛のように重い足を無理やり動かし、肩で押し開けた重い鉄扉の先、灰色の打ち放しに囲まれた薄暗い部屋にたどり着く。
 鉄格子の窓は外から塗り込められて、意味をなくしている。ここが世界の行き止まりに思える。
 じりじりと瞬いて、今しも焦げて切れそうな裸電球が照らす煤けた会議机を、向かい合わせになったパイプ椅子が挟んでいる。
 机の上には、奇妙なカードが一枚きり取り残されていた。
 指をさす手が黒一色で描かれた、黒い縁取りのあるカード。
 指先が指し示す方角にあるのはパイプ椅子の片方。
 その上には、襤褸布を接ぎ合わせてつくったような、奇妙な人形がくたんと力なく座っている。
 毛糸でこしらえた短髪にどことなく既視感のある人形の胸には、安全ピンで名札らしき紙が留めてあった。
『永井』
 乱雑な文字は、確かにそう読み取れる。
 もう一方の椅子の上には、黒髪を後ろに撫で付けた人形……『沖田』と名札がついている。
 沖田は泥と乾いた血がこびりついて黒くなった手をカードに伸ばし、『永井』を指していた指先を、『沖田』に向けた。



 見覚えのある道を歩いて見覚えのある扉をあけて見覚えのある部屋の見覚えのあるカードを引っくり返す。
 死ぬか生きるか、いつも片方しか選べない。



「え?」
 初めて見る場所なのになぜだか厭きるほど繰り返しているような錯覚を生む部屋に踏み入り、永井は目を瞬かせた。
 椅子の上に、誰かが座っている。
 彼は永井の気配に気付いて顔をあげ、唇の端を痙攣させた。……笑ったらしい。
「なんだ。沖田さんじゃねえのかよ」
「お前……」
 誰かなど問いかけるのもバカらしい。
 もうひとりの永井がそこにいる。
「ああ、でも、もしかしたら……沖田さんもそこで俺を待ってんのかな。『俺が死んだ』可能性の世界、で」
 沖田の人形が置かれた椅子を指して、もうひとりは力なく呟く。
 永井が生きれば沖田が死ぬ。
 沖田が生きれば永井が死ぬ。
 そして最後には違う世界に流されて、魂になっても、会うことができない
「そんなの……納得できるかよ」
 奥歯を噛み、永井は机に大股に近付いた。置かれたカードに手を伸ばし、折れるのも構わず掴み上げる。そうして、宙に持ち上げ……力一杯、引き裂いた。
 呆気に取られるもうひとりの前で、四つに、六つに、八つに裂いて床に撒き散らす。
「俺は、認めない」
 腹に力をこめて、宣言した。
「……は」
 もうひとりが顔に手を当て、笑いだす。
 場違いなほど、明るい笑いだった。
「俺の癖に、冴えてんな」
「俺だからだろ、そんなの」
「そうだな。……なあ、これで、他の『俺』が変わると思うか」
「他の、じゃねえよ。俺が変えるんだ」
「そっか。それ、いいな」
 もうひとりの微笑が姿ごとぼやけ、薄れて消えていく。
 裸電球が激しく点滅し、強く光ってから消える刹那、永井はもうひとりの叫びを聞いた。

「沖田さん……!」

 驚きと喜びに彩られた声。


 会えないなら、世界の壁を壊せば良かった。


 暗闇から、ゆっくりと浮上する。
 目を開けると、沖田の笑顔がそこにあった。
「良かった、永井……気がついたか」
「沖田、さん……」
 呼んだとたん、喉に飛び込んだ油臭い煙に咳き込む。
「おい、ここにいたら危ないだろ。行くぞ」
 感情の窺えない声と表情で告げてきたのは三沢だ。
「他の生存者は」
「俺たちだけだ。……他は、いない」
 問いを遮った三沢の答えに、沖田は一瞬だけ表情を歪めたが、すぐに口許を引き締め、永井を助けおこした。
「自分で歩けるか、永井」
「問題、ありません」
「よし」
 既に背を向け、歩き出していた三沢を二人で追う。

 絶望的な状況だと理解しながら、永井は、『どうにかなる』とわけもなく確信していた。



(沖田さん生きてれば上手くいったかもね的なマニアクスの記述が頭からはなれないよねっていう。)
(そんなファンタジー。)


【ただの語り】13/4/29
ところで携帯のエロ漫画系バナー広告のアオリが『人は極限状態になるとエロくなるの』。


つまり?


神風永井くんは、エロい……?


闇沖さんがアップを始めましたね。


闇沖「えっちな永井に襲われて逆レイプされたらどうすればいいんだろう……」(真剣)
ニヤ「衛生兵、衛生兵ー。この人隔離しろしー」
スコップ「沖田二曹の殻はガタがきてるからな……」
闇沖「でも下はちゃんと機能してるから永井を満足させらr」
スコップ「はっ!無意識に殴り倒してしまった」
パンダ「よし、今のうちに鍵かけとけ」



それはさておき、永井くんが一樹の手をはなしたのは、おやっさんのせいもあるけど、市子がノリコに手を振りほどかれた時のイメージを受信してしまったから……だとして。

永井くんにとっては『最後の人間』である一樹に見放された、裏切られた、だからもうここに踏みとどまって闇人を殲滅し尽くすしか生き延びる術はないって思い込んでたとしたら。

殺戮者になった永井くんが人間の領域から爪弾きされて、闇人の世界に落ちた因果がそこにあるとしたら。

悲しいですね。

どうあがいても絶望エンドもSIRENらしくて好きだけど、本気でやるせない永井エンド……どうにか救いが欲しいねー。


『淋しい夢はもう終わり、と君は言う。』
てフレーズがぽっかり頭に浮かんだのですが、さて、なんの歌だか詩だかほかのなんだかは思い出せず。
夢を見ていたのは『君』なのか語り手なのか。
あるいは、これから終わらせるのか。

『これで終わりです』
『これで……終わり』

悪夢を終わらせたくて、諦めずにがんばった永井くんの最後がゲームオーバーなんて悲惨すぎて。
捕獲された永井くんと飼育係闇沖さん’のセカンドステージはあるのか……。


などと考えてたら悲しくなってしまったので、永井くんの髪の毛をわしゃわしゃするのが好きな沖田さんと、犬っころ扱いかよとちょい不満ながら、頭撫でられるとどうにも気持ちよくて沖田さんテクニシャン?とドキドキしてしまう永井くんでも妄想しとく。
沖田さんちで宅飲みしてて、うとうとしてきたとこで、布団敷いたからこっちで寝ろよーと肩を揺すられ、ぼんやり見上げて
「あたま、なでてください」
「ん?」
「なでてくださいよぉ」
「おー、よしよし」
酔っぱら沖田さんに笑われながらわしゃわしゃされて、笑顔で抱きつき。
「へへ……気持ちいいです」
「そっか、撫でられんの好きかー」
頭やら背中やら撫でられてヘヴン状態になりつつ。
「沖田さんだいすきですー」
黙ってしまった沖田さんの手が止まり。
あれ?て思ったところで、抱き締められ。
「永井……」
熱い吐息で呼ばれて、首筋がぞくっとしたとこで。
「俺も大好きだぞー」
わっしゃわしゃされて、二人で笑って、じゃー寝るかー、と。
ナチュラルにひとつの布団で寝てしまう、のは、わりとよくあることながら。
「沖田さぁん」
やたらとなついてくっていてくる永井くんの頭や肩をなでなでしてあげる沖田さん。

で。

朝。

「なあ、永井」
「はい……」
「なんでこうなったか覚えてるか」
「……沖田さんは、覚えてるんですか」
「俺、酒で記憶飛んだのは26の時に宴会でストリップやったのが最後なんだ」
「そんな情報いらないです。……俺も、覚えてますけど」
しばし沈黙。
着てた服は布団の内外に散らばってる。
ついでに、いろいろなものが散らばってる。
何かは言えないけど。
「痛くないか、永井」
「痛いに決まってんじゃないですか。沖田さんめちゃくちゃするし」
「すまん。なんだ、その……責任は取る」
「いや、あの……自分も悪のりしてたっていうか、べつに」
沖田さんの顔が曇ったのを見て慌てて追加。
「あ、あの、沖田さんのことは好きです。レンアイとかじゃなくて、人として?ほんとです。だから、その……いいかなって」
「もっと自分を大事にしろよ」
「それ今の沖田さんが言ったら駄目なんじゃないっすか」
「……冷静だな永井」
「驚きすぎて逆に平常心なんすけどね」
「あるよな、そういうこと」
「はい」
「悪いが俺は平常心じゃない」
「そうっすよね……もう、忘れてください」
「忘れられるわけないだろ」
「?」
「好きなんだよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「惚れてるってことだからな」
「……まじですか」
「まじです。……本気で針振り切れてるな、お前」
「ちょっと待ってくださいね」
深呼吸ひとつ、枕に突っ伏して。
「わああああああああああああああああ!!!!!」
絶叫。

続きを読む 2013/05/29 12:37
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