「な、永井!?」 「び……びっくりがびっくりで相殺されてどっかいきました……」 突っ伏したまま、じわじわと赤くなる永井くん。 「おきたさん」 「ん」 「……頭、なでてください」 「うん」 気持ちいいけど、それだけじゃなくて。 「あの、」 顔をあげられないまま。 「俺ほんとに、沖田さん好きなんです」 「……うん」 「だから困ります、こういうの」 「……だよな」 「ゆうべだって。俺、すげえ嬉しくて。……でも、沖田さんは……」 「えっ、ちょっと待て永井、俺のこと好きなの?」 「さっきから言ってるじゃないですか」 「困ること、ないよな?」 「沖田さんのこと、レンアイで好きになったら、俺、沖田さんのことしか考えられなくなります。沖田さんはオトナだから、うまく切り替えられるかもしんないっすけど、俺は絶対、変になるから」 「変、って?」 「沖田さんのそばにいたいとか。撫でてほしいとか。そればっかになりそうで」 「あのさ、永井」 「かっこわりい」 「むしろ可愛いけど、そうじゃなくてな。それ、今と変わらなくないか?」 「……んなこと……」 「あるだろ」 「……かもしれないです」 「はあ……はは、参ったな」 「?」 「こら、まだこっち見んな」 「沖田さん?」 ぎゅうっと抱き締められて、涙声で「好きだよ」なんて言われたら、永井くんは「俺は、大好きです」てちょっと対抗するしかないよね。
というような、あたまわるいBL展開はいかがかね。 如何ともしがたいな!
歩きながら考えてた落ちとは変わってしまった。
酔ったはずみで永井をモノにしてしまって悩む沖田さん。 「……本当なら、最低だってぶん殴られてもいいのにな」 両手をついて平謝りする沖田さんに、笑って首を振った永井くん。 ―― いいんです、忘れてください。 ―― 俺も忘れます。 ―― 事故ですよ、こんなの。 事故じゃない。 だって、永井は俺を好きだって言ってくれたじゃないか! ……なんて、自分とは意味合いが違うのはわかっていて、ひどいことをしたと反省会。 「……いっそ殴ってくれよ」 嫌われなかったことに安堵して、まだ脈はあるんじゃないかなんて考えて自己嫌悪。 それにしても永井のシャワーが長い。 下心抜きで様子を伺いにいくと、水音と泣き声が聞こえてくる。 「おきたさん……」 自分を呼びながら泣いて、いるような。 理由を確かめるのが怖いのと自責の念と憐れみとでぐるぐるしつつも声をかけてみる。 「永井、大丈夫か?」 「……っ、おきたさん……俺、は、大丈夫ですから……」 声が弱りきって大丈夫そうじゃない。 「開けるぞ」 「え、待っ……!!」 開けたら、永井くんが顔真っ赤で隅っこに縮まってる。 足元には……液溜まり。 掻き出してたのか、そんなに出したんだな俺、と客観視して呆れつつ、そんだけ永井に興奮してたんだなーと感慨深かったり。 で。 永井くん隠そうとしてるけど、もしかしなくても立ってますよね。ナニが。 「……あ、悪い……」 「で、出てってください」 「ごめん、ほんとに」 シャワーの湯を浴びつつ、壁際に手をついて覗きこむと涙目で見上げられて。 「してた、のか?」 「……」 「俺のこと呼びながら」 「そんなんじゃないです!」 「じゃあ、どうして」 「だ……って、俺、……ごめんなさい」 「なんで謝るの」 「俺、ほんとはわかってて……酔っ払ったふりして、沖田さん……ユーワクしたんです」 はい? 「沖田さん、酔っぱらうと俺のことぎゅってするから、もっと、いっぱいしてほしくて……最低なこと、して。すみませんでした」 いーや、待て待て待て待て。 「永井、おまえ……俺のこと好きなのか」 「すみません」 「わ、泣くな。泣かなくていいから」 「気持ち悪いことして、すみません。嫌われたって、あたりまえのことして……だけど俺、カラダだけでもいいって、思い出いっこあればいいって、思ったんす。嘘じゃないです。もう二度としませんから」 「永井!」 びくっとした永井くんの肩つかんで。 「もうよせ」 「……」 「俺はお前のことを嫌いにならないし、二度としないのもごめんだ。身体だけなんてもっと駄目だ」 「う……」
ついに嗚咽しだしてしまった、思い込み激しい後輩を前に、さてどうしてくれようかと楽しくなってきちゃう沖田さん。
……というオチでもなく、永井くんが「じゃあ付き合いましょう、俺たち」て真顔できっぱり言い切る男前展開が頭のなかにあったはずが見当たらなくなった。
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