※変なパラレル。 コメントお返事から続いてたりします。が、見なくても全然問題ありません。 手直しして再掲しようと思ってたのですけども、結局そのまんま。 orz <手抜きでごめんなさいのー。
【狐沖田さんと神職見習い永井くん。】 【神無月が終了しました。】 【残念な沖田さんがログインしました。】
<前回までのあらすじ> 三沢さんが神主な神社の祭神・沖田さん(天狐)。 小さい時から知ってた永井くんがたいへん可愛く成長したので、嫁にする!と決意。 (主に三沢さんが)苦労を重ねて、社にお迎えしました。 ……が、ここは現代日本であり、永井くんちは普通のおうちなので、人身御供とか神の花嫁とか言って納得してもらえたら誰も苦労しねえんだよ!(と、沖田さんのこめかみぐりぐりする三沢さん。) 体裁を整えるため、建前上は、高校卒業後に神職見習いとして就職した形になった永井くん。 で、実質は沖田さんの嫁……っていっても、形だけでもできるようになれ、と、三沢さんががっつり教育してくるので、日中はまともに働いてたりします。 逆に、嫁を構いたくて&構ってもらいたくて隙あらば仕事さぼっていちゃつこうとする沖田さんがよく三沢さんに叱られてます。 そんなこんなな新婚半年めの10月。 神無月なので、ボス(稲女様)について出雲出張を余儀なくされた沖田さん。 永井おいてくのやだー!とゴネたものの、三沢さんに叩きだされて出発しました。 そして一カ月。
十一月一日、である。 秋晴れの空の下、竹箒で境内の落ち葉を掃きながら、永井は浮き立つ胸を押さえきれずに鳥居をちらちらと見やっては背伸びし、その向こうから現れるはずの人影を捜していた。 ひと月に及んだ出張が終わり、沖田が帰ってくる。 三沢もいることだし、留守はしっかり預かると宣言したものの、電話もメールもない状況では会えない寂しさは募る一方で、待ち遠しくて仕方なかったのだ。 それも終わりだ。 今日からはまた一緒にいられるのだと思うと、嬉しくてにやけてしまう。 朝食の席で三沢に「沖田さんいつ帰ってくるんですかね」と訊ねたところ、「知らん。今までは毎回あちこち寄り道して、ひどい時には一週間遊び回ってやがった」という返事だったが。 「……今は永井がいるからな。日のあるうちに帰ってくるんじゃないか? それと……覚悟は、しておけ」 重々しく、かつ、苦々しく付け加えられた言葉は、前半しか耳に入らなかった。 「まだかなぁ」 何度めかの背伸びをした時、耳を劈く轟音と共に、永井の視界が真っ白に染まった。 「なっ……あぁ!?」 竹箒に縋り、一瞬の眩しさに眩んでちかちかと赤やら黒やらの色彩が渦巻く目を擦っていた永井を突風が襲った。 否、落雷の中から飛び出してきた男が、思い切り抱きついてきた。 「よーりとー! 俺だよ俺ー! ただいまー!!!」 「お、沖田さん……?」 未だ覚束ない目を忙しなく瞬きながら、首筋にぐりぐりと顔を擦りつけてくる男の背に腕を回す。 「会いたかった……! あー、頼人のにおいがする……癒される……!」 「ええと、おかえりなさい……ってか……沖田さんですよね?」 沖田の他にこんな奇行をかます人外がいても困るのだが、一応、質問する。 目が眩んでいるせいなのか。抱きしめられた視界に揺れている尻尾の本数が、いつもより多い。ついでに、白い。 ―― 1、2、3……何本だこれ。 埋もれたら気持ち良さそうではあるが、根元はいったいどうなっているのだろうと、沖田よりそちらの方が気になる。 永井の問いに、沖田らしき人物はびくりと震え、身を離すと永井の両肩をがっきと掴んだ。 「一カ月で俺のこと忘れちゃったの!?」 「ぜんぜん忘れてませんけど……輪郭が、俺の知ってる沖田さんじゃないような気がします」 主に、しっぽが。 驚きも度を越すと頭の中がフラットになるもので、永井は見たままの感想を率直に述べた。 「あっ、雷マトモに見たよな!?」 「あれ雷だったんですか」 青天の霹靂。 どうりですごい音と光だった、と納得する。 「ごめんな。とにかく早く帰りたかったから、こっち方向に帰る雷神に便乗させてもらっててさ。俺は穀物系だから、雷系と水系とは仲良くて……っていや、そんなのどうでもいいな」 神様界にもなにやら人脈だか派閥だかがあるらしい発言をしつつ、沖田(暫定)は永井に顔を寄せ、右目をぺろりと舌で舐めた。 「ひっ!?」 まともに眼球を舐められて竹箒を放りだし、素っ頓狂な悲鳴を上げてしまった永井に構わず、ぎゅっと閉じた左目も強引に瞼をめくって舐められる。 「うあっ、わっ…………あ、見える」 「うんうん、ただいま頼人!!」 どうやら今のが治療だったらしく、クリアになった視界に―――沖田なことは間違いないが、やはり、見覚えのない存在がにこにこと満面の笑みを浮かべていた。 ぽかんと口をあけた永井に、沖田が「ん?」と首を傾げる。 その頭の側面から、大きな耳が飛び出しているのは、別にいい。寝惚けた沖田はよくコレを出している。 ただ、色が違う。 永井の知っている沖田の耳は黒と焦げ茶のグラデーションだし、尻尾は金色だし、髪も黒い。 今、目の前にいる沖田は、全体的に白い。ついでにいうと、背後に扇のように広がっている尻尾は、見えてる範囲で五本だ。もっと言えば、目の端と頬に、彼がよく被っていた狐面と同じ、金と赤の紋様が浮かんでいる。 「……豪華版……?」 「へっ? …………おわあ!!!」 呆けた永井の呟きと視線とを辿った沖田が、これまた聞いたことのないような悲鳴をあげて、掌を突き出した。目隠しをされた格好で、ぱちくりと瞬きをしたのは五秒。 すぐに外された掌の向こうには、いつもの、尻尾以外は人間と変わらない姿の沖田がいた。 「頼人、頼むからいま見たものは忘れてくれ……!」 悲壮な表情をしていてもイケメンはイケメンだなぁとピントのずれたことを思いつつ、永井は肩に置かれた沖田の手に自分の掌を重ねて訊ねた。 「今のって、沖田さんの本当の姿、ってやつですか?」 「……いやその……営業用、というか……正装……?」 「よそいきですか」 「うん、まあ……そんなような」 はあ、と溜息をついた沖田の尻尾は下がりきって、地面にくっついている。 永井にあの姿を見られたことがよほどショックだったらしい。いま、耳が出ていたらそれもしょんぼりと垂れているはずだ。 「……引くよな?」 低く問われ、永井は首を横に振った。 「見慣れないけど、すごくかっこよかったです」 「ほ……本当に? 本当か?」 「はい! 迫力あって、ラスボスみたいで、かっこいいです!!」 どちらかといえばラスボスの二つ手前の強い中ボス(智将タイプ)、という感じだったが、ここは盛っておく。 腹に力を籠めて答えると、沖田の表情がほっと緩み、狐耳がぴょこんと飛び出した。尻尾もぴんと立つのを見て、可愛いなどと思ってしまう。 ついでにようやく、沖田が帰って来た実感が湧いてくる。永井はにこりと笑い、先ほど沖田にされたように力いっぱい抱きついて、沖田の肩口に頬を擦りつけた。 会いたくてたまらなくて、会えて嬉しいのは自分も同じなんだと、ありったけの気持ちを籠める。 「俺、どんな沖田さんだって大好きです。お帰りなさい!」 「頼人……!」 感極まった声と共に体が浮き、景色がぐるっと回った。 山賊に攫われる乙女よろしく、沖田の肩に担ぎあげられた姿勢で、石畳の上に放り投げられた竹箒が目に入る。 「俺まだ掃除中で……」 「さっきの雷はてめえか沖田!」 鬼の形相で社務所から出てきた三沢に、沖田が朗らかに手を振る。 「あ、ただいま三沢さんー!」 「ただいまじゃねえよ、人がいたらどうする気だ!」 「いないから下ろしてもらったんですってば」 神主と祭神の会話とは思えないが、これが日常なので永井にとっては懐かしく心暖まるやりとりだ。 「あのさ、山向こうの雷神にこっちの天候荒らさないのとキノコと稲の加護を頼んだんですけどね、代わりに、向こうの畑の世話もすることになったんですよ。……で、俺と頼人に三日ぐらい休みもらえたら、すっごいやる気出るなー!」 「へ?」 今の会話のどのあたりに、自分が巻き込まれる要素があったのかわからない。 きょとんとする永井の目の前で、一本だけでも立派な尻尾が機嫌よさげに振れた。鼻歌でも歌いだしそうに、浮かれきった沖田の声が響く。 「新婚の一カ月ぶんだもんな、三日でも少ないよなぁ」 「え?」 「うんと可愛がってやるからな、途中で挫けんなよ〜」 「ええええ……?」 すりすりと尻を撫でてくる手に、嫌な予感は膨らむ一方だ。先ほどまで激怒していたはずの三沢が、額を押さえた渋い顔でこちらを見ている。 あれは、社務所で支出計算をしている時と同じ顔だ。 「ちょ、三沢さん……これ……」 「永井。お前の犠牲で皆の信心が報われるんだ。うちを拝んでおけばお前の実家の畑も豊作確定、これも親孝行だと思って行ってこい」 ふっとニヒルに笑い、三沢はなかなか様になった仕草で親指を立てた。 「グッドラック」 「話がついたところで、じゃあ行こうか頼人!」 「グッドラックじゃねえー!!!」 三日ぶっつづけは死ぬ。確実に死ねる。 永井の悲痛な絶叫を吸いこむ空は、笑えるほどに青かった。
追記にちょこっとおまけ。 たいしたことないけどR-18注意。 下品注意。 頭悪いのも注意。
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