<六時間後。>


 暮れかけた日の名残は、部屋を茜に染め、ものの陰影をくっきりと浮かび上がらせる。
 それでも、板屏風がつくる影のなかはひとあし早い夕闇に包まれ、なにもかも曖昧になる。寝所に伏した体にぴったりと覆い被さる沖田との境目さえも。
「頼人のなか、俺でいっぱいになったな」
「や……」
 恍惚とした囁きとぐちぐちと鳴る粘着質の水音に聴覚を犯され、永井は小さく鳴いた。
 沖田の欲をたっぷりと受け止めた後孔は、掻き回す指を易々と根元まで飲み込んでしまう。緩やかな抜き差しの、激しさのない施しは、ぬるま湯にぐずくずと溶けていってしまいそうな快感と、もどかしい切なさとで永井の奥を疼かせた。
「おきたさん、もぉ……やだぁ」
 やめてほしいのか足りないのか自分でもわからない。


<十一時間後>

 ずくずくと、熟れきった肉を掻き分けて侵入する質量に、背筋が震える。
「あ、うあああ、っ――」
 胡座をかいた沖田の膝に座る形で深々と穿たれ、永井は背を反らして呻いた。ぐしゅっと果実を潰すような音がしたのは、掻き出しきれなかった沖田の精と、永井自身の腸液が混ざりあって擦れているのか。
「深い、よぉ……ひあぁあ!」
 反りきってはいるが、もう、さらさらとした液体を僅かに滲ませるだけの雄芯に触れられ、身も世もない悲鳴をあげる。
「あっ、さわりながら、突かない、れぇ……も、でない、やらぁ、イっひゃうの、やらぁ!」
「んっ、よりと、俺の、かわいいよりと」
 獣の牙で甘噛みされる痛みさえ、狂おしい悦楽に変わる奈落で、永井はひたすら咽び泣いた。


<十八時間後>

「頼人、生きてるか?」
「…………しにました」
「あー……三沢さんの差し入れ、食べるか?」
「……あとでいい、です……」
「わかった」
「……おきたさん」
「どうした? やっぱりなにか」
「寝るから、ぎゅってしてください」
「……」
「おったてないでください」
「ごめんなさい」
「愛してるって言ってくれたらゆるします」
「(眠くなってる頼人がかわいすぎてしぬ!)」


<二十四時間後>

「いやー、若いと回復早いなあ。頼人くんが元気で俺も嬉しいよ」
「ううっ、赤玉が出たらどうするんですかぁ」


<二十八時間後>

「うぁー……」
 三沢のありがたいお気遣いである、マムシが描かれたラベルがついた瓶をひといきであけて、永井は手の甲で唇を拭った。
「頼人……無理しなくていいからな?」
「無理させるつもりで、休みとったんですよね?」
「うん」
「だったらやりましょうよ、神風見せてやりますよ!」
「お、落ち着け頼人。この体勢は尻尾が痛い」
「あぁ? ちょっとは痛みを味わえってんですよ!」
「三沢さん、差し入れになに入れたのー!?」


<二十九時間後>

「……ううっ、もうお婿にいけない!」
「アンタがいつもやらかしてくれてることでしょーが。尻の穴舐められたぐらいでガタガタ言わないでくださいよ、その立派な尻尾ぶちこんでやりましょうか?」


<三十三時間後>

「あっん、おきたさ、ひゃう、そこらめ、っんああ!いっひゃうからぁ!」
(良かった……頼人が元に戻って良かった……!)


<三十五時間後>

「もう……むり……ほんと、むりです……」
「あー……さすがに俺も」
 うつ伏せに倒れた沖田の体を、二本の腕がやわらかく抱き締めた。
「……きのう、ぎゅってしてもらったから、おかえし……」
「……帰ってきて良かったなー……」


とかなんとか。





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