鳴門 | ナノ
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98.ただ変えてみたいだけ


六道の力を新たに手に入れ死の淵から生還したナルトやサスケの猛攻を振りはらい、カカシ先生の左目を奪ったマダラさんが神威の時空間へと飛び込んだ。そして、しばらくしてトビさんの意識を完全に乗っ取った黒ゼツを引き連れて戻ってきたマダラさんの両目には輪廻眼が揃っており、余った写輪眼はトビさんの左目に埋め込まれていた。
そこから、体力の回復を図りながら目まぐるしく移り変わる展開を見守っていると、綱手様と同じ術を解放したサクラが先陣を切った。しかし、放たれた拳は見えない何かに阻まれ、彼の元まで届かない。

「何だ? あれは」
「余興は終わりだ。地爆天星!」

こちらからの攻撃は通らず、うかつに動くと返り討ちに遭うような状況下のにらみ合いが繰り広げられる中、空へ向かって右手を掲げたマダラさんがいくつもの求道玉を生み出した次の瞬間、予想をはるかに上回る規模で発動した術が大きな地鳴りを起こし、ひき剥がされた足元がそれを核にみるみる集まっていく。

「雨にしては少しばかり硬くて大きいがな……」
「来た!」
「なまえ!」

振り下ろされる手の動きに合わせて息つく間もなく振りそそぐ岩石の隙間を縫うように、咄嗟に伸ばされたゲンマの手が私の腕を掴んだかと思うとそのまま抱えられ、その場から大きく飛び退いた。直後、尾獣玉と須佐能乎によって砕かれた岩の一部がたった今まで自分が立っていた場所を呆気なく押しつぶした光景がゲンマの肩越しに見えて、思わず生唾を飲み込んだ。

「ゲンマ……あ、ありがとう」
「ああ。敢えて言わせてもらうが、俺の手を取ったからには簡単には死なせてやるつもりなんてねえからな。よく覚えとけ」
「うん……、」

ポンッと背中の上で柔らかく跳ねた大きな手のひらに言葉では上手く言い表せない懐かしさを感じたものの、ゆっくり浸っている余裕なんてものはなく。

「今一つとなるのだ! 世を照らせ。無限月読!」

マダラさんが自らの額当てを割り月光を浴びて新たに開かれた輪廻眼の模様が表面に写し取られた次の瞬間、夜をひっくり返すほどの眩い光が辺り一帯へと振りそそぎ、途端に体の自由を失った。

「うっ、ぐ……ッ」
「っ……、」

それはゲンマも例外ではなかったらしく、着地する直前に浴びたせいで体勢を立て直すことも出来ないまま彼諸共地面へと叩きつけられた。ゴロゴロと転がりながらお互いの体が自然と離れていく。

「影をも貫き見通すこの光から逃れることなど不可能だ。神・樹界降誕!」
「クソ! なまえ……ッ」
「ゲンマ……、」

土埃を巻き上げながら地中から現れた木の根から伸びるつるが周りの人たちを次々と巻き取っていく中、碌に体が動かないにも関わらず、こちらへ手を伸ばそうと足掻くゲンマに応えるように私も手を伸ばそうとするけれど、自由が利かないのは自分も同じだ。
結局、私たちも木遁のつるに全身を絡め取られ、沈んでいく意識に抗う間もなく目の前が真っ暗に染まった。





「なまえ、なまえ──」

どこかで私を呼ぶ声が聞こえる。モノクロだった世界に少しずつ色が始め、一際強く吹いた風に煽られ舞い上がった木の葉が視界を遮った刹那、目の前にひどく懐かしい景色が広がった。

「おら、いつまで呆けてんだ。シャキっとしろ」
「……ゲンマ?」

肩に乗った手のひらに促されるように振り返ると、忍の一文字ではなく木ノ葉の額当てを巻いた彼がこちらを見下ろしていた。

「いくら今回のメンバーが俺とライドウだからって、隊長のお前がそんなんじゃ締まらねえだろうが」
「隊長……」
「お前が上忍になって初の任務だ。気合い入れてけよ」

お揃いのベストと額当てを身につけ、肩を並べ、時にはお互いの背中を預けながらずっと一緒に歩んでいく。アカデミーへ入ったことから始まり、忍の世界に触れる内に漠然と抱くようになった憧れが実現したような気がして無性に泣きたくなった。けれど。

「ごめんなさい……ここは私が望む世界じゃないの」
「なまえ?」
「私が一人前の忍として対等な存在になりたかったのは、あなたであってあなたじゃないから」

そんな風に願った存在は碌に体の自由が利かないにも関わらず、木遁のつるに全身が覆われる寸前まで必死に手を伸ばそうとしてくれた兄、たった一人だ。その兄がどんなに辛い現実を目の当たりにしようと妹の私を見限らないでいてくれたように、私も幻術の世界に縛られている兄を見捨てるわけにはいかない。

「あの時返せなかった約束を今、ここでしていくよ。行ってきます! ゲンマ!」

ここはあくまで幻術で作られた仮初めの世界であって長門さんが里を襲った時とは結びつかないはずなのに、薄く微笑んだゲンマが頷いたような気がした。

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