鳴門 | ナノ
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90.


ゲンマを送り出し、彼からの合図を待つしかないこの時間がひどくもどかしい。
四代目と違い距離を優先させると人一人を飛ばすことが精一杯で、あとは信じるしかない自分の未熟さに悔しさのあまり知らないうちに唇を噛み締めていたらしく口いっぱいに鉄の味が広がったところでハッと我にかえった。同時にようやく耳元でゲンマの声が聞こえ、思わず安堵の息を零す。

(待たせたな、なまえ。いつでも行けるぜ)
(こっちも大丈夫。尾獣玉がそっちに迫ってるからなるべく急いで!)
(分かってる。それじゃ、行くぞ!)

糸結びの術、とお互いの心の声が重なり再び合図が途絶えたことで彼らが無事に時空間へ飛び込んだことを悟った。結びの力による移動は本来一瞬なのに、やたらと長く感じてより一層不安が増していく。
目蓋を下ろしこっちだよ、と気休めくらいにしかならないことを承知の上で本部からここまで最短距離で伸ばした糸に繰り返し声を乗せる。万が一、ゲンマが見失いかけても声を頼りに戻ってこられるように。その想いが届いたのか定かじゃないけれど、目の前の景色がいくつもの人の形にグニャリと歪みまるで水の上にインクを垂らしたかのように透明だったそれらがだんだんと色づいていく。そして、遠く離れた場所で最後に放たれた尾獣玉が着弾したと同時に人形の何かだったそれがゲンマたちの姿をはっきりと形作った。信じろ、とその言葉のとおり全員を連れて戻ってきたのだ。

「どうだ? 即席だった割りには上出来だろ──っ、」
「ゲンマ!」
「とは言っても、そう何回も使えるようなものじゃなさそうだが」

得意げな笑みを浮かべたかと思うと、顔を歪めガクンッと片膝をついたゲンマへ慌てて駆け寄った。
人繋ぎじゃないゲンマの消耗は激しく、彼の言うように成功したのはおそらく奇跡に近い。本当は乱れた呼吸が落ち着くまで休ませてあげたいけれど、私たちは絶望の芽を一つ摘みとることが出来ただけで戦争が続いている以上はすぐにでも次に向けて動かなければならない。ゲンマも考えは同じなのか、一度大きく深呼吸をすると自力で立ち上がった。

「シカクさん。本部でも言いましたがここにいる奴の中で誰よりも正確に敵の考えを読み、対策を練ることが出来るのは間違いなくなまえです。何もかもこいつに委ねろとは言いませんが、せめてナルトたちと合流するまではなまえの考えを尊重してくれませんか?」
「……こうして実際に起こったことを振り返ってみれば、ゲンマがなまえを信じたからこそ俺たちは救われた。出来ることなら俺もお前たちを信じたい。だから、なまえの気持ちを聞きたい。お前の口から直接」
「……私に言えることはそこまで多くありません。ただ一つだけ、全部終わったらどんな罰も受けます。だから、今だけはほんの少しでも良いから私を信じてくれませんか? 皆さんと一緒に戦わせてください」

お願いします、と深く下げた頭の上からため息が聞こえ、眉間にしわを寄せているだろうシカクさんの葛藤がこれでもかと言うほど伝わってくる。連合軍の命を預かっていると言っても過言じゃない彼がこちらの言葉を簡単に受け入れられないことは重々承知しているし、考えた末に拒絶されたとしたらそれはそれで仕方がない。
地面を見つめていた目をギュッと瞑り、間もなく返ってくるだろう答えを待っていると言葉の代わりに降ってきたのは頭を撫でる大きな手の平だった。

「ゲンマの後ろをついて回っていた時のお前が戻ってきて喜んじまってる俺は何だかんだ甘いんだろうな」
「シカクさん……」
「そんな顔をするな。終わった後のことを今考えるのはよそう。まずはこの戦争に勝つためにも力を貸してくれるか?」
「……、はい!」

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