鳴門 | ナノ
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86.


「あの男、一体何者だ?」
「私の兄だった人です」
「ほぉ? ならば、あいつがお前の欠片と言うわけか」
「欠片?」
「繋ぎの力が何を素にしているかは流石に知っているだろ。その割合を最も多く占める存在のことをそう呼ぶのだ。それでどうするつもりだ? 相手はお前との一騎打ちを望んでいるようだぞ」
「私には彼と一対一で戦う理由がありません」

マダラと言葉を交わしながらこちらを見下ろすなまえから以前のような動揺は感じられない。俺と同じく覚悟を決めたと言うよりは、まるであの時には持っていただろう感情をどこかへ置いてきてしまったかのようで。今までの人格や記憶を徐々に人繋ぎの力へと昇華させていくことが原因なのだろう。
目の前にいるこいつがなまえであってなまえじゃないような何とも言えない気味の悪さを感じつつも、そこを掘り下げるのはきっと今じゃない。あちらに動く気がないのであればその気にさせるまでだ。

「どうした? なまえ。来ねえのか。そんなに俺とやり合うのが怖いか、腰抜け!」
「……、っ」

次の瞬間、耳元でぶつかり合ったクナイが甲高く鳴り響き、目の前で細かい火花がいくつも飛び散った。

「ッ、甘えんだよ。元々その術を教えたのは誰だと思ってんだ」

里を抜けてから何度かの進化を経て本来の飛雷神の術までたどり着いたみたいだが、なまえに時空間忍術の基礎を教えた俺はこいつ自身も気づいていないような些細な癖まで把握している。術の出だしを掴むことさ出来れば、例え目で追うことが適わなくても応戦することは十分に可能だ。さらに挑発を重ねるよう片方の口角を釣り上げ、クナイを握る方とは反対の手でなまえの腕を掴んだ。

「ここだと五影の邪魔になる。場所を移すぞ」
「!」







引っ張られ、グルグルとかき混ぜられる感覚は洗濯機とよく似ている。何度も味わってきたそれに襲われたかと思うと、すぐさま外側へと弾き飛ばされた。

「……うっ、く、」

体勢を立て直す間もなく背中から地面を滑り、ようやく止まったところで体を起こすと、目の前に広がるのは緑の葉が生い茂る大木に覆われやや薄暗い印象を受ける深い森だった。

「大名の護送ルートの候補に挙がっていたからか。ここまでは戦火もまだ届いていないようだな……まあ、敵にもバレちまったし、時間の問題だろうが」

各地で暁と忍連合軍が激しくぶつかり合っていると言うのに、ここは不自然なくらい静けさに包まれていることを不思議に思っていると、少し遅れて姿を現したゲンマがその訳を独り言のように呟いた。
なるほど。それなら納得がいく。心内で返事はしつつも無言で立ち上がり、外套の汚れを手で払う。

「どうだ? ぶっつけ本番にしちゃ結構上手くやっただろ。何たってカカシさんにも手伝ってもらったんだからな」
「カカシ先生?」

あれを見てみろよ、とゲンマの視線が指したのは地面に刺さったひと振りの千本。下忍になったお祝いに彼からもらったそれはいくつもの任務を共にし、未熟だった私は何度も危ない場面で千本を介した空間忍術に助けられた。

「お前の血を使って術式を組み直させてもらった。二人が揃った状態で俺がチャクラを練った瞬間にこれの元にまとめて口寄せされるようにな」

里を抜ける際に置いてきたはずなのに、いつの間にかカカシ先生の手に渡っていたことを知った時は不思議で堪らなかったけれど、考えてみたらすぐにでも分かることだった。

「やっぱりあなたの仕業だったんだね。それで? あんなにわざとらしく挑発して私が接近するように仕向けて、わざわざこんな回りくどいことまでして目的は何?」
「フン、やっぱり承知の上で乗ってやがったか。それなら俺から言うことは一つだ……なまえ、暁を抜けろ」
「……」
「恐らくこれが最後のチャンスになる。アスマさんや我愛羅の一件での功績もあるお前なら、今暁を抜けてこちら側につけばまだ間に合う──ッ!」

私の放ったクナイが掠り、微かに顔を歪めたゲンマの頬を一筋の血が伝う。

「自分がどれだけ馬鹿げたことを言っているのか、本当はあなただって分かっているんでしょ」
「……ああ。現実は思いどおりになることの方が少ないし、目を背けたくなるくらい残酷だってことは多分お前よりも知ってるだろうな。だが、希望を捨てるのとはまた別の話だろ」

マダラさん曰くゲンマが人繋ぎの欠片だからなのか、それとも私の中にまだ不知火なまえの要素が残っているのか定かでないが、彼の言葉に嘘はないと直感で分かる。本気で不知火なまえと言う存在を取り戻そうとしているのだ。けれど。

「ねえ。今、目の前にいる私に懐かしさは感じる?」
「……」
「あなたが本気で妹を連れ戻そうとしていることは認めるけれど、私の質問に答えられないのならそれが全てだよ」

マダラさんの放つ火遁とナルトたちの間に割って入った辺りから急速に自分が自分で失くなっていく感覚や、我ながら優柔不断な動きが目立つようになってきたことを実感している。けれど、そのことに戸惑ったり抗うどころか、すんなり受け入れていると言うことはそう言うことなのだろう。

「きっと僅かに残ったなまえとしての記憶や感情もこの戦争の中でいずれ消える。そうなったら今ここでこうしていることにも何の意味も持たなくなる」
「……俺は人繋ぎについてほとんど知らないから、お前がそう言うならそうなのかもしれない。その言葉を信じるなら俺に出来ることは一つしかない」
「出来るの? あなたに」
「例えお前がなまえじゃなくなったとしても、俺には兄としての責任がある。お前がこれ以上罪を重ねる前に俺の手で終わらせる」

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