鳴門 | ナノ
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76.


「原因は頬の傷か……サクラ、すぐに解毒してくれ」
「もしかしてあの時、私の毒つきのクナイで?」

サスケが去って緊張の糸が切れたのか、ブクブクと泡を吹きながら卒倒したナルトを支えたは良いものの慌てふためくサクラが解毒薬を持ち出すのはもう少し先のことになりそうだ。

「どうやらそうみたいね。とにかく頼むよ」

九尾のチャクラもあるからそうそう大事に至ることはないだろう。俺には別にやることがあると言外に含ませて支える役目をサクラと交代するとなけなしのチャクラで再び開いた左目にグッと力を込めた。
チャクラを色で見分ける写輪眼でさえその輪郭をはっきりと捉えることは適わない。だからこそマダラも気づかなかったのかもしれないし、俺だって最初から疑っていなかったら同じようにこの場から立ち去っていたかもしれない。

「そろそろ出てきたらどうだ。それともただ見てるだけか?」
「カカシ先生、一体誰に話しかけて……?」

スーッと水底から浮上してきたなまえは眉間に皺を寄せて冴えない顔をしていた。不安定に揺れる両目はサクラとその腕に支えられたままのナルトを映していて、ピチャッと足底を水面につけゆっくりと距離を縮めていく。サクラの息を詰める音が聞こえたが、特に割って入る気はなかった。マダラの援護に入るわけでもなく、かと言ってこちらに手を貸すわけでもなく一連のやり取りを見ているだけだったなまえが今更こちらに危害を加えるなんてことは考えにくかったからだ。

「……ゼツさん、少しで良いから一人にしてもらえませんか?」
「僕がいるとまずいことでもあるの?」
「彼等に言っておきたいことがあるんです。大丈夫、今更暁を裏切る気なんてないですから」
「ふーん……そう言うことなら良いよ。でもあんまり遅いとトビ連れて迎えに来ちゃうからね」
「ありがとうございます」

さっきのサスケと同じく自らの体についていた奴を追い返してまでこの子は何を言おうとしているのか。小さな波紋を起こしながら更に近づいてくるなまえは二人を見下ろせるところでようやく足を止めると───。

「サクラ、ナルトにも伝えて」
「……何を?」
「今すぐには無理でも、今までと同じようにはいかなくてもサスケは必ずあなた達の元に返すよ」
「!」
「それまではサスケのことは私が守ってみせるから」
「、……何よ、何なのよそれ……っ」
「サクラ?」
「どうしてそんな言い方するのよ! あの時、あんたは『また皆で笑い合える時がくる』って言ったじゃない……なのに、どうして自分を蔑ろにするような言い方しか出来ないのよ! なまえ!」
「……何もかも終わってあなた達が元に戻っても、きっとそこに私はいない。それが人繋ぎの宿命だから」
「どう言うことだ?」

それが何よりも伝えたかったことなのか、黙ってことの成り行きを見守っていた俺がいきなり口を挟んでもなまえは特に気にすることなく言葉を続けた。

「人繋ぎには二つの制約があって、一つは時代に適した立場に転生を繰り返す存在であること。もう一つはそのために時代を跨ぐことは出来ない。この時代の中心にいるのがナルトとサスケで、そこに生まれたのが私。ここまで言えばもう分かるでしょう?」
「二人の決着が着いた時、自分もお役御免ってわけか」

今までと同じではいられないと言うのはそう言う意味だったのか。肯定こそしなかったものの、無言で空を見上げるなまえの表情そのものが全てを物語っているようで。それもあるけど、と空へと視線を投げたままのこの子はそれ以上に何を抱えていると言うのだろう。

「私と言う意識がだんだん曖昧になってきてるのを感じるんです。次に会う時にはもう私でいられないかもしれない……そうなったらもう連れ戻すもないでしょう?」
「……」

確かに俺達はその片鱗に出くわしていて、なまえの言い分も分からないわけでもない。だが───。

「俺がいるでしょ?」
「カカシ先生……?」
「サスケのことは二人に任せた以上、あとは俺がどうにかするしかないでしょ」

あの夜の夢に魘されたことは一度や二度ではなく、後悔なら嫌と言うほど繰り返してきた。だからこそもう二度と同じ失敗を繰り返すつもりはない。

「安心しろ。俺が必ず助けてやるから」

クシャッと顔を歪め泣きそうななまえとは裏腹に俺はニッコリと優しく笑いかける。
これは新たな覚悟だ。あいつが周りの制止を振り切って死んでいったように、なまえもまた人繋ぎの宿命とやらに死んでいくのかもしれない。なら───。

「俺はお前の先生だからね。苦しんでる教え子をほっとくわけにいかないよ」

今度こそ、俺がその因果を断ち切ってやろうじゃないか。

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