脱色 | ナノ
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03

死にたがりを生かす方法

朽木さんの処刑を止めると言っても、今すぐ彼女が囚われている牢へ乗り込むわけではなく。実は浮竹さんが既に動き出しているらしく、京楽さんもそこへ便乗して執行の瞬間を狙うつもりでいるのだとか。
そんなわけで、私たちも処刑時刻に合わせて本格的に動き出すことになったのだけれど。

「全く……こんな時まで、一体どこをほっつき歩いているのかしら」

まだ時間があるからゆっくりしていて良いよと言い残してふらりと姿を消した京楽さんは、夜が明けて辺りに何とも言えない緊張感が漂い出しても一向に戻ってくる気配がなかった。いよいよ痺れを切らし、周囲を探し始めた七緒さんがついた悪態からこう言ったことが日常茶飯事なんだろうなと苦笑しつつ、そっと瞼を下ろす。
相手が故意に霊圧を抑えている所為か一護のものと比べてひどく辿りにくくはあるけれど、全く出来ないことはないはずだと根気よく霊圧の痕跡を探っていると。

「見つけた──七緒さん、京楽さん上にいるみたい」
「……上……?」

半信半疑ながらも他に手がかりがなく、時間も着々と迫っているからだろうか。一応は確かめてみる気になったらしい彼女の後に続いて梯子を登っていくと、頂上が近づいてくるにつれてゆったりとしたテンポの鼻歌が聞こえてくる。
見つからないようにギリギリまで霊圧を抑えていたのに、音で見つかる分には構わないのだろうか。やっぱり、この人の考えていることはよく分からない。

「隊長! こんなところにいらっしゃったんですか! 早く出立の用意をなさってください」
「おやぁ? もう見つかっちゃったか……よくここが分かったね」
「なまえさんが、京楽隊長がここにいると」
「……やっぱりなまえちゃんには簡単に見つかっちゃうね。仕方ない……少し早いけど、ボクたちも出発しようか」

───…なまえ……

「……、先生……?」

ふと、先生の声が聞こえたような気がした。かと思えば、まるで自分の居場所を知らせるかのように私の元まで一直線に伸びた霊圧を微かに感じる。

「なまえちゃん? どうかしたのかい」
「……すみません。先に行っててくれませんか? ちょっと確かめたいことがあって……すぐに追いつきます」

そのまま返事を待つことなく足元を蹴った。さっきのは空耳だったかもしれないし、感じ取った霊圧が先生のものかどうかも分からないけれど、もし先生が生きているのなら自分の目で確かめたい。

「──ここは……?」

そうやって屋根から屋根へと飛び移り、時には瞬歩も挟みつつ移動を続けてしばらく。たどり着いたのは、周りを高い塀に囲まれ一目で重要だと言うことが分かる場所だった。明らかに誰でも気軽に入れるような雰囲気ではないけれど、先生がこの中から私を呼んでいるのならと意を決して一歩を踏み出そうとした瞬間、目の前が黒一色に覆われた。

「あかんよ、なまえちゃん。君はこの中を見たらあかん」
「……ギン……?」

肩へ乗せられたもう一方の手のひらによって振り向かされたと同時に晴れた視界に映ったのは、やっぱりギンで。

「もう、こんなところまで来てもうて……仕方のない子やね」
「……ギン……、私……」
「おいで、なまえちゃん。先生が待ってんで?」
「! ……ぁ、ま……待って!」

やっぱり気のせいじゃなかったんだと胸の奥底からこみ上げてくるものを噛み締める暇もなく、さっさと歩き出したギンの後を慌てて追いかけた。
先生が生きている。これから会えるんだ。一護と刃を交える姿を見て以来ギンに会ったら聞きたいことが山ほどあったはずなのに、そんなことがどうでも良くなってしまうくらい全身がまるで心臓と化したかのように大きく脈打っている。

「──ここは四十六室……なまえちゃんの世界で言う裁判官みたいな人らが住んどるところやね。完全禁踏区域でもあるから、ゆっくり話すのにうってつけの場所や」
「ここに先生が……?」
「それは自分の目で確かめてみ?」

そう言って数歩先で足を止めたギンを追い越して、そのまま正面に見える楼の中へと足を踏み入れた。すると、奥に控えていたらしい人影がこちらの動きに合わせるかのようなゆったりとした足取りで徐々に近づいてくるのが分かった。そして、その顔が見えたと同時に思わず息を飲んだ。

「……先、……生……?」
「ああ、よく来たね。君なら僕が送った合図にも気づいてくれると信じていたよ」
「合図……それじゃやっぱり、あの時の声や霊圧は先生が……?」

言葉の代わりに両腕を広げるその姿が近所の子にからかわれて泣いていた幼い私を慰めてくれた時の姿と重なり、気づけばその腕の中へと飛び込んでいた。間髪を入れずに後頭部と背中へ添えられた手に嗚呼、私が求めていた手だ、と再確認する。
とことん甘やかしてくれる温かな手。ここまで必死に堪えていたものが熱となって目元から溢れ出し、先生の腕の中で握り締めた羽織りにいくつもの小さな染みを残していく。

「……辛い思いをさせたね。いつか話さなくてはと思っていたんだ……だが、全てを知った君の僕を見る目が変わってしまうことを考えたら、どうしても打ち明けられなかった」

先生が死んだと聞いた時、辛くて堪らなかった。独りぼっちになったような気すらした。けれど決して責めたいわけではないのだと、次から次へとこみ上げてくる涙の所為で上手く出せない声の代わりに大きく首を振る。今はとにかく先生と再会出来ただけで十分だ。
とは言え、尸魂界へ来た目的をまだ果たしていない。名残惜しくはあるものの、いつまでもこうしているわけにもいかないと頬を濡らす雫を手の甲で拭いつつ目の前の羽織りから顔を上げた。

「……あ、あのね……ここへは友だちを助けるために来たの。それで……」
「ああ、知っているとも。だからこそ君をここへ呼んだんだ」
「……それって、どう言う──!?」

次の瞬間、ガクリと膝から崩れ落ちた。すかさず添えられたままの手に力が込められ、そのまま先生へもたれるような格好になる。

「こっちでやるべきことが済んだらちゃんと話すさ。それまでしばらくの間、大人しくしててくれ」

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