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02

窓辺でうたた寝

「──この上が1-3の教室か」

半ば強引に、押し切るような形で教室の場所を聞き出したは彼は三階のそこを見上げながら、そう呟いた。
素直に教えた私も私だけれど、彼の目的がウチのクラスにあって、その場所が分かったのならこれ以上深入りするべきじゃない。しかし、彼から離れようとした途端、なぜか再び手首を取られ。

「どこ行くんだよ? お前も同じクラスなんだろ?」
「えっ? い、いや。私は……」

一緒に行こうぜ、と腹周りに腕が巻きついたかと思うと、悲鳴を上げる間もなく独特の浮遊感に襲われた。さっきと同じく彼が抱えた私ごと三階の教室を目指して一息に跳んだのだ。

「──ここ、1-3で合ってるよな?」

当然のごとく教室内は阿鼻叫喚。注目を浴びて得意気になりながら好き勝手に動く彼をぼんやりと眺め、密かにため息をついた。
心のどこかで楽観的に捉えていたのだろうか。そんなつもりは毛頭なかったのに、結局先生との約束を破る羽目になってしまったと。

「──死ねぇッ!」
「うおァッ!? 危ねぇ……何だよ。頬っぺにキスくらいでそんな取り乱すなよ。小学生かテメーは!」
「うるッさい!」

後悔に苛まれている間にも状況は悪化の一途をたどり。彼が軽い身のこなしで、次々に投げつけられる机を避けていく。
皆が教室の隅に避難しているのが見えて、私も万が一に備えて後に続きたいところだけれど下手に動いても危ないからと、降ろされた窓辺で出来る限り息を潜めていると。

「そこまでだ!」
「……朽木、さん……?」

勢いよく開かれた後方の扉から現れたのは間違いなく朽木さん本人なのに、まとう雰囲気がまるで別人だ。やや男勝りの中にも、どこか品を感じる口調の所為だろうか。

「行ったぞ、一護!」
「おう!」
「! 一護……?」

真っ黒な着物と、自分の背丈くらいある大刀。見慣れない上にずいぶんと物騒な格好をしてはいるが、朽木さんの合図で窓の向こうから現れた一護は本物だと、直感で分かる。

「さァ! 逃げ場はねえ……」

どうやら、朽木さんとはさみ撃ちにして彼を捕まえるつもりでいるらしい。

「チッ……行くぞ!」
「えっ? う、嘘……まっ、ひぁッ!?」

けれど、朽木さんの登場と同時に駆け出した彼は一護の横を難なくすり抜けると、そのまま一切躊躇うことなく窓から飛び降りた。なぜか、ここまで上がって来た時同様、私まで道連れに。



「──あの、えっと……、大丈夫?」
「……悪ィ。少しだけ……」
「……うん、」

あの高さから飛び下りたにも関わらず怪我一つないどころか、その後もまるで自由を満喫するかのように上機嫌で空座町を走り回り。その道中で偶然出くわした男の子たちの言動がどうやら彼にとっての地雷を踏み抜いてしまったらしい。
裏門と物置小屋の間に隠れて授業をさぼっていたその子たちがも遊んでいたゲーム機を壊すなりその場から足早に立ち去った彼は、しばらくしてようやくその足を止めた。ひどく動揺している所為か荒れた息を整えようと頻りに深呼吸を繰り返す彼は、かわいそうなくらい顔を青白くさせていて。
不本意に巻き込まれている身ではあるけれど、だからと言って放っておくことも出来ず、その場に並んで腰を下ろし背中へそっと手を添えてみると、ぽすんと橙色の頭が肩へと乗せられた。

「……とっくに気づいてると思うけど、人間じゃねえんだ。俺」
「…………」
「虚と戦うために作られた存在で、けどすぐに破棄命令が出された所為で、作られた次の日には自分の死ぬ日が決まってた……仲間が減っていく度に、次に消えるのは自分なんじゃないかって怖くて仕方なかった」
「……だから、ゲーム機を壊したの? あの子たちが何てことないふうにデータを消したから」
「……、ああ。ビクビクしながら、ずっと考えてた。命なんて他人が勝手に奪っていいもんじゃねえんだって」

あいつらの所為で思い出しちまったから、と悔しそうに、それでいて辛そうに声を震わせる彼はきっと悪い人じゃない。ただ自由を望んだだけ。
確かに学校や町中での振る舞いは褒められるものではなかっただろうし、これからどうすればいいのか見当もつかないけれど、体を一護へ返した後も彼が自由でいられるような結末を迎えられたらいいのに。
そんなことを考えながら、特にこれと言った言葉をかけるわけでもなくひたすら目の前の背中を撫で続けていると、ゾクリと背中を冷たいものが走った。

「な、何? これ……」
「虚の気配だ! それも、さっき俺たちがいた辺り……襲われるのはさっきのガキどもか──クソッ! お前はここにいろ」
「まっ、待って! わ、私も一緒に行く……!」

小学校がある方向を見やり、悪態をつくなり立ち上がった彼を慌てて制止する。

「な、何言ってんだよ!? 第一、お前がついて来たところで何が出来るって……」
「ここまで巻き込んでおいて今さら邪魔者扱いしないで……お願いだから」
「……チッ、怪我しても知らねえからな!」

グッと押し黙る彼に卑怯な言い方をしている自覚はあるが、心配だと言うことをそのまま伝えるよりもその方が聞き入れてくれるんじゃないかと思ったのだ。案の定、彼は苦虫を噛みつぶしたような顔で吐き捨てたかと思うと、私を抱えて一気に跳躍した。

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