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05

廻廊へようこそ

「そこまでだ! 愚かなる旅禍よ」

一護と行き違いになったことに加え、騒ぎがここまで大きくなると後を追いかけるのも容易ではないだろう。ならば一護たちと合流することより、朽木の救出を優先した方が手っ取り早い。
何せ、全員が同じ目的の下動いているのだ。行き着く先が同じならどこかでぶつかるはずだとなまえとも話し合い、朽木が囚われている懺罪宮を目指していると、道中を塞ぐように新たな敵が現れ、咄嗟になまえを自身の背に隠した。

「八番隊第三席副官補佐・円乗寺辰房である! 道を誤ったな、愚かなる旅禍よ。吾輩が来た時点でこの道は既に行き止まりである!」

万が一に備えてなまえを後ろに下がらせたが、どうやらその必要はなかったらしい。名乗りを上げるなり抜刀したそいつは剣の腕に相当の自信があるようだが、拍子抜けもいいところだ。

「どうした、手も足も出ぬか! 何、恥じることはない。それが道理! 何せ、この大剣豪・円乗寺辰房の剣技、今までただの一度たりともやぶ……ッ!?」

デタラメに振り回される刃の隙間に握り込んだ拳を通し、相手の頬へとめり込ませれば、勢いよく吹き飛んでいく。そして、背後に置かれていた木箱に背中からぶつかったかと思うと、そのまま動かなくなった。

「……スマン。隙だらけだぞ」

副官補佐と言うことは、階級は上から三番目か。上官が倒されたことですっかり戦意を喪失したのか、周りの奴らが向かってくる様子はない。
こちらも戦う気のない奴を相手にするつもりはないし、ならばこのまま通らせてもらおうと一歩踏み出したところでふと、宙を舞う一枚の花弁が視界の端に映り込んだ。

「ひゅーっ、やるねえ!」

そのまま辺りを舞う花弁が二枚、三枚と徐々に増えていく中、編笠と女物の羽織りを身にまとった一人の死神が頭上から音もなくゆっくりと落ちてくる。

「八番隊隊長・京楽春水。初めまして」
「……八番隊、隊長……」
「フフフ、そ! よろしく。ンフフフフ……ん? おーい、花びらもういいよぉ……って、あれ? 聞こえないのかな。七緒ちゃん、花びらもういいんだってば! 可愛い、可愛い七緒ちゃーん!」

降り止まないどころかどんどん増えていき、終いには大量の花弁に押しつぶされたそいつからは敵意の類を感じず、正直言ってやりづらいの一言に尽きる。いっそのこと問答無用で向かってきてくれた方がこちらも心置きなく戦えるのだが。

「悪いが先を急ぐんだ、そこをどいてくれ。あんたは悪党じゃなさそうだし、出来れば戦いたくない」
「参ったね、どうも。喧嘩が厭はお互いさま、だけどこっちは通られても困る。何とか退いちゃくれないもんかね」
「それは出来ない」
「そうかい。そいじゃ仕方ない……」

やはり、話し合いでどうにかなるものではないか。片足を半歩ほど引き、いつでも動けるように構えたものの、相手はこちらの予想の斜め上を行った。

「呑もう! 仲良く!」
「……は?」

腰に差したふた振りの刀を抜く代わりに置かれた大きな瓢箪と人数分の盃。一体、どう言うつもりなのか。

「いやいや、退くのがダメならせめてここで止まってくれないかと思ってさ。何、少しの間でいいんだ。今、他の隊長さんたちも動いてるし、直にこの戦いも終わる。それまでここで少しの間、ボクと楽しくやろうじゃ……」
「他の隊長……? 一護や他の連中も隊長格に襲われてるのか?」
「……参ったね。失言だったかな、どうも」
「事情が変わった。京楽さん、今すぐそこをどいてくれ」
「……嫌だと言ったら?」

戦いを避けられるならそれに越したことはないが、仲間が危険に晒されていると言うのなら話は別だ。

「言わせない!」
「……やれやれ。面倒なことになってきたねえ、どうも──!?」

隊長と言うことは、今までの敵より手強いことは確かだ。最初の一撃で仕留めるつもりで放ったにも関わらず、それを片手で呆気なく弾かれ呆然としていると、俺の背中から飛び出したなまえが翳した手のひらから青白い炎を放った。相手はそれを首を傾げることで躱す。

「なまえ……?」
「私も戦う。守ろうとしてくれるのはありがたいけど、向こうも二人なんだし、チャドくんにだけ頼るわけにはいかないもの」
「しかし……」
「……一応言っておくと、七緒ちゃんは戦わないよ。だから君も下がりなさい。ボクも女の子を傷つけたくないし、そっちの君も構わないかい?」
「ああ。なまえ、下がっていてくれ」
「でも……!」
「お前も力をつけて、相応の覚悟を持ってここへ来たことも分かってる。ただ、俺がそうしたいんだ」

なまえを守ることは、一護と約束したことでもあるのだ。

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