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朝から後ろの席のやつが愚痴りだして、俺は眠たい脳みそをそのままに首の上下運動をしていた。はたからみれば語っている奴にうんうん頷いているように見えるだろうか、否、まず誰も俺らを見ていないだろう。
影薄いとよく言われる後ろの席の仲田と、何をやっても並大抵で普通な俺、野原。2人揃えばそこには空気という言葉がぴったりな雰囲気が出来上がる。それが決して嫌なわけじゃないし、それで損をすることも無いから俺は多分幸せに日々過ごしている。
平々凡々な日々、後ろの席のうるさい仲田の朝からバイクに水かけられてそのバイクの奴が嫌な奴で「お前いつからそこに居たんだ」という影薄いコンプレックスをいじられ、今現在じぶんは惨めにもジャージなのに誰からも何もいじられない だとかどうでもいい幸の薄い話は耳の左から右だ。キシリトール入りのガムを噛みながら、包み紙を折り鶴にする。

「聞いてる!?のばら!!」

「聞いてる。なかだ」

うそだろ!なんてテンション高いツッコミに目を細めて笑うと、天のお助けか予鈴がなった。やった、なんてもろ口から出して前を向けば後頭部をチョップされた。お前俺の学力が平均点以下になったらどうしてくれる、ただでさえ平均点より10点以上もなかなか取れないのに。
後頭部の髪を直しながら規則正しく予鈴のあとにはいってくる先生を、確認して、さらにその後に続く身知らぬ男子生徒をみて目を瞬かせる。転校生?この時期に?着ている制服はもちろんうちので、おろしたてだろうかシワひとつ無い。女子が妙に黄色い悲鳴をあげるからイケメンだと判断されたんだろう、正直ヤンキーぽくてそれどころじゃなかった。金髪、襟足の長い髪、一重まぶただからか目付きが悪く見えるのかはたまた本当に威嚇として睨んでいるのか、とにかく俺の友達にはまず居ないタイプ。きっと後ろの仲田も


「あーーーお前っ!」


あれ?仲田?お前俺の知ってる仲田?
立ち上がってヤンキーに人差し指をさした仲田が俺には勇敢すぎてみてられない、何も見ていなかったかのようにまた前を向いて両肘をついて手を組んだ。
ヤンキー君は目をさらに細めたと思いきや急に長い脚でこちらに距離を詰めてきて息を止める、やばい、仲田がやられる。教室もなぜか一気に息を止めたのか静まり返って逆に不気味さが増すから、誰か喋れよ。女子、黄色い悲鳴どうした、おい田代!お前いつもどうでも良いこと言って女子にうるせーって言われてんだろこんな時だけ黙るなよ。

「ああ、誰かと思ったら影薄男じゃん」

低い声、最近習ったやつ、そうテノール。
仲田が出せないと喚いていたテノールでそう言葉を発したヤンキーは、なんだか害がある感じでは無くてホッとしたのも束の間。振り向けば顔と顔が引っ付きそうなほどに近い2人。え。となるのは俺だけじゃないようで周りのやつも目を見開いて展開を見守っている。見守るというか、口を挟む間もないのだろうがこの時はずいぶんと永いように感じた。
「近ぇてば!」と頬を押し返す仲田に、面白そうな笑みを浮かべているヤンキーは先生に言って仲田の隣の席にしてもらっていた。先生弱い。自分も席代わりたい、とか思ってる人は絶対何人もいるけど誰もなにも言わなかった。もちろん俺も。






「ミヤは目ぇ悪いのか」


三矢、三本の矢って書いてミヤはあれから二ヶ月経ってもクラスに馴染むことはなかった。基本的に笑わないし、睨んでるみたいだし、サボリ魔だし、なにより仲田と俺としか喋らないですって態度が話しかけづらさを増している気がする。俺は何でも構わないが、周りに三矢のパシリにされてるんじゃないかという目で見られるのは少し困りもの。それに俺より仲田の方がよく行動を共にしているから、俺より仲田がよくパシられているとかいう話を稀に聞く。良かったな仲田、影が濃くなって。この前仲田にそう言ったらビンタされたからもう口には出さないことにした。

「ああ…結構目ぇ悪い」

「どのくらい?」

現在放課後、教室でミヤとふたり、仲田待ち。
仲田はあほうだから追試のプリントを出されて、意外にも頭の良いミヤに教えてもらいながら五分前にプリントの解答欄をぜんぶ埋めたところ。仲田は嬉々として先生にプリントを出しに行ったが、先生にお前一人で解いたのか?え?みたいなことを言われて半べそかいてそう。
どうでも良い仲田の想像をしながら、ミヤの話に適当に対応していたら急にシン、、と静まりかえる。不思議に思って「ミヤ?」と呟きながら仲田の席に座っているミヤのほうを見ると、思ったより近くにミヤの顔があった。転校初日、女子に黄色い声をあげさせた顔。一重まぶたのくせに形が良いのか引き込まれるような瞳に、形の良い鼻と唇、ヤンキーぽいと言っていた金髪が夕陽にきらきらして目がちかちかした。綺麗。そう口に出したのだろうか、どうか分からないけど気づいた時にはミヤの唇に塞がれていた。驚いて目を閉じると、ぺろり唇を熱い舌が舐める感覚がして目を薄くひらく。真っ黒な目と視線が絡むのが妙に高揚した。絶対可笑しい、ミヤがしてることも、じぶんの反応も。それでも嫌悪感なんてわかなくて、こんなことしてるうちに仲田が帰ってくるかもしれないという思いをなんとか頭でこぎ着けて目を伏せ、顔をそらす。

「…さっきぐらいの距離でしか見えねえ」

うそつけ。

いま真っ赤な顔してる俺をみてニヤニヤしている奴が言ったって、なんら信憑性のない言葉だ。





(ミヤはホモだ仲田)
(野原それはイケメンに嫉妬してるね)


信じてくれない親友