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 だれか僕の言葉を代弁して



むずかしいことを語りたくなった。人が自分をどう観てて、それがどうとかこうとかかんとか。でも俺のちいさな脳味噌ではちょっと上手い言葉がでてこなくて、人の書いた文章を読んでただただ共感した。共感しながら、でもこれじゃあない。そう思ってたくさんたくさん本を読んで読んで積み重ねて、やがて俺の部屋は本で埋め尽くされた。目を開けば本、躓く物体は本、八つ当たる場所も本。本の虫といえば聞こえが良いがべつにそんなに本が好きというわけでもないのだ。俺の言いたいことを代弁してくれればなんだっていい、手始めに本を読んでみたというだけ。
かたたん、電車に揺られながらぼんやりと本を開いて読み途中のページにはさんでいたしおりを抜いた。外は晴れ。俺の頭は外とおなじくらいカラッからで字を目で追いながらも無心のままだというのがなんとなく分かる。でもすることもないし、そのまま字を目で追う。創られた自分はさぞかし楽に人と接することができるだろう。だがしかし、長続きはしない。自分が疲れてしまって相手との対人を心が拒否し始めるのだ。だからといって初めからありのままの自分で接することは、臆病な君にはできやしない。この本はそんなことが言いたいのだろう。目を擦りながらそう察してみたものの、やはり俺の胸にはじわりとは染み込んでこなかった。たしかに俺は創られた自分で他人に接することが当たり前となっていて、でもそれって第一印象に欠かせない愛想笑いだとか日常会話だとかそんな程度で。まあこれから先もその人と会って話すのであればこれはもう苦痛でしかなくて、

そこまで考えて急に首に衝撃が来た。寝かけていたらしい。

考えながら寝るようになったなんて俺も相当だな。なんて一息吐き出して、また小説に視線を落とす。あれ、しおりが無い。何度か瞬きを繰り返してからちょこちょこと周りを探して、足元をみてもしおりが見つからなくて首を傾げる。俺はさっきまでこの右手にしおりを持っていた…気がするのだが、まだ寝ぼけているのか。


「く……っくっく、は」

「………?」


急に横にから聞こえた堪えるような笑い声に、隣の人を訝しんで見る。
少し視界に入っていたスラックスや靴、手だけでもどこか格好が付いていてイケメンだろうと思っていた隣人は、それはもう恐ろしく整った顔をしていた。眼鏡の向こうの瞳が緩く弧を描いていて、艶やかな黒髪は暗い印象というよりも本人の整ったすべてを引き立てるような役割を果たして。特に着飾っているわけでは無いのに目が離せない。まさに老若男女関係なく格好良いとうなづくような容姿。美形。
でもそんなかれの手元には俺のしおりが持たれていて、俺は何と言っていいやらわからずに眉をひそめた。

「お探し物は、これですか」

見た目と同じ、少し真面目そうな喋り方をするんだ。俺は苦笑という曖昧な笑みで「落としてました?」と問いかける
「はい」と彼は肯定の返事をしたけれど目はどこか愉快そうにお山形になっているから、ほんとに?と首をかしげてしまう。


「嘘です、僕が抜きました」

「ですよね」


呆れ笑いを返すと、彼は俺の顔色を伺うように綺麗な顔で覗き込む。怒ってると思われてる?こんなことで、怒るわけないのに。そう思ってきょとんとした顔のままでいると彼は何故か嬉しそうにはにかんだ。

じわっ、何か言い様のない高揚感にしおりを握りしめた。

作り物の自分が嫌われることへの恐怖心の無さの反面、本当の自分を好いてもらえないかもしれないというこの恐怖心は心地の良いものではない。でも、新しい人と出会うのはこんなにもドキドキして、楽しい。





(それから毎日のようにちょっかいをかけられるようになった)
(彼は隣町の男子校の人らしい)

だれか僕の言葉を代弁して