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128個贈ったモノよりも、たった1個の贈りモノのほうが心にくるものなんでしょうか。

「今日もいらない」

そういわれて、俺の作った130個目のお弁当は食べられないまま自分の夕食になった。
あまいのが好きじゃない奴の好みに合わせた出し巻き卵が、すこしだけしょっぱく感じる。
よかった、失敗したのを食べられなくて。そうポジティブに変換しながらほかのおかずも平らげるけどやっぱりしょっぱかった。苦手だった料理はいまや得意分野なはずなのに、それは思い違いだったのだろうか。


「いただきー」


わあ。と口を開けて、持ち上げられた竜田揚げをみる。
それをぱくりと一口で食べたクラスの人気者は、人目も気にせず頬張って口を動かすからリスのようだった。夏は日に焼けてた赤い肌が、黒くなりきれずに真っ白にもどっている。
大人になりきれない中性的な容姿が本人はあまり好きじゃないみたいだけど、俺からすればただのイケメンで羨ましい。


「んーま!」

「あ、美味しい?しょっぱくない?」

「丁度いい、これ毎日食べてるタケが羨ましい」


タケ、竹津とおれが仲いいのは周知の事実だった。

そもそも竹津と幼馴染なおかげで、こんな冴えないおれがこの目の前の人気者梅原とふつうに仲良しでいられるのだ。
いつもグループ的に華やかな面々とつるんでる竹津や梅原は、のんびり静かに過ごす俺らとはすこしだけ違った。それを友達はクラスカーストだと呼んでいるけど、なるほどなあって感じ。
出し巻き卵もひょいと持ち上げて一口で食べると、ぺろり指をなめて美味しいと言う。


「なんでも美味しいって言うじゃん」

「まじ美味しい」

「勝手に食べたなら食レポしてくれる?」


くすくす笑いながら弁当のプチトマトのへたを取ってると、しばしそいつは悩む仕草をしてから「鷄と昆布の出世箱や〜」なんて一瞬理解できない食レポされた。ので、口に入れてたプチトマトが飛んでいった。汚い!と付近で騒ぎになって恥ずかしかったがそれ以上に笑いが止まらなくて、梅原天才なんじゃないかと思った。




「もう弁当作ってこなくて大丈夫」


じぶんにあてがわれた寮の部屋にはいる前に、竹津に呼び止められた。
「そっか」と頷いたおれに、じゃあおやすみと隣の部屋に入って行く竹津。なんだそれだけかよ、今までありがとうとか終わりみたいなお礼が欲しかったわけじゃないけど、なにか続く言葉を期待したおれが馬鹿だった。


ちいさい頃、竹津がおれの家にやってきては晩御飯を一緒に食べていた。

それがいつの間にか当たり前で、母がいない日にはおれが作るようになって、高校で寮生活が決まると弁当だけは毎日作っていたのに。
最近、男か?ってくらい可愛い男にアプローチを受けまくっているらしい竹津はついにお弁当を貰ったらしい。


おれ以外からの弁当が初めてで、中身もじぶんの好きなものばかりで、感動した。


そう言われた。

おまえな、毎日同じ中身だと飽きるかなと思って好きなものだけ入れるのを辞めているんだ俺は。意地悪で入れなかったわけじゃない。





「あれ?今日パンなんだ」


つまみ食いしに来たんだろう美丈夫が、おれのかじってるいちごコッペパンをみてがっかりする。

だれかに作るついでじゃなきゃ1人分の食材なんて買うだけ無駄だし、だったら菓子パンで十分だからなあ。


「今日ってか、もー作らない」

「え!?」


ぱちぱち、長い睫毛に縁取られた目をまばたかせると俺の机の横にちょこんとしゃがむ。
なんだこの可愛い生物は、思わず菓子パンを噛まずに飲み込みそうになって急いでパックのお茶をすする。言いづらそうに周りを確認してから、梅原は首を傾げた。


「タケと喧嘩したの?」


心配そうな顔をするそいつに、優しいなあと頭を撫でる。
ちょうどいい位置にあるもんだから、いつもは背の高い梅原の髪に初めて触った。ふわっとしてるのにサラサラで絹糸みたい。


「ちがうよ」

「じゃあどうして…」

「竹津にほかに作ってくれる人が出来たんだ」


恋人かとかはまだよく分からないけど、きっとそーゆー関係になり得るひと。

なりたくてもおれには一歩踏み出せなかった関係を、たったお弁当1つで持っていったひとだと、おれは思っている。毎日の積み重ねで胃袋を掴めばいつかはおれ無しじゃいられなくなるんじゃないか、なんて、ただの親代わりになっただけだった。

特別に作られたお弁当は、親代わりじゃなくて竹津の胃袋を掴んだんだろう。


「なあ末松」


おれのことを見上げる破壊力抜群の美丈夫は、真っ白な頬を赤らめながらきゅっとおれの手を握った。


「おれにお弁当作ってくれても、いいよ…」


なんで上から目線なんだよ。


「作らねーよ!」

「なんでだよ!」

「逆になんでだよ!おまえなら俺じゃなくてもファンクラブが作ってくれるだろ」


男子校のなかでこの中性的美少年は尊い存在として崇拝されていて、男でもこいつなら抱けるみたいな野郎やら抱いてくださいのほうまで多数募っている。それら総称してファンクラブなんて言っているけど、実際のところふざけているだけでファンクラブなんて無い。モテるのは確かだけど、そういうのを本人が嫌がるから からかう時だけファンクラブなんて名前を出している。


「おれは……っその、知らない人の作ったものは怖くて食べられないし」

「あー…そういう奴も居るね」


好きすぎて髪でも入ってたら怖いもんな。


「末松のなら、もう何度も食べてるし、美味しいし。おれ嫌いなものないよ?タケみたいに文句も言わない、お礼に末松のお願いもきくし」

「なに、そんなお弁当好きだったの?」


必死すぎる梅原のおねがいにふっと笑ってしまう。


「ちが〜〜っわないけど!違わないんだけど!そうじゃないんだけど!なんで伝わらないの!?」

「どっちだよ」

「好きです!!」

「わかったって」


ほんと!?なんて手放しに喜ぶから頷いて、明日から作って来てやるよというと盛大にずっこけられた。周りにいた奴らもコントかなってくらい一斉にずっこけてる辺り梅原の影響力って壮大だと思う。動画撮っておきたかったね、なんて後々みんなで話してたら梅原は嫌そうに首を振ったのでまた笑った。





(タケが戻って来るまでに)
(俺だけにしか作らせないように…)