×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
(81/85)







「もう、やえが車で迎えに出てくれると踏んでたのに、わーちゃんが喋っちゃうんだもんな〜」

「えへへ」


ひゃっひゃっひゃと笑う人物は、玄関前でさっきまで壁にすがって優雅に立ち電話していた。もちろん俺と。
そしてその隣で可愛い笑いを零した美形は、顔を真っ赤にさせたまましゃがんで縮こまっていたのだ。歩けないのは半分本当だったらしい。


「わたるどれだけ飲んだの…」


仕方なく家に招きいれたけど、お隣が人居なくて本当に良かった。夜中にうちがうるさくて壁ドンなんて、これからの生活に支障が出る。
グラスにとみりさんの買ってきたミネラルウォーターを注ぐと、ちびちび飲みながら首を振るありすちゃん。


「飲んでない、そんなに」


ちょっと酔いが醒めてきたのか、顔色も落ち着いてきた。かと思いきや ぎゅっと眉間のシワを深めるから、えっと思わず距離を取る。


「西野さんが、隣来るから、緊張して酔いまわるの早かったんだろ!来んなって!」

「あひゃひゃ、逆ギレ」

「いつもならもっと卍飲み出来たの!!」

「笑ってないで止めろよ…」


おれ怖いひと苦手なんだけど。

怒りの沸点が分かりにくい人なんて特に怖い。いつ何が起こるかわからないし、喋ることすら億劫に思って避けるほうだ。ありすちゃんはゲームの中で知り合ってなかったら絶対喋りもしなかったと思う。

どうどう、と動物園の動物を宥めるようにありすちゃんを落ち着かせるとみりさん。それを見ながら溜息をついた。


「とりあえず、もう寝たら?」


また赤くなってきたありすちゃんの顔色に、溶けるんじゃないかと思うほどだ。
コタツも良くないんじゃないかと暖房を入れてるので、掛け布団持って来るからソファーで寝ろとソファーを叩く。

「ありがと〜」

「違うおまえじゃない」

とみりさんをソファーから引き摺り下ろしてクッションを投げつけていると、目を細めてよくわからない表情でありすちゃんはコタツに潜った。こいつら…。
自由過ぎる2人に呆れて放って置くことにする。


「あしたやえ何も無いって言ってたじゃん?」

「ん〜…うん」

「3人でわたるの家片付けに行こー」


きょとん、と目を丸めた。

わたるの家、なんて情報飲みのとき一切話さなかったから。


「わーちゃん親戚が持ってた物件おねだりして譲って貰ったらしいよ」

「え、え?不動産会社かなにか?」

「分譲マンションくらいプレゼントで貰うし、そういう感じじゃない?」


知らないけど。と適当かまされても困る。

とみりさんの世界も桁が違うけど、ありすちゃん自体は桁とかなにからよく分からない。謎すぎて今コタツで丸まってる酔いどれがまた違う意味で怖くなってきた。
とりあえず朝起きたらお風呂入りに帰るというとみりさんに、ありすちゃんも連れていくよう言ったらありすは自分の家に行ったとき入るだろうと勝手に決まった。

話題にあがってる張本人は、すでに赤い顔のまますやすやと寝息を立てていて相当アルコールが効いていたんだろう。


「わーちゃんが引っ越して来るなんて、賑やかになるねえ」


そんなこと言いながら寝る気配のないとみりさんに、ただ頷き返した。
どこまでが本当なんだろうか、おれはまたこの怪奇な人物に騙されて居るんじゃないだろうか。

それは次の日に起きてきたありすちゃんの言葉で、否定される。





「う……頭痛い…寝てたい」

「起きろ起きろー」


お昼にも近い時間にやっと目を覚ましたありすちゃんは、綺麗な顔を歪ませながら体をおこす。
ぼんやりしたまま険しい顔で正面を見ているけど、頭が起きてるかは定かじゃない。


「わたるの引越し手伝いに行くらしいけど、ほんとに?」


台所のほうから話しかけると、ありすちゃんは暫く沈黙したあと頷いた。あ、本当なんだと目を丸めるおれをよそに頭を押さえて、固まる。

ギギギっと軋んだブリキのおもちゃみたいな動作でおれを見ると、お化けでもみたかの様に驚いた。


「え…西野さん!?」


西野ですけども。

自分で出した声が頭に響いたのか、片目を細めて頭に手を添える仕草をする。
そんなありすちゃんの前にインスタントのしじみの味噌汁を置くと、ふわっとした湯気が微かに見えた。


「なに、覚えてない?」


お酒で記憶飛ばすとか、おれしたこと無い。


「いや……微かに覚えてるけど、とみりは?」

「お風呂入ってまた来るって」

「……この味噌汁おれの?」

「うん」


借猫のごとく大人しくなったありすちゃんはお礼を言って、カップの味噌汁をたぐりよせる。熱いのは得意じゃないのか、ふうっと湯気を飛ばすように吹きかける姿はそれまた猫のようだった。


「とみりさんに俺も引っ越しの手伝いするよう言われてるけど、俺も行って大丈夫?」


向かい側のこたつに入れば、正面あったありすちゃんは一度こちらを見て視線を下げる。まだ熱々の味噌汁の表面を覗きながら、微かに揺れる瞳はすこし悩んでいるようだ。やっぱり新居にはあまり知らない人を入れたくないんじゃないだろうか。

咄嗟に言い訳を考えて、あいての逃げ道になる言葉を探す。


「あー…もし二日酔い酷いようなら、引っ越しの荷ほどき 明日にしなよ」

「え、」

「明日はおれ仕事だから手伝えないけど」


これで明日するといえば、おれは来れない。やんわり来ないでくださいと断れるはずだ。
たぶん頭の回転が速いありすちゃんなら、すぐ答えを出すと思って待っているのに中々返事は来ない。
眉をひそめたまま味噌汁に両手を添えた彼に、小さく呟くように言われた。


「今日がいい…手伝ってください」





←まえ つぎ→


しおり
main