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とみりさんは後で合流するということで、先に2人で片付ける予定のマンションへ向かうことになった。

カタンカタン、定感覚で揺られる電車内は平日だからなのか人が少なくて静かだ。
隣ではどこか遠くを見ながら二日酔いの気持ち悪さに耐えているありすちゃんがいて、不思議な気持ちのままおれも窓の外を眺めた。

口を開こうかな、と思いつつ、開けては閉じる。


「……なに、西野さん」


訝しいげに、ちらりと横目で睨まれた。


「いや、なにも」


睨むと言うには語弊があるか。

ただ頭痛に目を細めたままこちらを見ているのかもしれない。ただ顔が整ってるぶん、目力が強いんだよな。
なにか話そうとしてる空気がだだ漏れだったのが照れくさくて、口元を隠して咳をしてみる。けほん。

そんな俺をみて、しばらく黙っていたありすちゃんはそっぽ向いたまま話し出した。


「おれの引っ越し手伝うなんて、お人好しだよね」

「本当……いやむしろ良く手伝うの許したな、知り合って間もないのに」


新居に知らない人いれるなんて中々強い。

実際は数年間いっしょにゲームをしているけど、ありすちゃんはそんなの知らないだろうし。

行きつけになったカフェの店員さんが、自分のゲーム仲間に誘われて飲みに行って、流れでここまで来て、とみりさんが俺もと誘ったからにしても流石に新居は嫌かなと思った。が、本人が手伝ってと言うからには嫌じゃないんだろう。


「知り合って間もない、か」


ありすちゃんの少し掠れた声は、電車の音にかき消されそうで耳を傾けた。


「顔を合わせてからは、2ヶ月くらいかな」


オフ会の忘年会のときからだと、確かにそれくらいだ。うん、と返しながら流れる景色を目に映す。


「……わたるは、探し人いるじゃん」

「……うん」

「まだ探してる?」


なんてことのない、普通に谷やんなら聞きそうな感じで口に出したけど、なんだか自分から正体を明かしに行ってるみたいだ。

冷静を装いつつも、心臓の音が聞こえてしまわないようにゆっくり息を吐いた。


「見つかるまで、死ぬまで探してるよ」


なんで、とは聞かれなかった。

なんでそんなこと聞くのか、そう問われると覚悟していただけに呆気ないその答えに そっかとしか返す言葉が見つからない。
カーキのマフラーに顔を埋めたままのありすちゃんの言葉を呆気ない、と取るほどにはこの重たい言葉に慣れつつあるじぶんには驚くが。きっと冗談半分に聞いているからだろう。


「もし、その探し人が見つかったら」


俺はどうするでしょう。と、ありすちゃんが薄く笑う。


「なに、急に……クイズ?」

「そうクイズ」


かく駅で停車するアナウンスが響く中、頷くありすちゃんの横顔をみながら首を傾げた。

おれに対していま絶賛人見知り中のありすちゃんが、おれをゆゆだと知ったとき…。全然想像がつかなくて、いつもゲーム内で話している時を思い浮かべるけどデレデレでキャラが違いすぎて困る。
助さんやとみりさんみたいに仲良くとは言わないけど、爽やかバイトみたいにからかうでも良いから話ができる仲になれるだろうか。

これは解答じゃなく、願望か。


「友達になるんじゃない?」


無難な答えを出してみる。


「ぼくのゆゆちゃんへの愛を舐めてるね?」


だいぶ違ったらしい。

ちょっと小っ恥ずかしい台詞に笑ったら太ももを叩かれた。グーで、びっくりしたのと構えて無かったのでもろに痛い。


「いたたた」

「皮剥すんぞ」

「え、怖い。わたるが言うと怖いからやめて」


なんだかありすちゃんは、おれの中でぶっ飛んでるので冗談の範囲がわからない。
こうやって引っ越してきたこともだし、すぐに人へ啖呵切るのも言いたいこと口にするのも……怖いもの知らず?なんだか人種が違うなと思う。


「じゃあ、みつけてどうするの。正解は?」


じんじん痛む太ももを撫でながらそう問う。

顔が良ければなんでも許されるとは、上手くいったものだ。変なことをしても、言っても、どこか正当化されるんだから。


「軟禁する」


ほらな。また変なこと言い出した。


「犯罪だあ」

「そー」

「でも監禁じゃないんだ?」

「そー軟禁。ぼく以外と、あの子が他の人と話してるのを見るのも好きみたい」


あの子。そう言われた人物に、柔らかい女の子をイメージする。

あれ、男かなと予想してるんじゃないの?なんて聞きかけて、それは俺は知らない話だったかなと思い留まった。

ありすちゃんはちらっと横目でこっち見て、薄い唇で弧を描く。


「他の人ばかりだと、妬けるけど。あ、監視下に置きたい感じかなあ…何するのも全部把握したい」


おれが犯罪者にならないようにしてあげないと。

ドン引きしながら見つからないようにしようと心に決め、こちらを向いてるありすちゃんに視線を合わせる。あれ、と疑問に思ったことは人見知りのような仕草が一瞬消えたありすちゃんの瞳で、合わされることなかった視線がかち合うと少しだけ細められた。


バレている?のかな……。


「…わた」

「あ、この駅で降りるんだった!」

「ええ、扉もう閉まるじゃん!」


急げ!と慌ただしく席を立ってホームへ逃げ出ると、ピピーと笛を鳴らしながら後ろで扉が閉まる。びっくりした……少し弾んだ息を吸い込み、駅のホームではあっと吐き出すとありすちゃんも同じタイミングで息を吐くからお互いに「喋りすぎ」なんて笑う。

あの改札を出てすぐだからと説明して歩き出した背をみて、おれも交通カードを取り出しながら追いかけた。



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