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「パパが、なにか買ってきましょうかって」

「んー……なにも要らないかな」


卵をオムレツみたいにして、チキンライスに乗せるだけの簡単なオムライスを完成させる。
きらきらした瞳でオムライスのお皿を持つ真宙さんに、テーブルまで運んでもらいながら使い勝手のわからないキッチンを適度に片付けた。


「真宙さん、ケチャップかけなきゃ」


大きめなお皿のへりにほうれん草やトマトを置きながらそういえば、はい!と元気のいい返事をくれた。

微笑ましい。
相変わらず、料理をすることが好きなようだ。
休みの日だけ真宙さんとご飯を作る約束になったけど、パパさんが悪いですと自分の家を提供して、冷蔵庫に色んな野菜やお肉を入れておくという気を遣ってくれた。さすがパパさん。

だがしかし入れておいてくれるのは楽だが、そんな冷蔵庫ぱんぱんに詰められても全部使いきれないよ。今度からは話し合おう。


「これなんて書いてあるの」


ケチャップで文字を書く真宙さんに問う。


「西野さんです」

「やっぱりか」


四年?五年生?は、もうこの漢字習ってるんだなあ。簡単だもんな。ただちょっとケチャップで書くには画数多めだったのか、西は読めても野がもはやケチャップの塊…いやいやこれは気持ちがこもっていればいいんだ。


「ん、真宙さんのはおれが書いてあげる」


ケチャップ貸してと手を出せば、小さな両手に抱えられてたケチャップを嬉しそうに渡される。
真宙さんと同じように漢字でかけば血の海になるとわかっているので、ひらがなで名前をかくとオマケに星も付けといた。

どやさと真宙さんをみれば、思っていた反応が返ってこずにジッとオムライスを凝視しているじゃないか。
え、漢字知らないのかとか思われたのかな。ごめんね知ってるんだけどねと弁解しようと口を開く前に、真宙さんがハッと意識を取り戻してこちらを向いた。

真ん丸い大きい黒目と、目が合う。


「……あ」

「あ、あの、漢字は知ってるよ。かけ過ぎは塩分取りすぎになるから」

「…呼び捨て」


それだけ言うと、ぶわり 目に涙を浮かべるじゃないか。

え!?呼び捨てそんな嫌だったの。

まひろが駄目だったのか、遅いけどさん付け足しとくからとケチャップで小さく《さん》と書いたけどスペースが足りなくて皿に書く羽目になってほんと付け足した感半端ないけど許してください。

ごめんごめんねごめんなさいを三段活用して謝り倒すけど、真宙さんも泣くつもりじゃないみたいで「大丈夫です」と言いながら俯向くと溜まっていた涙がぽろりと零れ落ちる。

なんで。なんて、聞くよりも先に涙を袖で拭ってやると、袖を掴まれた。

「真宙さ……ん」

「まひろって、書いてもらったことあるんです」

「……オムライスに?」


掴んでたおれの袖をはなして、真宙さんは頬を緩めて笑う。

それは肯定でいいの?誰に書いてもらったの?
嬉しそうに過去を語る真宙さんにそう問いかける前に ガチャリ。玄関が開くような音が聞こえた。お互いにハッとしたように涙を拭ったり、立ち上がったり、なにも悪いことなんかしてないのに焦って玄関まで走り出る。

真宙さんも真似るように後に続いて、わあっとパパさんをで迎えた。


「「おかえりなさい!!」」

「……ええと、ただいま?」


ふたりの勢いに圧倒されるように、眼鏡を押さえるパパさん。

じぶんでも勢い良すぎる出迎えに恥じてるよ、真宙さんは年相応として可愛いで済むけど成人男性がご主人を待っていた忠犬のように飛びつくのもいかがなものか。


「ふふ、贅沢だね2人にこんな出迎えられるなんて」


のんびりコートを脱いで、部屋に入ってすぐハンガーにかける。
大人な対応にありがたみを感じつつ、今日のご飯はオムライスですよと伝えれば卵のふわふわした匂いが充満する部屋でパパさんは綺麗に笑った。

そのあと真宙さんがお風呂に入っているあいだにさっきの事をちらっと話すと「それは母親に書いてもらったのかもしれない」と、返された。今まで真宙さんが母を気にする様子がなかったから、小さいから深く理解していないのかもしれない。なんて、思っていたことを訂正する。小さくても、目も見えて声も聞こえるなら得る感情はそう変わらないか。

でも寂しそうな顔ではなかった。

確かに、頬を緩めて笑っていたのだから。








豆のスープをコトコト煮ている叔父さんの隣で、手伝うわけでもなく3時のおやつをたべていた。

みたらし団子のタレを飲んだら甘過ぎてノドが焼けたように痛くて、少し噎せる。どうして叔父さんはこんなに甘い物を何食わぬ顔で食べながらスープを作れるんだろう。不思議に思いながらお皿に戻して烏龍茶を飲んでいると、谷やんが何食わぬ顔で皿の上のみたらし団子を食べた。

要らないから置いたんじゃないのに……。

なんだこいつという顔で谷やんを見つめるが、目を合わさないようにされたので多分わざとなんだろう。


「もうすぐバレンタインだな」


そうですね、特になんの変わりもない平日ですね。

叔父の言葉に遠い目をしていると谷やんがおれをみて声を殺して笑う。なんだよ、バレンタインイベントで限定アイテム貰うからいいんだよ。


「なにか限定メニューでも考えるかあ」

「まじ!フォンダンとかチョコチャンクのピザとか、あマシュマロホットチョコも捨てがたい」


叔父の言葉に谷やんが目をぱあっと輝かせてぽんぽんと案を出す。
谷やんはもともとパテシエ希望らしい。ここのスイーツはほぼ谷やんが作っていて、飾りが一個一個丁寧だ。


「去年はフォンデュだったな」


おれが思い出しながら言うと、あれは流行ってたからやってみたけど具材切るだけでつまらなかった。と谷やんは口を尖らせる。おれは切ったフルーツ串に刺すの結構楽しかったから、またあれでも良いんだけどな。

お慈悲で残しておいてくれたんだろう団子を、一口で食べきると串を捨ててお仕事を再開した。
おれはフォンダンとかチャンクとか横文字苦手だし、世間のカフェの流行りにはまだ乗れていないのでネットで調べてからバレンタイン限定モノの話し合いに混ざろうか。


「あ、そうだ西野」

「ん?」

手にしたクイックルワイパーに紙をつけながら叔父に返事をする。


「来週ちょっと用事で、店休日とるから」

「1日?」

「あ〜…まあ2日ほど。実家に帰るけど、すぐに戻ってくる予定だ」


まあそれは、叔父の胃炎が酷く心配だ。

眉を下げて頷くと、大きな手でかき混ぜるように頭を撫でられた。
なんだか逆におれが心配されたみたいで居た堪れないが、おれは特になんの問題も抱えていない……。何も抱えていないこの漠然とした虚無感もさみしいものなので、少しは何か悩みたいものだが。

カランコロン。お客様が来店した音がする。

ハッとクイックルワイパーをおいて表へ出ると、久々にみる顔ぶれに一瞬足が止まった。


「2人ですけどー」




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