繰り返す恋
貴深子は、目の前の壊れた像を見る。先ほどなおしたはずの像が、もうすでに壊れていたのだ。
しかし、それでいい。それでいいのだ。
貴深子は、壊れた像を傍にいる人たちと一緒になおす。丁寧に、前と同じように、いや前よりもさらに素晴らしくなるように。
同じことの繰り返しであるが、貴深子にはそれが楽しかった。
貴深子は、国王に恋をしていた。正確には、国王の像に。
壊れた像を新たに作り直し、そして完成させる。また壊されて作り直し、完成させる。この一連の動作が、貴深子にとっての幸せとなっていた。
ただものを作ることの楽しさ。このうえない、素敵な像を作ることができるこの幸せといったら!
ただ笑いながら像を作る貴深子は、周りの者にとって不気味であろう。しかし、貴深子にはそんな周りの様子など気にならなかった。
完成した像を見て、貴深子は最高の笑みを浮かべる。このうえない、美しい像だ。それと同時に、貴深子はこの像に対する執着がなくなっていくのを感じた。
像に触れると、冷たい。しかし、徐々にあたたかくなっていく。貴深子の、嫌いな感覚。像は、ただ冷たいままでよいのだ。
ふと音がする。見ると、像がまた壊れていた。ああ、素敵だ。貴深子は、また恋をする。
壊れた像を見て恋におち、作っていく過程で更に好きになっていき、完成したときに深い想いを抱くと同時に好きではなくなる。それが、今の貴深子の恋だった。