元気にしたい
忙しそうな人が多い。綾子の第一印象はそれだった。
着慣れない服を着て、綾子はただ怪我をしている人たちの手当てをする。そこに、荒神とか反荒神とかは関係なかった。
「ありがとうなあ」
傷だらけの男が、綾子に言う。
「気にしないでください! 私は、ただできることをしているだけですから」
そう、できることをただやっているだけ。しかし、やはりお礼を言われると嬉しい。
「お姉ちゃんはいつも元気そうだなあ」
今度は、違う男の人が言う。
「だって、今このときだからこそ私がみなさんを元気づけないと!」
綾子は、握り拳をしながら力説する。
「元気な私が、みなさんを元気にするんです。それが、私のできることなんです」
今度は、穏やかな顔で綾子は言う。
そうか、と傷だらけの男はつぶやき、あとは綾子のされるがままとなった。
すでに包帯の巻き方を覚えた手は、するすると動いていく。優しく、包み込むように手当てをする。
「あんたも、大事な人をなくしたんじゃないのか」
心配そうに言ってくる。自分も怪我して大変そうなのに、綾子の心配をしてくるのだ。
「そうですが、今私が悲しむ時ではないのです。悲しむのは、後でもできますから」
今は、みなさんを元気にしたいんです。
しっかりとした意思で、綾子は行動する。願いは、悲しんでいる人たちを元気づけること。今は治療を行っているが、必要ならば道化になろう。必要ならば彼らの盾になろう。必要ならば、遊びの相手になろう。こんなときだからこそ、笑顔は必要なのだから。
「はい、できました!」
包帯を巻き終え、綾子は笑顔で言う。ありがとうと言う男に、綾子は気を付けてくださいね、と返す。恐らく、彼は再び荒神一派と戦うだろう。綾子は止めはしない。
なぜなら、今の彼は笑っているから。笑っている人を止めることは、綾子にはできないから。
願うのは、ただ再び怪我をしないこと、死なないこと。難しいことではあるが、それが綾子の彼に対する願いだった。
そして綾子は、また包帯を巻いていくのだった。