飽き反芻

飽き反芻_痛みと愛と呪縛 | ナノ
痛みと愛と呪縛


―パシャッ

ジクジクと痛む手と髪から滑り落ちる水分に水をかけられた事を理解する。
どれくらいの時間意識を飛ばしていたのか。はたまた一瞬だったのかは分からないが、
また、始まるのかと身を強張らせた。

―眩しっ

何日ぶりかに光を目にしてあまりの刺激に目を閉じた。
と言っても普通よりも大分暗いのだけどそれでも何日も暗闇の中にいた私にとっては、
太陽の日にも匹敵する明かりのように感じた。

「食べるね」

そう言って彼は床に水とよくわからない白いスープのようなものを置いた。
ここに来てから食欲なんて出ないくらいの痛みと苦痛を感じ、
意識を失ってはその行為は繰り返されすっかりと忘れ去られていた食欲だが、
目の前に置かれた食べ物を見た瞬間胃の中が気持ち悪くなる感覚と共に食欲が湧いてくる。

「 手が、、、っ」

そう、差し出されたものの私は椅子の上に座らされ、手と足は拘束されている。
そう言おうと彼の顔を見た。

―綺麗。いっそのこと豚みたいな奴ならよかったのに

そう、こんなに酷い事をされているにもかかわらず、
何故か時折彼のセリフに対してトキメキのようなものを感じる自分が嫌でストックホルム症候群なのか、
もしくは恐怖のドキドキで吊り橋効果的なものなのかと自問自答していた。
まだ、顔も見たこともない相手なのだ。
相手が不細工だったら嫌悪感に苛まれるのだろうなと思っていたのだけど。
男性にしては少し低い身長と切れ目だがどこか幼さを少した顔の骨格、だけどシャツからでた腕は細いながらもしっかりとした筋肉がついている。

「これでいいね、食べるよ」

拘束されていた手と足が解放されて、与えられた水とスープを食べようと椅子に手をつけば、痛みが走り
チラッと見るとそこには両手ともに指が三本しか付いていなかった
今まで目隠しによって感覚と彼から与えられる自身の状況しかわからなかった。

ドクドクと心臓が早る。

―もう戻ってこないんだ。

此処で泣いたって仕方ないが薄らと涙が滲む。
それを隠すように床にあるコップの水をゆっくりと飲みこんだ。

「まだ死なれたら面白くないね」

―あぁ、私は彼によって生かされている。

そう考えると背中がゾクッとする感覚を覚えた。
それは、これからも続くはずのこの痛みや体を失う事への恐怖なのか。
私は分からなかった。

涙を我慢しながら啜ったスープは鉄の味がするシチューだった。


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bkm
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