飽き反芻

飽き反芻_痛みと愛と呪縛 | ナノ
痛みと愛と呪縛


ゆっくりと咀嚼しながらパンを食べ進めて30分まだ半分程残っているが小さくなった胃はそれ以上入らないのか。お腹が満たされた感覚になる。
そして、持っていたパンの沈んだコップをキッチンの台の上に置いた瞬間。コトッという音ともに自分の首にチクッとした痛みを感じた。

「なぜ生きてるね」

心臓が高鳴る。煩すぎる音に連動して手がカタカタと震えているのが手が添えられているコップの中の水が揺れる様子でよくわかる。
後ろから聞こえる声は、あの部屋で聞いていた彼の声に間違いないが、初めて聞いたあの日のように鮮明に聞こえて、男性にすると少し高めだが威圧感のある地を這うような音に聞こえる。

先程洗ったばかりの肌を血が流れていくのがわかる。

「私にもわからない」

震えているからだろうか、声も微かに揺れている。そして、彼の顔が自分の耳近くに来たことが彼の吐息と髪でわかる。

「ささと逃げれば同じ思いをせずにすんだね」

と言った彼はきっといつもと同じ凶器で満ちているのだろうと想像するだけでゾクゾクとした。
そして、気づいたのだ。

私は逃げようなんて微塵も考えていなかった。

決して彼になぶられて拷問されたいわけではないが、ふとした瞬間のこの感覚が捨てられない。彼が今私しか見ていないと思うとそれもうれしくて仕方ない。なんてことだろうか。今まで付き合った人もいたが、これほどまでに全てがどうでもよくなって、どんなことをされても離れられないと思った相手などいなかった。
とてつもなくむなしくなる。

―絶対にかなわない恋と言うかこの人に人を好きになるなんて感情存在する訳ないわ

と思いながらもそれでも今の自分に彼から逃れられる方法はないのだ。

彼は何も言わずに立ちすくむ私に腹が立ったのか髪を乱暴にひっぱり床に放り投げ、手を背中に回して私の背に乗った。背に回された手はゆっくりとひねりあげられ、ゴキッと音を立てて折れた。

「っーーーーーーー」

慣れたものだ。まだ優しい痛みに声を上げずに耐える。人が苦しむ様を見るのが好きな彼だ。悲鳴を上げれば彼を喜ばすだけそう思って今までもこうやって耐えてきた。彼がその声や表情が好きなことも知らずに。

「ワタシの念が原因か」

小さくつぶやいた彼の言葉は至近距離にいた私に届いたが聞きなれない単語にどういう意味か全然わからない。だが、彼は何か納得した様子で私の上から退いたかと思うと髪を鷲掴みにして引きずりながらいつもの部屋に歩いていくのがわかる。そして、また何時もの椅子に座らされ手足の自由を奪われる。
だが、初めて座ったあの日と違い、焦りや恐怖だけではない、それだけではないのだ。

―興奮する。

折られた腕は痛み、心臓がドクドクと波打ち刺さるような彼の視線とこの雰囲気にとてつもなく興奮するのだ。もうこれは、私の精神が可笑しくなったなと他人事のように思った。

「どんな能力つかたね」

そう言った彼は、心底楽しそうにペンチのようなものを持って私に近づいてくる。能力って何のことなのか。いや、生き返ったことを言っているのだろうが生憎私には自分が生き返った理由なんて皆目見当もつかない。

「わ、からない」

緊張と詰まる呼吸で少し途切れる言葉に彼の口角はキュッと上がる。

「いいね、身体に聞くよ」

あぁ、そうだ。
私はこの彼の表情とそして、あの死に際に見た少し悲しみに憂いた彼の顔がたまらなく


好き


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