飽き反芻

飽き反芻_痛みと愛と呪縛 | ナノ
痛みと愛と呪縛


頭がボーっとする。全身が気だるい。痛みが薄い。息が荒れる。肺が痛い。
今まであった痛みが嘘のように薄らとしか感じられず、
意識がぼんやりとする。

「ハッァハッァ、、、、」

ゆっくりと呼吸したいにも関わらず鼓動は収まらず、
無意識に肺が膨張と収縮を繰り返し、首を絞められたあの時のようにヒュッという音がたまになるのだ。
敗血症にかかったのだろう、これだけの傷を手当てもせずに過ごしたのだ。
いくら傷口を毎回焼かれて幾分か感染症にかかりにくいようにされていたといってもこうなることは時間の問題だったのは間違いない。

「もう駄目ね、こうなったら終わりよ」

と呟いた彼は今までで一番悲しそうな音を奏でた。
とともにあぁ、自分はもう死んでしまうのかと何とも他人行儀な事を考える。

フッと彼の顔を見たくなって見上げてみると、
少し憂鬱な顔をはらんで狂気に満ちた笑みを浮かべている。

―いいもの見れた。

何を死に際に考えているのか、
笑った彼の声と表情は私をドキッとさせて、中高生の頃の初恋を思い出させるようなものだったが、
今の彼の顔程私を興奮させるものは今までなかった。

思わずふっと笑いがこみあげて口角が上がった瞬間。

彼が私を抱きしめた。


―えっ


彼が何を考え私を抱きしめるのか、
それは、きっと好きだとかではないであろうし、
私にはその意味は分からなかったが、
私を困惑させ、こんな仕打ちを受けたにもかかわらず彼を愛しいと思わせるには十分だった。

今までストックホルム症候群やなんだと言い訳してきたことを一気に吹き飛ばす勢いで、
死ぬことはもう怖いとは思っていないが、
彼のこの腕の中を堪能できる時間が少ないかと思うと少し残念な気分になる。


「美しいね」


微かに聞こえた彼の声に体が熱くなるのを感じた。
それと共に胃から何かがせりあがってくる。

「ゴフッ」

―血

彼の服と私の肌が赤く濡れている。

そして、彼の手が私の腸を撫でている。

もう痛みは感じない。


腹の中にある彼の手の異物感。そして、本来感じることのない場所に彼が触れているという幸福感。


―あぁ、案外幸せな死なのかもしれない。



私の意識はブラックアウトした。




prev next

bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -