まいすいーとはにー



とっても珍しい我が彼氏の完全オフの日に、彼のお家に招かれた。
男の子の部屋にお邪魔するなんて、何も考えずに全力で遊べていた小学生の頃以来なものだから物珍しさに落ち着きが無くなってしまう。そういえばご家族は、ときょろきょろ視線を動かしていると、余程分かりやすかったのか「今出かけてる。兄さんたちは元々あんま家に居ないし」と短く返ってきた。な、何も言ってないのに。

彼の部屋に足を踏み入れてもしばらく挙動不審のまま。こんな機会滅多にないから、と部屋のあちらこちらに視線をやって、脳裏に焼き付けておく。……予想はついていたけど、私の部屋より綺麗だな。何だか負けた気がして少し凹んでいると「視線がうるさい」と一喝された。すみません。

その一喝の後は何とか平常心が戻ってきた。この前の試合の話とかをしながらのんびり過ごしていると、ふと彼の視線が私へと一点集中していることに気がついた。なんだろう。普段から口に出さずに目で語ることが多い人だけれど、こんなにブレない視線を浴びるなんて滅多にないから少しびっくりしてしまった。何か変なこと言ったっけ?でも、試合凄かった、みたいなことしか言ってないしな……。むむ、とひっそり考え込むと、友人から聞いたある言葉を思い出した。

『佐久早は家族みんな忙しくて一人でいること多かったからさ〜』

彼の従兄弟であり私の友人である古森くんから、いつだったか話の流れで聞いた何気ない一言。その時はへえ、で済ませてしまったけど、今考えるとすごく重要な情報だったのではないだろうか。もしかして、とじっと見つめてくる聖臣に視線を移す。
この視線はまさか、褒められ待ちだったりする……!?甘えることに慣れていないから、求め方がよく分からずにこうなってるってこと!?
考えすぎなのかもしれないけれど、試合凄かったね、と話からこの視線だし、有りうるのでは。見つめ返した真っ黒の瞳は相変わらず真意が読めないけれど、行動に移してみる価値はある。ぐっと拳を握りしめて、聖臣に近づいた。
 
「聖臣すごいね、頑張ってる!かっこいいよ!!」
 
そう言って立ち上がり、聖臣が何か反応する前にそのふわふわした頭を撫でた。普段とは逆に、私を見上げる形になった彼は目を丸くして、ぱちりとゆっくり瞬きをした。とりあえず力強く頷いてみる。そのまま彼の反応を待ったが、ただ無言の時間が続いて流石に焦りが出てきた。ど、どうしよう。怒ってたりしてないよね?ゆっくりと彼の頭を撫で続けているが、そろそろ振り払われたりしないか心配になってきた。止めた方がいいのかな、どうなんだろう……!?

「……そう」

ぽつりと小さく返されたリアクションは否定の言葉では無かった。ぴくりと手を震わせ、慌てて彼の表情を窺う。普段はマスクで隠れていることが多い口元がほんの少し、ほんの少しだけ緩んでいて、頬もちょっとだけ赤みが増しているような気がする。私を上目で見つめたまま、されるがままになっている彼がいつもよりずっと幼く見えて、胸にぐわっと込み上げるものがあった。やばい、なんだろうこれ。なんかすっごい、

「き、きよおみ」
「?」
「かわいい!!」
感情のまま彼の頭をわしゃわしゃと撫で回す。私よりずっと身長が高くて、筋肉もあって、普段は威圧感さえある聖臣がこんなに可愛いなんて。他に誰が知っているんだろう。クラスの皆は絶対知らないんだろうな。この可愛さをみんなに分かってほしいような、誰にも見せたくないような、色んな思いがごちゃ混ぜになって、もっと聖臣の頭を勢いよく撫でた。流石に怒られた。



後日、「よお、佐久早とは順調?」と声をかけてきた古森くんに「最近は聖臣に"萌え"を感じたよね……」と返すと、「はは、感性ぶっ飛んでんな〜」と笑われた。そこまで言う?





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