つまるところ君だけ




「きゃ〜!五色くんナイスキ〜!」
「かっこい〜!!」

「…………」
「文句あんなら帰るぞ」
「待って下さい白布様、一人じゃ耐えられません」
「ならその負のオーラどうにかしろ」

 俺たちの代が白鳥沢を卒業して少し。あのおかっぱ小僧も3年になり、白鳥沢学園を背負って立つポジションについていた。
 隣で顰めっ面をしてその新主将を見ているみょうじは、俺たちの同級生であいつの彼女にあたる。次の試合を一緒に見に行ってくれないか、としつこいくらいにせがまれ、ギチギチに詰まった教養科目と早くも点在する専門科目の隙間を縫ってお供してやったわけだが。こいつは白鳥沢優勢、五色も大活躍のこの状況に似つかわしくない表情をして雰囲気を悪くしていた。

「見てください、五色くんは可愛いギャラリーからちやほやされてご満悦ですよ」
「お前もちやほやすりゃいいだろうが」
「それは……その……。いざやろうとすると今更感があって恥ずかしいというか……。白布もそうでしょ?」
「一緒にすんじゃねえ」

 そう言っている間に、ボールが勢いよく地に叩きつけられる音が響いた。まあまあストレートの調子も悪くないらしい。みょうじもその様子を見てぱあっと顔を明るくしたかと思えば、直後に湧き上がる黄色い歓声にまた沈んでいた。忙しい奴。

「ほんと、一学年の違いなんてないようなもんだって思ってたけどさあ。こうやって高校生と大学生になっちゃうと大きい壁なんだなって。……若いっていいなあ」
「なに達観したような顔してんだよ、1年前は俺たちもああだったんだぞ」
 
 みょうじは白鳥沢の制服を着た女子たちをちらりと見やって溜息を吐いている。もういちいち構ってられないと、隣の女の存在を意識の外に追いやってコートの中に集中した。

 
 試合は白鳥沢の勝利で終わった。まあ、よくやっていたと思う。「部員に声掛けに行くぞ、監督にも少し挨拶していきたいし」と告げ、あれだけ穏やかでない顔をしていたくせにそそくさと帰ろうとするみょうじを連行して部員の方へと足を進めた。

 
「あ!なまえさん!……と、白布さん……」
「俺がいたら不都合でもあるのか?」
「イエ、全然!!」

 五色は恋人を視界に入れた途端、尻尾をぶんぶん振っている幻覚が見えるくらいに浮かれていたが、隣の俺に気付いて頬を引き攣らせていた。何か小言を食らうとでも思ったのだろうか。お望みなら思う存分食らわせてやりたいところだが、今日こいつに構わなければならないのは俺ではない。「白布さん、」と丁度声をかけてきた後輩セッターに向き直り、試合についての話をする。

 
「なまえさん、今日の俺どうでしたか!?」
 
 声がでかい。別の奴と別の話をしてても余裕で耳に届くその声に、少しだけ意識を持っていかれてしまった。
 
「いや、まあ……良かったんじゃないの……」
 
 みょうじは声が小さい。あれだけ五色を輝かしい目で見て、嫉妬心をありありと出していた奴の吐く台詞がそれだけか。
 また面倒臭く拗れるのでは、とちらりと奴らに視線をやる。するとどうだろうか。五色は試合中、大勢のギャラリーの歓声を浴びている時よりも頬を紅潮させ、目を輝かせて口角をゆるゆると上げていた。喜びのオーラが全身から滲み出ていて、またピンとたった耳と尻尾の幻覚が見えるようだ。
 
「〜〜っ!ありがとうございます!!また次の試合も見に来てください!俺、もっとかっこいいとこ見せますから!」
「えっ、いや次は、ちょっと……」
「先輩が見てくれてるって思うと、俺調子いいんですよ!……だめ、ですか?」
「う……べ、別に、いいけど……」
「やった!俺、頑張りますから!」
 
 より一層声がでかくなった。あの一角だけ試合の熱気とは別物で、空気が熱い気がする。返答がつっかえていた俺を不思議に思ってか「白布さん?どうかしました?」と後輩が首を傾げる。俺は二度とみょうじと2人では試合を見に行かないと心に決めて、「悪い、」と話を再開した。
 付き合ってられねえ。精々末永く幸せに馬鹿やってろ。






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