人狼は天使の顔をして潜む




 吹雪くんは人たらしだ。
 甘いルックスに柔らかな喋り方。加えてそれに似つかわしい優しい性格を持つ彼は、基本的に人を嫌うことがない。"みんな大好き"を地で行く彼は、自分から敵を作るようなことはしない。勝手に嫉妬の的になることはあるだろうけど。いっそ嫌味なほどに博愛の王子様である彼だが、その"好き"に差異はあるんだろうか?この人はこれくらい好き、あの人はこうだから好き、みたいな。一度考えたら気になってしまって、軽く本人に聞いてみることにした。


 「そうだなあ……。キャプテンは暖かくて好きだし、染岡くんや豪炎寺くんはかっこよくて好きだよ。僕の憧れさ。木野さんたちは可愛いし、頼りになるから好きだな」

 すごいなこの人。にこにこ笑いながらいとも簡単に答えていく吹雪くんに、思わず圧倒されてしまう。言わせたのはこちらだが、澱みなく流れる褒め言葉に私の方が恥ずかしくなってきた。吹雪くんは当たり前のように『好き』という言葉を使うから、それで勝手に恥ずかしくなっていることにも恥ずかしくなってくる。恥ずかしいの無限ループだ。

 「もちろん、みょうじさんのことも好きだよ」
 「うっ……。そ、そう。ちなみに、どれくらい?」

 綺麗な声で私に向けて発射された『好き』に、明らかに同様してしまった。なんだ『うっ』って。食らっているのが丸わかりで恥ずかしさも三乗だ。しかしここで押し黙ったらいかにもな敗走である気がして、もう一歩踏み込んでみた。褒めてほしいとか、そういう気持ちもないわけじゃないけど。

 「うーん、そうだなあ……」

 吹雪くんは私の目を見つめて、考えるように押し黙った。さっき言ってた秋ちゃんたちみたいに、可愛くて頼りにはならんのかい、私は。何を期待していたわけでもないが、肩透かしを食らった気分でちょっとモヤッとする。……いや、私は一体何を期待して。
 そうしているうちに、気付けば吹雪くんはこちらにずいと身を乗り出してきた。うわっ。整った顔が近くに来て、思わず目を丸くする。そんな私と対照的に、吹雪くんは目を細めて、妖しげに口角を上げた。

 「たべちゃいたいくらい、すき」

 狼に狙われた小動物って、こういう気持ちなんだろうか。息が詰まってどうしていいか分からないのに、吹雪くんから何故か視線を逸らせない。笑った口元から僅かに覗く犬歯が、いやに鋭く見えた。たべられる。本能的に、そう思ってしまった。
 なんてね、と、そこでようやく吹雪くんは体を元通りに離した。彼は普段のような柔らかな笑顔に戻っている。もちろん、狼のような鋭い犬歯もない。そこでようやく解放されたような気分になって、ふっと止めていた息を吐く。なんで本当にたべられるなんて思ってしまったんだろう。なんで、なんでこんな気持ちに。心臓がとんでもなく暴れているのは、息を止めていたせいだと思いたかった。





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