Ti adoro




!GO軸不動さん ヨーロッパチーム所属という情報から、イタリア語(翻訳頼り)を喋らせています



 「酔ってたんだよ」
 海の向こうにいる恋人は、電話口で開口一番そう切り出した。

 「……え?」
 「久々の快勝で、チーム全体が変に盛り上がって珍しく飲んだんだよなァ。その帰り、狙ってたかのように記者がいやがって……」
 「いやあの、」
 「シラフでやるわけねーだろ。お前が困ったら面白いなって、ちょっと過ぎったら――」
 「ちょっ、ちょっと待って。本当に何の話?」

 普段より随分と小さな声で、苦々しげに語られる謎の経緯説明に、ついていけずに思わず遮ってしまった。何かに対しての言い訳のようにも聞こえるが、特に言い訳されるようなことの心当たりが無い。私の制止を契機に、それまでつらつらと流れていた彼からの言葉もピタリと止む。若干の沈黙の後、明王はぽつりと呟くように零した。

 「……まだ流れてなかったのか」
 「何が?」
 「いいかなまえ、今のは全部忘れろ。そっちまで広まらないならそれに越したことはねえ」
 「えっ、いや無理」
 「忘れろ。知らなくていいこともあんだよ」
 「絶対良くない話じゃん、ちょっと!」

 直後、耳に入ったのは機械音。切られた……。
 勝手に謎の言い訳をして、こちらに情報がないと分かったら『忘れろ』と言い残して、終話。久々の横暴さというか、マイペース振りを食らって思わず苦笑が漏れた。
 しかし彼は何に対してあんなことを言っていたのだろう。私に弁明するということは、私に少なからず関係があるということだ。そして彼のあの口ぶりからすると、彼にとって相当都合が悪いことでもあると思われる。
 それ、女性絡み一択なのでは?
 サッカーで上手くいかない日があっても、正直私には関係がない。というか、そうだったら明王は絶対私に言い訳なんかしてこない。となると、もう女性絡みしかないだろう。例えば……欧州ブロンド美女とワンナイト、とか……!?な、無いとも言い切れない。明王は現地でも熱狂的なファンがいるって噂だし、『酔ってたんだよ』と言っていた。お酒の勢いで、現地の美女とこう……そうなっちゃった前後をパパラッチに激写されたって話なのでは……?

 「お、終わった……」
 私の絶望の呟きは誰に拾われることもなく、ひっそりと部屋の壁へと吸い込まれていった。
 

 
 それからというもの、暇さえあれば『不動明王』で検索をかけた。いくら私にとって絶望の情報である可能性が高いとはいえ、実際に見るまでは確定ではない。シュレーディンガーの浮気だ。使い方合ってるのか知らないけど。そしてもしそれが真実だった場合、有耶無耶にしようとした明王にも納得いかない。最後に一発お見舞いしてやりたいのだ。
 ヨーロッパリーグで活躍している彼は、現地でのコアな人気から、要らんことまで詳細に報道されることで知られている。それでも海外発の情報なので、日本に届くまではラグがあるし、全てがこちらに入ってくるわけではない。特にそれらしい情報は見つからないまま、やきもきした気持ちだけが続いていった。
 彼の名前がニューストップへ躍り出たのは、彼のあの電話からちょうど一週間後のことだった。遂に来てしまった……。彼の名前だけを認識して、ろくにタイトルも読まずにその記事をクリックする。さながら断頭台に立つ罪人のような気持ちだ。なんで私の方がこんな目に……。読む前から滲んできた視界を抑えるように乱雑に目元を拭って、スクロールバーを操作する。なに、映像まであるじゃん……。ちょっと迷ったけど、ここまで来たら全部見るしかない。再生ボタンにカーソルを合わせ、記事を読み進めた。

 『ヨーロッパで活躍するサッカー選手の不動明王(24)が、自身の恋人について語った。
 先月末頃、不動と共に彼の自宅へ入る日本人女性を捉えていた現地メディア。不動本人に関係性について突撃取材を行った映像が残されている。=映像=
 
 「La mia fidanzata. あー……Amore mio?」
 
 上機嫌でやや頬を染め、少年のように屈託なく笑う不動の姿は、現地で大きな話題となっている。
 この報道を受けイタリアリーグで活躍していた経歴があり、不動と古くから親交のある帝国学園総帥・鬼道有人(24)に本紙記者が独自取材。忙しい中ではあるが、不敵に笑い一言こう答えてくれた。
 「彼女のプライバシーもありますので、多くは答えられませんが……奴は、気に入ったものには意外と執着するタイプですよ」
 破天荒でマイペース、だが人を惹きつける魅力のある不動から、プレー共々今後も目が離せない。』


 その衝撃に、思わず椅子の背もたれに寄りかかり、ずるずると下へ落ちてしまった。映像の中で現地の記者が差し出していた写真に映っていたのは、間違いなく彼と私の姿。先月末に明王の元へ訪れていた時の様子だ。
 予想外の方向から来たパンチに、空いた口が塞がらない。一人勝手に落ち込んでいた分、異常な急浮上に脳が追いついていなかった。熱に浮かされたような頭で明王の苦々しげな言い訳を思い出し、そりゃあシラフになったら恥ずかしいよなあ、と納得する。でも、『酔ってるから』ってそれ、墓穴なんじゃないの?椅子から半端にずり落ちた姿勢のまま、何とか動かすことが出来た目線で初めて直視したタイトルには、『不動明王、盛大な惚気!日本の恋人について語る』と書いてあった。

 
 ◆
 
 
 「久しぶりだな、不動」
 「こっちでもお前の話はよく流れてたから、映像では見ていたが……実際に会うのは久々だな。飲みにでも行くか?」
 「遠慮しとく。お前らが言いたいことなんて大体想像つくんだよ。……つーか随分と勝手に答えてくれたなァ、鬼道クンよォ」
 「俺も流石に驚いてな。面白……興味深くてコメントせざるを得なかった」
 「面白がってんじゃねえ!佐久間も止めろ!」
 「あの映像、随分とご機嫌だったな。可愛い彼女が自慢できて嬉しいか?」
 「上機嫌なのも頬が赤いのも、アルコールのせいだっての!」
 「そうだな、アルコールが入らないと言えない本音ってあるからな」
 「妙な納得してんじゃねえぞ!マジでこの話でずっと引っ張る気だろ、絶対行かねえからな」
 「……Amore mio」
 「テメェ!!」





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