焦がれ焼け落つ




幸村さまの御髪が好きだ。
 
こちらを振り返る時に後髪がふわりと揺れる様も、御館様と拳を交えている時に跳ね回る様も、何故だか目を奪われる。
でもきっと、その後髪が一番映えるのは、戦火の中なのだろう。燃える槍を振るいながら、縦横無尽に戦場を駆け巡るその身に呼応するように、赤い鉢巻と共に揺れる御髪を見ることができたならば、どれほど幸せなのだろう。まして、それが最期に見る景色ならば、どれだけ。
 
けれども、私はそこへは行けない。どこまでいっても非力な女子で、音に聞く加賀前田の妻のようには到底なれやしなかった。
それならば、と手を伸ばす。

 
「……?どうかしたか、髪など触って…」 
幸村さまの背に伸ばした手で、さらりと長い後髪を撫でる。束ねられていないそれは、普段よりも随分と軽いものだった。

「……綺麗だと、思って」 
思ったままを口にすると、見上げた彼の顔が訝しげに歪められた。
 
「男の髪など、触って面白いものであろうか……?傷んでおろうし、到底綺麗とは言い難いだろう」 
むむ、と唇が引き結ばれて、心底不思議そうなご様子だ。それが何だか可愛らしくて、笑いが込み上げる。
 
「ふふ、私にとってはこの上なく綺麗なものですよ」
そう言って再び髪に指を通すと、幸村さまは少し頬を赤く染めて、唸るような声を小さく上げた。
 
「ぐ、わ、悪い気はせぬが……。斯様な場で、あまり俺の髪ばかり愛でられるのも、複雑な気持ちなのだが」
「あら、お嫌いでしたか?」
「悪い気はせぬと申したであろう!ただ、その、」 
からかうように口を挟めば、大きな声で返ってくる。それに微笑む余裕があったのは一瞬で、握られた手首に僅かに強くかけられた力と、ぐ、と近づいた御顔に、思わず息を止めてしまう。

「……俺は、あまり気が長くない故」

ああ、ああ、これがほしかった。
はらり、と滑り落ちる束ねられていない髪と、戦場とは違う焔を覗かせた瞳。戦場で輝くそれを見ることが出来ぬのならば、これを最も長く見つめ、触れることができるのは、どうか私であってほしいと願わずにはいられなかった。
どうせなら、このまま死んでしまいたい。彼の炎に焼かれて、もうなにとは分からぬままに。そんな邪な思いを抱えながら、近づく焔に目を細めた。





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